第76話(第二章第34話) レア度

 『リスセフ遺跡』に行く前に、


「ここのエリアボスは猛毒薬が有効とのことでございます。持っていかれてはいかがでございましょう?」


 ライザさんがそう教えてくれました。


 ……知りませんでした。

 第一層のエリアボスに猛毒薬が効かなかったため、てっきり第二層のエリアボスにも効かないものだと……。

 猛毒薬が使えるならもっと安全にクリアすることができていたんじゃ……?

 ……思い込みってよくないですね。


 どうやらライザさんは隠し部屋を見つけに行くついでにエリアボス撃破も狙っているようなので、私は倉庫から猛毒薬を引き出しておきました。

 セツ作猛毒薬これがエリアボス戦で使えるとしたらヌルゲーになるの、とマーチちゃんは猛毒薬で戦うことに乗り気ではありませんでしたが、今回はマーチちゃんとライザさんもいるため安全第一です。

 ついでに持ち物の整理をして、いざ、『リスセフ遺跡』へ。



 ライザさんの言った通りの道を通ると敵と遭遇することもなく、しかも早く七階まで辿り着くことができました。

 このダンジョンの隠し部屋は八階にある、と私とマーチちゃんは事前に知らされていました。

 ですから、北側にある階段を目指すものだと思っていたのですが、どうにも目指している場所が違うように思います。

 それになんだか、一度だけ見たことがあるような……。

 私は気になってライザさんに問い掛けました。


「あ、あの、ライザさん? どちらに……? 階段はこっちじゃないような……」

「え? あっ! 申し訳ございません。説明が不足していたのでございます。隠し部屋は八階にございますが、七階南側にある隠し階段から参る必要がございます。……えーっと、これも申し遅れていたのでございますが、この先、少々お手数をおかけしてしまうことになるかと……」


 ライザさんは言い忘れていたことがあったと言ってきました。

 その内容とは、普通に八階に行くわけではない、ということと、この先に面倒なことが待ち受けている、ということ。

 彼女がそう言い終えると同時に、私の視界には広いスペースが捉えられるようになって……。

 そこは私が一度迷い込んだことがある場所。

 迷宮じみたダンジョンの中で唯一開けている空間。

 そうです。



――大量のリスセフがいたあの場所です!



「こ、ここは不味いです! 引き返した方が……!」

「申し訳ございません。隠し階段はここを通らないと辿り着けませんので……」


 引き止めようとする私とそれでも進もうとするライザさん。

 私たち二人が行く、行かないで揉めている間にたくさんのリスセフたちがこちらをその複眼でロックオンし始めて……。


「ここ、モンスターハウスなの! 揉めてる場合じゃないの!」


 マーチちゃんからの注意が飛び、ハッとして広間の方を見ると緑のオーラを纏ってこっちに向かってくる数十体のリスセフ。

 この場にはマーチちゃんもライザさんもいるため逃げるという選択肢は取れません。


「……ああ、もう!」


 戦う覚悟を決めて、私はリスセフの群れの中に突っ込んでいきました。


 広い空間といってもボス部屋ほどではありません。

 それでいて敵の数はボス部屋前の安全地帯でログアウト・アンド・ログインを繰り返したあとの数にも匹敵している(下手をしたらそれ以上)ので、なりふり構っていられません。

 一体の尻尾を掴んで振り回し、私を取り囲んでそのふんで串刺しにしようと襲い掛かってきていた多くのリスセフを弾き飛ばして消滅させました。

 掴んでいたリスセフも投げ飛ばし、飛んでいった先にいたリスセフが何体か巻き添えに。

 今回は狙ってやっていますが、やはりあまり気分のいいものではありません。

 それでもマーチちゃんたちを守るため!

 リスセフはやっつけなければならないのです!


 私のその一撃で十五体ほどのリスセフを退治できたわけですが、まだまだ多くのリスセフが残っていました。

 そのうちの三体が私ではなくライザさんを狙い始めました。


「っ!? ライザさん!」


 一体にパンチで応戦するライザさん。

 しかし、一発では倒しきれなくて三体のリスセフに囲まれてしまいました。

 倒せなかったのはたぶん、他二体のリスセフの動きが気になって攻撃が甘く入ってしまったからでしょう。


 これは不味いです!

 彼女は一対多数が苦手だと言っていました……!

 先が鋭く尖ったその吻を、ライザさんに目がけて一斉に突きつけようとするリスセフたち。

 私は思うよりも先に身体を動かしました。


「ライザさん!」


 上げた素早さを活かしていち早くライザさんの元まで駆け寄って、彼女に抱きついて押し倒すようにしてリスセフたちの狙いから外させました。


「大丈夫!? ライザさん!」

「え、ええ、も、問題ないわ……」


 私がけがはないかと確認すると、ライザさんはひどく戸惑いながらも大丈夫と返してくれました。

 間に合ってよかったです。


 リスセフたちの方を見ると、彼らは次の攻撃に移ろうとしていました。

 またしても私を狙うのではなく今度はマーチちゃんに向かって行っていて。

 ……その戦い方、好きになれません。

 そんな、人質を取ろうとするようなやり方……。

 彼らを放置していてはいけない、と感じた私はリスセフたちを駆逐しに向かいました。



 二十数体残っていたリスセフを全て投げ飛ばしてリスセフの群れ戦、勝利です。

 高い素早さにものを言わせて戦ったので、かかった時間は数分でした。

 こういうダンジョン内のモンスターがいっぱいいる空間のことを「モンスターハウス」というのだとマーチちゃんが教えてくれました。

 実は私が行っていないだけで、第一層の『スクオスの森』三階にもここと似たような場所があるのだそうです。


 何はともあれ、合計四十体のリスセフを討伐した私たちは「ハウス」の奥へと足を進めました。

 奥の壁の一部が幻ですり抜けられるようになっていて、その先に上りの階段が!

 階段を上るとそこには小さな部屋があり、雷をイラストにしたような実をつけた上質の麻痺草と、聖水が湧き出ている祠がありました。

 しかも、これ、ただの聖水の祠ではなくて……。



 『神聖水しんせいすい』――聖水の性質が一段階上がったレアアイテムだったのです!



 特大フラスコに入れて持ち歩いていた聖水に今までの感謝を述べてから詰め替えさせてもらいました。


 ここで私は疑問に思ったことが一つ、口を衝いて出ました。

 上質な素材を集めたはいいけどどうやって使おう? と。

 するとそれを聞いていたライザさんから講座を受けることができました。

 要約すると、以下の通り。


①アイテムにはレア度というのが定められており、そのレア度の合計によって薬師や鍛冶師のつくれるアイテムのレアリティが変化する

②アイテム名の前に何も書かれていないアイテムのレア度は「0」であり、「上質」と書かれているもののレア度は「1」である(例外はある)

③素材が四つ必要なアイテムをつくる場合、レア度の合計が「1」以上でR品質、「5」以上でE品質、「9」以上でL品質になる

④素材が八つ以上必要になるアイテムをつくる場合は③の限りではない

⑤つくるアイテムのレアリティを上げるのに「ジョブスキル」のランクが関わってくる(RとついていればR品質まで、EとついていればE品質まで上げられる)


 今の私の『製薬』ランクはEなので最初からE品質のアイテムをつくれるということになります。

 直感で黄金の魔石を黄色い魔石の代わりに使ったことがありましたが、こういう仕組みだったんですね。

 E品質のポーション、つくりたくなってきました。

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