第80話(第二章第38話) 厄介者2

~~~~ ライザ視点 ~~~~



「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」


 息が、苦しくなりやがります。

 胸を押さえてなんとか肺に酸素を送り届けました。


「なんで、なんであいつがここに……!? 今度はゲームの世界まで一人称わーを追い詰めに来やがったんですか!?」


 歪む視界。

 もう他のものなんて目に入っちゃ来ません。

 わーを裏切ったあいつがそこにいる……!


 トラウマ――


 それが刺激されて、怖くて怖くてたまりませんでした。


 不意に目の前のあいつが振り向いてわーのことを捉えてきました。

 その表情に、わーは心を抉られます。


 右目の下の部分を右手の人差し指で下に引っ張り、口から舌を出すその表情に。


 それは、わーから全てを奪ってやる、そんな意思表示に見えて。

 やっと見つけたっていうのに……!

 この世界をぶっ壊すことが、わーが見出した生きている意味だってのに!

 それすらも阻もうってんですか!?

 何もかも掠め取って、何をするもの許してもらえなくて……っ!

 そんなの、あんまりじゃねぇですかっ!


「……させない。あいつをこの世界から追い出す。絶対に追い出してやる! わーの生き甲斐を奪わせたりなんて、そんなこと絶対にさせねぇってんですよ……っ!」


 わーは決意しました。

 あいつにこの世界で悲惨な死に方をさせて、もう二度と戻ってくる気が起きないようにしてやる! と。



――わーの見えているものと実際のものが、違っていることにも気づかずに……。



……………………



 わーはあいつのあとを追いました。

 そうして着いたのは『アホクビ砂丘』。


 わーは移動中に頭の中で何回もシミュレーションして導き出した作戦を決行しました。


 まずは確認。

 あいつにアホクビが迫るのを待ちます。

 アホクビがあいつをターゲットにしたら、そのアホクビにすぐさま



――『トリックスター』を使います!



 今のわーはとんでもねぇステータスを持っています。

 この状態で『トリックスター』を使ったらどうなるか?



――アホクビがバケモノに変わり果てます。



 『トリックスター』は別に触れなくても視界に収めるだけで使えるんですよ。


 驚いた様子で動きを止めた一体のアホクビ。

 ですがそれは、たちまち動き出します。

 驚異的な力を宿して。

 

 普通のアホクビが出せる威圧感じゃありません。

 その違和感に気づいたあいつの仲間のギャルの子と眼鏡の子。


「な、何あれ!? なんか変じゃね!?」

「ええ、おかしいです……! なんなんですか!? この全身がぴりつくようなこの感じは……っ!」


 でも、サムライみたいな格好をしたリーダーっぽい人は気づいちゃいませんでした。


「アホクビ如きに何故怯える必要がある! もういい! 私が片す! はああああっ!」


 果敢にもバケモノアホクビに立ち向かっていきやがりました。

 結果。


――キンッ!


「な、何……!?」


 彼女がかざし振り下ろしたその得物は、バケモノになったアホクビに刺さることなく弾き飛ばされます。

 目の前で起きたことが信じられずに立ち尽くすことしかできなくなったリーダーっぽい人。

 バケモノアホクビに狙われます。


 そこへ――


「あ、危ない、サクラちゃん!」

「な……っ!?」


 予想外のことが起きやがりました。

 あいつがリーダーっぽい人を庇いに行きやがったんです。

 わーの、わーの時は……!



――私は虐めないで! 虐めるならこの子だけにして!――



 とか宣いやがってたっつーのに!?

 ……ふざけんじゃねぇですよ!

 扱いの差がひでぇ……!

 わーのことはなんとも思ってなかったっつーことですか!?

 わーは親友だと思ってたのに……っ!


 許さねぇ……! そう思ったのが天に通じたのか、リーダーっぽい人の前に出てたあいつがバケモノアホクビに吹き飛ばされていました。

 アホクビの攻撃の威力が高すぎて発生した衝撃波で。

 なんか、アホクビとの間に透明な正六角形を隙間なく並べたハニカム構造の壁をつくっていやがりましたけど、意味はなしていませんでした。


「きゃああ!?」

「「「パイン!」」」


 結構吹っ飛びましたね。

 仲間たちが心配するほどに。

 っていうか、キャラ名パインって……。

 あざとい感じがして無性にムカつきやがります。



 わーは今日、人生一ついてるのかもしれません。

 バケモノアホクビがあいつを標的に定めてくれました。

 めちゃくちゃ吹き飛ばしてたのにすげぇ勢いで距離を詰めています!

 これでもう二度とこのゲームをやろうとは思わねぇだろう! そう思った時でした。



――わーの真横にものすごい突風が吹いたのは。



 撒き上がった大量の砂煙。

 そしてその直後。


「――!?」


 最後の声すら上げさせてもらえずに消えていったモンスターの影。

 その傍らには人のシルエットがあって――。


「誰だってんですか!? わーの計画を邪魔しやがったヤツ、は――っ!?」


 愕然としました。

 視界が晴れて見えてきたのが



――セツの姿だったから。



「なんで、二人称なーがここに……!?」


 開いた目と口が塞がりやがりません。

 だって、こいつがここにいるはずがねぇんですから……!

 パニックになるわーの質問に、セツがあいつに手を貸しながら答えてきます。


「……マーチちゃんに守ってもらいながら降りてきた。大変だったよ、七時間もかかったから。街であなたのことを聞いて回ったら、ついさっき五人で東に向かってるのを見たって教えてくれた方がいて、だから急いで来たんだ」


 わーは聞きながら『アナライズ』を駆使します。

 セツを「視て」みると、元のステータスに戻っていやがりました。

 どうもやられたアホクビがセツのステータスを持ってたから、死んだら元に戻るっつープログラムが作動したみてぇです。

 そこまで戻らねぇでもいいのに……っ。

 次にわーのステータスを見てみると



――素早さ:7,851,749(×671,089.68)



「……はぁ!?」


 約800万!?

 なんでこんなことに!?

 そ、そうか!

 これはさっきまでセツのステータスだったはず……!

 素早さバフポーションを使いやがったんですね!?

 残りのMPも「1,750」とかおかしな数値になってるし!

 マジでえげつねぇスキル持ってんな、こいつ……!



 ……それよりも!

 まずはあいつをどうにかしねぇといけねぇです!

 セツがバグらせてくれたおかげでMPはありますが……。

 今のセツのMPは、わーがアホクビにスキルを使っちまった所為で「0」。

 『トリックスター』を使うにはMPがいるから入れ替えたとて、そのステータスをアホクビに、っていうさっきと同じ手は使えねぇ……。

 どうしようかと考えて妙案が浮かんできました。



――ステータスを人質にしてセツにえげつねぇポーションをつくってもらえばいいんじゃねぇか、と。



 冴えてます、わー!

 ……ってこの時のわーは思っていやがりました。

 わーは忘れていやがったんです。

 セツばかりに気を取られて、もう一人の存在を。


「冷たっ!?」


 唐突に背中に感じた冷たさ。

 水を掛けられたようでした。

 振り返ると、そこにはもう一人の存在マーチがいて。

 その手に持たれていたのは何かの液体が入っていたであろう容器……。

 『アナライズ』で確かめてみるとそれは



――悪心薬L(Lv:4)

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