第75話(第二章第33話) 有能ライザが止まらない

 ライザさんはまだ第二層に行けていません。

 クリアできていない同行者がいる場合ボスが出現するということですから、それはこの扉の先にエリアボスがいるということになります。

 それに今から挑むというライザさん。


「だ、大丈夫ですか!? ここのエリアボス、結構強かったんですけど……」


 私は気後れしてしまっていました。

 私たちが挑んだ時は事前準備を万端にしてそれでも危ない場面があったというのに、今回はメインが宝探しだったのでなんの準備もしていなかったからです。

 いくらあの時よりも強くなっているとはいえ、簡単には勝たせてもらえなかったという印象が私の中には強く残っていました。


 心配する私ですが、ライザさんはというと私とは対照的に落ち着いた様子でした。


「ご安心くださいませ。ここのエリアボスは一体なのでございましょう? それでしたら、わたくしが負けることはございません」


 すごい自信で扉へと向かって行くライザさん。

 マーチちゃんによると、強い人がダンジョンを攻略して、そうじゃない人を次の層まで連れて行く「キャリー」という方法もあるそうなのですが、ライザさんは自分でやる気満々でした。


「そこまで言うなら見せてもらうの。お姉さん、手出し無用なの」

「ま、マーチちゃん!?」


 余裕そうなライザさんを見たマーチちゃんは彼女の強さを確かめたくなったようで、私に、助けるな、と言ってきます。

 私ははらはらさせられました。



 本当に大丈夫なの!? と気が気ではない状態で扉をくぐります。

 先に入っていたライザさんは既に部屋の中央にいて、精神を統一させているのか目を閉じていました。

 そこへ、一匹の大きなカラス頭のクモが天井から糸を伝って降りてきます。

 ライザさんをそのくちばしで貫こうと、長い首を仰け反らせながら急接近していました。


「危ない……っ!」


 私は見ていられなくなって駆け出そうとしました。

 ですが、二、三歩近づいたところで私の脚は止まります。



――ボススクオスの様子がどこかおかしかったから。



 ライザさんを攻撃しようと仰け反らせていた首ですが、今は傾げられているように見えました。

 ひどく困惑した様子で攻撃するのをやめ、けれど勢いをつけてくちばしで突き刺そうとしていたからそのスピードは止められなくて、地面に着地したボススクオス。

 そんなボススクオスを捉えながら、ライザさんは一言。


「申し上げたはずでございます。ご安心くださいませ、と。わたくしは一対一の勝負において負けることはございません」


 言い終わると同時に、わけがわからないといった感じで固まっているボススクオスの顔面をライザさんは殴りつけました。


「ぱ、パンチ!?」

「ギ、ギェエエエエ……ッ!」


 一発……。

 ライザさんは一発浴びせただけで、エリアボスを消滅させてしまいました。

 ら、ライザさんってこんなに強かったんですか!?

 私はあんぐりと口を開けたまま固まってしまいました。


 ドロップした魔石を拾い集めるライザさん。

 そこにマーチちゃんが近づいていきます。


「……強いというのは本当だったの。けど、だったらなんでここまで戦おうとしなかったの?」

「た、確かに……!」


 マーチちゃんの指摘は適確だと思いました。

 これだけ強いのなら戦っても問題なさそうですが……。


 私たちの疑問にライザさんが答えました。


「恥ずかしながらわたくし、複数の方とお相手するのは得意ではなくて……。どうしても御一方に集中してしまうのでございます。ですから、他方から攻撃を受けてしまうことがしばしばございまして……。わたくし、あまり耐久力が高くはございませんから複数の方との戦いは避けるべきだと判断した次第でございます」


 敵一体を注視して他の動きを見れなくなってしまう――それが彼女が今まで戦うことを避けてきた理由でした。

 なるほど……。

 だから、今まで私を頼っていたんですね。

 スクオスたちは二体で現れたし、ボス戦は黄プディン三体でしたし。

 それまでは、ライザさんと一緒に行動するようになってからはモンスターとは遭遇していませんでしたし。

 ライザさんの指示通りの道を通ると敵とエンカウントすることがなかったのです。

 恐らくですが『天からのお告げ』を使っていたのでしょう。


 私はライザさんの説明に納得しかけて、けれどふと思い出します。

 ライザさんの攻撃……



――あれ、武術ではなかったような……?



 そんなことを考えていると、ライザさんが私の元にやってきて何かを押しつけてきました。

 確認してみるとそれは黄色い魔石で……!


「ら、ライザさん!? これってさっきの……!? う、受け取れません!」


 私は返そうとしたのですが、ライザさんは手を引っ込めてしまいます。


「調べたところによりますと、薬をおつくりになるにも魔石が必要になるのでございましょう? それでしたらセツ様がお持ちになった方がよろしいかと存じます」


 と、返却不可の姿勢を崩してはくれず……。

 私が折れざるを得ませんでした。

 うぅ、してもらってばかりだと気が引けるよぅ……!


 この出来事があって、私が抱いた違和感はどこかへと消えていきました。



 ちなみにですが、経験値が入らないライザさんがエリアボスを倒したわけですが、何故か私とマーチちゃんには経験値が入っていました。

 ……どういう仕様なんですか、これ?



……………………



 第二層に来たのは②の十時ごろ。

 五、六時間ほどで第一層の全てのお宝と全ての隠し部屋を見つけることができてしまっていた私たち。

 それもこれも『天からのお告げ』のおかげです。

 ライザさんがいなかったらもっと時間がかかっていたし、隠し部屋まで見つけることは不可能だったでしょう。


 私は彼女に多大な恩を感じたのですが、彼女からの提供はこれで終わりませんでした。

 私たちにまだ時間があることを確認したライザさんは、それでしたら第二層の隠し部屋も巡ってしまいましょう! と言い出して。

 すごく生き生きとしているライザさんを止めることは私たちにはできませんでした。



 『アホクビ砂丘』ダンジョン七階北側、一部の流砂に呑み込まれることで行ける砂の部屋にて上質なMP回復草を入手。

(この時に、このダンジョンに自生しているMP回復草が暑さによって「だったもの」へと変わってしまうことをライザさんから知らされました)


 『タチシェスサボテンパーク』ダンジョン六階東側、枯れたサボテンに聖水を与えることで復活したサボテンが家みたいに成長し、そのサボテンハウスの中で上質なカタ草を入手。


 『スクオスの夜砂漠』ダンジョン五階南側、ひどい砂嵐の中をライザさんの指示通りに動いて到達した場所で上質なヤワ草を入手。

(このダンジョンは朝が来ない常に夜の冷え切った砂漠ダンジョンで、デフォルメしたタチシェスがしなしなになったような黄色い実をつけたヤワ草が自生しています)



 三つのダンジョンを巡ってもまだ②の十三時四十五分。

 ②の刻いっぱいまでは続けられるため、私たちは第二層最後のダンジョン『リスセフ遺跡』へと向かいました。

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