第82話(第二章第40話) 厄介者4
~~~~ ライザ視点 ~~~~
セツの言葉が
――あなたは、あなたを傷つけた人と同類になった――。
わーは気づいていやがりませんでした。
わーと同じ立場の人を増やしたかった。
一人じゃねぇんだって安心したかった。
その思いが先走って、あいつにされて一番嫌だったことをわーもやっていやがりました。
知らず知らずのうちに、わーはあいつと同じになっていやがったんです。
まさか、わーが、わー自身が最も嫌っていた存在と同類になっていたなんて……っ。
もう、自分が信じられねぇです。
自分の身体を抱きしめて、わーは震えていました。
そんな時です。
背中から何かに包まれたのは。
それはとても、温かい感じがして……。
「……つらかったと思うの。大好きなものから裏切られるのは」
「っ! うぐ……っ!」
それは、マーチで……。
わーはマーチに抱きしめられていました。
あんなことをしたわーに優しくしてくれたのは、わーに同情してくれたからでしょう。
わーの気持ちを慮ろうとしてくれたことが嬉しくて、わーはむせび泣いていました。
その間マーチはずっと優しく包み込んでくれていましたが、セツの方は難しい顔をしていました。
しばらくしてわーの状態が落ち着くのを待っていたマーチが言ってきました。
「ライザ。うちのパーティに来るの。一人にしておけないから」
「っ!? で、でも……!」
まさかの提案にわーは引っ繰り返りそうになるほど驚きました。
わーのしたことを思えば、パーティに誘われるなんて考えられなかったんです。
わーはハッとして、ちらっとセツの方を窺いました。
少し離れたところで、釈然としないといった様子でこちらを見ている彼女。
こんな雰囲気でパーティに加わるのは不味いんじゃねぇか!? って思っていると、マーチがわーの考えていることを察して先んじます。
「お姉さんはライザのことを許してないわけじゃないと思うの。誰よりも優しいから。だけど、ボクに迷惑を掛けたって感じてるから、簡単に許しちゃボクに悪いって考えてる、そんな気がする。あの人は自分よりも仲間の方を優先する、それはこれまで一緒にやってきてわかったことなの。まだたったの二週間くらいだけど」
「……っ」
マーチはセツのことをよくわかっているようでした。
たったの二週間。
それでも通じ合えている二人を見て、わーはそんな資格なんてあるはずがねぇのにこんなことを思っちまいました。
――二人の関係が「羨ましい」――って。
強く思ったそれは、言葉に出てしまっていたようです。
マーチに聞かれていて、彼女は遠くを見るようにして口にしました。
「……本当、ボクは恵まれてるの。お姉さんに逢えたのは奇跡といってもいいくらいに。ヘルギアを無理やり取られて足を動かせなくなっちゃったけど、お姉さんがいるから、ボクは前を向けている。毎日が楽しいの」
「……は? 今、なんて……っ!?」
「……あっ」
このあと、わーは聞かされました。
――マーチがゲーム中に、実の妹に無理やりヘルギアを取られて下半身を動かせなくなって入院していることを。
……ふざけんじゃねぇですよ。
よく知りもしねぇで何が、羨ましい……、ですか!
確かに『
ですがそれは、
――発売当初のこと。
わーは調べて知っていました。
全世界で累計販売数35億個を突破したゲーム機『DtoD』には発売当初、ある問題がありました。
それは、ゲームをしていた人が何故か記憶障害になったり、人格が崩壊したり、身体の一部または全体を動かせなくなったという事例が発生したことです。
数を売っている割には被害の数は少ねぇ印象でしたが、『DtoD』を開発したゲーム会社・
各国に置かれている支社に回収・調査を命じて原因を究明しました。
問題は、ゲーム中に無理やりヘルギアを取ることで発生している、と。
ゲーム中にヘルギアを取られたら必ず脳に障害が生じるっつーわけでもありませんでした。
むしろ、起きるのは非常に稀なケースだったんです。
それでも、ゲーム会社DGはそれを放置なんてしませんでした。
①ヘルギアがなんらかの拍子で外れてしまわないように安全装置を取り付ける
②子どもが熱中しすぎて日常生活に支障をきたさないようにゲームができない時間を設定できるようにする
③カメラを搭載し、AIが現実においての緊急事態を察知した場合、ゲームを中断して現実に戻す
それらの措置を施して、回収されていたゲーム機は一年以内にその全てが返却されました。
また、被害者にも真摯に対応したとのこと。
それでこの会社の株は上がったとか。
……話を戻します。
簡単には外れねぇように改良されていたヘルギア。
それを外したっつーことはかなり乱暴にやったっつーことになります。
要するにマーチは、
安全装置が施されているのにヘルギアを外されてしまったこと
それもAIに緊急事態だと判断される前に
そして、必ずしも問題が発生するわけじゃねぇのに脳にダメージを受ける確率を引き当ててしまったこと
それらが重なって下半身不随になってしまっていたんです……!
35億個を売り上げて、開発元が把握している事故の数は154件。
分母が35億だと考えると大体2,500万個に一件か二件という計算になります。
開発元が把握できている数に限られてるので実際にはもっと多いかもしれねぇですが、嘘をついたら会社の信用にも関わってきますし、発表されている数と実際の数が大きく違ってるってことはねぇでしょう。
開発元は保証をしっかりと行うって宣言もしてますから、把握漏れの可能性も低いと考えられます。
多く見積もっても1,000万分の一……。
それをこの子は引き当ててたなんて……っ。
……この子、わーの比じゃねぇです。
この子に起きたことに比べたら、わーが受けたことなんて、つらいっつーのがおこがましく思えてきました。
それなのにわーは、つらいだの、不幸だの騒ぎ立てて……っ。
……セツがわーのことを「許さない」って言ったのも納得です。
それでも目の前のこの子は、自分のことを不幸だなんて思っていなくて。
その姿を見て、わーは思い直しました。
自分のことを不幸だと自分自身で決めつけるのはもうやめようって。
まずは一歩、踏み出そうと思います。
「……
マーチが笑顔で、セツは溜息をついたけれど、それでも受け容れてくれて。
こうしてわーは、この人たちの仲間に入れてもらいました。
……………………
ちなみにこのあとすぐ、わーがあいつだと思い込んでいた子が人違いだったと判明して謝罪しに行くことになりました。
その子、女の子にしか見えなかったんですが、実は中学生の男の子だったんです。
お、男の子に見えねぇ……。
あいつは女なんで、別人確定……。
完全にやらかしてやがりました。
この分だとわーのやらかしはもっと多い気がしやがります……。
この男の子に関しては、取り返しがつかなくなる前に止めてもらえたことが唯一の救いだったと考えられなくもねぇのかもしれません。
……この子たちにも迷惑を掛けたんで償わねぇといけねぇですね。
―――― 第二章・おわり ――――
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