第79話(第二章第37話) 厄介者1

~~~~ ライザ視点 ~~~~



「……やった。やってやった……。一位のパーティをぶっ潰してやりました……っ」


 一人称わーは知ってました。

 「始まりの街」の噴水前の広場にあいつらが現れた時から。

 あいつらがイベントで一位を取ったパーティだって。


 わーの三つ目のスキルは『アナライズ』。

 見たものの情報を読み取れる能力。


 それであいつらが『ファーマー』だってわかったんです。


 イベント優勝チームなら、さぞかし幸せなんだろうな、その幸せをぶっ壊してやる! と思って近づきました。

 あと、イベントで優勝できるような奴らの性格は悪いに違いねぇ、ってわーは踏んでたんです。

 わーがこれまでに潰してきた、わーのことを鑑定士と見るなりあからさまに上から目線でものを言ってきた連中だったり、リアルのわーと会わせろってキモいことを言ってきた変態どもだったり、こっちの気も知らねぇで一からやり直した方がいいとか勧めてきた奴らだったり、きっとそんな感じなんだろうって。


 でも、セツは、ちっともそんな感じじゃありませんでした。

 レアなアイテムは寄こすし、わーの話を一切疑いもしなかったし、屈託のねぇ笑顔をわーに向けてきやがったし……っ。


 このゲームをぶっ壊すって決めたのに、このゲームを楽しみたいって思っちまってる自分がいやがることに気づかされます。

 あいつとなら、楽しい冒険ができたんじゃねぇか? って……っ。

 決意が揺らいできやがります。

 ……くそっ。

 自分の感情がよくわからなくなってきやがりました……。



 わーは今、『スクオスの森』の四階、その隠し部屋に身を潜めています。

 ……復讐を始めてこのかた、金なんて稼いでなかったんで宿に泊まれねぇんです。


 膝を抱いたその時に着ている服が目に入ってきやがりました。


『寒熱対策のローブ』――渋るマーチにセツが、買ってあげて! と頼みこんだことでマーチが折れて、わーにプレゼントされたもの……。


「……くそっ、本当にこれでよかったんですか? セツをやったのは間違いだったんじゃ……っ」


 自分は判断を誤ったんじゃねぇか? そればかりが頭の中をぐるぐると巡っていやがりました。

 もっと他にいい方法があったんじゃねぇか? って……。

 もっと、他に……。



……

…………

……………………



――「何やってんですか!? やめろってんですよ! ――を虐めんじゃねぇです!」

――「あ、ありがと、未来みらいちゃん……! 助けてくれて……っ!」

――「別に、大したことはしてねぇです。……親友、なんですから」

――「……うん! 未来ちゃんが困ってたら、私、絶対に助けるから!」


……………………


――「あぐ!? あがっ!? ――! た、たすけ――」

――「こ、こっちに振らないで! 私、あなたとはなんでもないんだから……!」

――「――っ!?」

――「私とこの子はなんの関係もないの! 私を虐めないで! 虐めるならこの子だけにしてっ!」


……………………

…………

……



「――あぐぁああ!? はぁー、はぁー、はぁー……っ!」


 わーは飛び起きました。

 景色は夕暮れの教室から一瞬で暗い森の中へ。

 ……どうやら考え込んでいるうちに眠っちまってたみてぇです。


「はぁ、はぁ、はぁ……! くそったれが……!」


 ……最悪な気分です。

 嫌なことを思い出させんじゃねぇですよ、まったく……っ。

 ……くそっ、気持ち悪ぃです。

 寝汗がやべぇ……。


「……」


 いつもなら最低最悪の悪夢でしかねぇ、くそったれな過去。

 でも、今回ばかりは見させてくれて助かったかもしれねぇです。

 鈍っていた意志を、しっかりと固めることができたんですから。


「……今回ばかりは感謝してやらなくもねぇですよ。わーはもう、裏切られるなんてまっぴらなんです……! だからわーは、間違ったことなんてしていない! 何も間違っちゃいねぇんですっ!」


 わーには味方なんていなかった。

 親友だと思っていたあの女も。

 唯一の救いだと思っていたこのゲームも。

 信じた結果裏切られて傷つくなら。

 それなら、わーは、もう――。



 そういえば、今何時なんですかね?

 メニュー画面を開いて時刻を確認しました。


 ②の二十二時三十六分。


 あれから、セツたちを第二層の最難関ダンジョンの最上階に置き去りにしてから、七時間も経っていました。

 『トリックスター』には、ステータスが入れ替わっているそのどちらかが死んだ場合、元のステータスに戻るっつー仕様もあります。

 これだけ時間が過ぎてるんだから元のステータスに戻ってんだろうって思って確認してみたら……。


========


名前:ライザ     レベル1(レベルアップまで--)

職業:鑑定士(生産職)

HP:225/225

MP:305/343

攻撃:386,023(×2,622.44)

防御:500,363,876(×2,684,355.56)

素早さ:797,221(×2,622.44)

器用さ:382


装備:『寒熱対策のローブ』

   『防塵ゴーグル』


   『最初の靴』


========


「なっ!? まだ生きてんですか、あいつ……!」


 ステータスは入れ替わったまま。

 まさか、ずっと動かずにあの場所にとどまってやがるんですか!?

 あのステータスで何かできるとは思えねぇのですが……っ。

 わーはいてもたってもいられなくなって隠し部屋を飛び出しました。



 一度通り過ぎちまいましたが、念のためにと思ってエリアボス前の部屋に戻って「レメディ」に触れてから「カラカラの街」へ。


 『リスセフ遺跡』を目指そうとした時です。

 目の前にいきなり人が現れやがりました。


「うわっ!? わり……も、申し訳ございません! お怪我はございませんか?」


 ダンジョンから帰還アイテムを使って逃げ帰ってきたんでしょう。

 転移してきた四人組のパーティの一人にわーは当たっちまいました。

 その人が転倒しちまったんで、わーは慌てて手を差し伸べます。

 けれど、


「……チッ!」


 舌打ちを打ってわーの手を払い除け、一人で立ち上がると同時にわーを突き飛ばしていったその女。

 PK禁止エリアである街はダメージは負わない(一部例外はあるが)ものの、ステータスが上手く機能しねぇ場所だったりします(アナライズ情報)。

 だから今のわーは耐久力のバケモノであるにもかかわらずバランスを失ってよろめき、縁にぶつかって枯れた噴水の中に倒れ込みました。

 わーにこんなことをやりやがった女ですが、わーに見向きもしやがりません。

 イライラした様子で歩きながら、わーから離れていっていやがりました。


「あーあー、だいじょーぶー? 今のサクラに構わないほーがいーよー? ボスにボコられてちょー機嫌悪いからー」

「キリ、その方を助けてはなりませんよ? 助けようものなら、サクラがますます機嫌を悪くしてしまいます」

「スーちゃん……。へーへー、わかってますよー。ってことでごめんねー、キミ? サクラにこれ以上キレられると手ーつけらんなくなるからさー?」


 ギャルっぽいのがわーに近寄ってきたけれど、わーを起こしてくれたりはせず……。

 眼鏡をかけた委員長風の子に引っ張られて連れていかれます。

 ……なんか、虐められた時のことを思い出しやがりますね。

 あのリーダー格っぽいのがいじめの主犯格で、ギャルと眼鏡がその取り巻きっつー……。


 離れていく彼女たちを目で追うと、それは視界に入ってきやがりました。


「っ!? 咲夜さくや……っ!?」


 四人組の最後の一人。

 こっちを心配そうに何度もちらちらと見るも結局は恐れて何もしねぇっていうそいつの姿が、親友だったあの女と重なって見えました。

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