第73話(第二章第31話) マーチの不満
~~~~ マーチ視点 ~~~~
ライザ。
お嬢様みたいな格好をしたネタ職業に就いている人。
始まりの街でいきなり話し掛けてきた。
ボクはこの人がお姉さんに取り入ろうとしているんじゃないかって今でも思ってる。
『トリックスター』っていうスキルで始めた時から強い状態でスタートできる反面、経験値が入らないようになってるって説明していたけど、実際にそのスキルを見せてもらったわけじゃない。
だからボクは信じてなかったの。
――嫌な感じがしたから。
けれど、お姉さんは人がいいからまったく疑っていなかった。
同行するのもすぐに許したし、この人の意見を聞き入れるし、レアなアイテムも渡しちゃうし!
ここはボクがしっかりしないとなの……!
ボクはより一層、ライザのことを警戒した。
ライザには『天からのお告げ』というスキルもあった。
何をしたらいいのかを教えてくれるスキル……。
用途の幅が広く、すごく利便性が高そうなスキルなの。
ライザは「リスセフ平原」の宝箱がある場所への生き方を把握していたから、このスキルを持っているというのは確かなの。
宝箱がある白い空間に行って、彼女の目的は宝箱の中身を奪うことなのではないか!? とボクは懸念した。
だけど、ライザはお宝には目もくれなかった。
ボクたちがお宝をゲットしてスキルをパワーアップできたことに喜んでいるのをずっと微笑ましそうに眺めているだけだった。
……この人がよからぬことを考えているって思ったのはボクの勘違いだったの?
いや、まだそうと決めつけるのは早いの。
彼女がほしいのは他の宝箱の中に入っているものかもしれない。
この人は宝箱の中身を事前に知ることができる可能性がある。
そういうスキルを持っているのだから。
一つ目のお宝を手に入れたあと、ライザがこんなことを言ってきた。
――「お、お待ちくださいませ! 少々寄り道などいかがでしょう?」と。
……寄り道?
ついて行ったら罠があるのでは? とボクは警戒したの。
でも、お姉さんは人を疑うことをしらないのか、ついて行くことを了承してしまって……。
ボクは、お姉さんを守らないと! と強く思った。
ただ、お姉さんの方がパワーもあるしスピードもあるからボクでは止められなかったの。
リスセフ平原三階西側の、こんなところ目指そうと思わなければ来ないような藪の中にあった四本の木の間に向かったライザが地面に吸い込まれるようにして消えていった。
お姉さんはそんな彼女を追い駆けて同じように姿を消してしまった。
ボクが止める間もなく……。
お姉さんが消えたあとの地面には周りに生えている草で見にくかったけれど、穴が開いていて。
お姉さんはここに落ちてしまったのだとわかった。
こんなの、ベータテストの時にはなかったの。
ボクは怖かったけどいてもたってもいられなくなって、お姉さんのあとを追い駆けた。
穴の中はトンネル型の滑り台のようになっていて、しばらくそれが続いていた。
「うあ、ああっ!? いやああああああああっ!」
遊園地にある絶叫系のアトラクションに乗せられたみたいだったの。
流石に縦に一回転とかはしなかったけど横に一回転はあって、かなり身体を揺さぶられた。
ボク、絶叫系ダメだから、泣き叫んでたの……。
進行方向に光が見えてきて。
ようやく解放される! って思った時だった。
トンネルの執着地点に誰かがいた。
トンネルは高さがあまりなかったから頭は見切れてしまっていたけれど、誰なのか一瞬でわかったの。
『寒熱対策のローブ』を着ていたし、ボクよりも前にここを通っていった人がいるのだから。
「お、お姉さん!? 危な――っ!」
お姉さんに気づいてもらおうとしたけれど、穴の滑り台を滑り落ちるボクのスピードはすさまじいことになっていて……。
お姉さんがボクの声に反応して振り返ると同時に、ボクはお姉さんに激突した。
滑り台が終わった地点から地面までは少しだけ距離があったようで、滑り終えたままの状態で座り込んでいたお姉さんの腰にダイレクトアタック。
ボクはお姉さんを下敷きにしてしまったの。
「ご、ごめんなさいなの!」
「ううん、大丈夫。私、防御力高いし。心配して追い駆けてきてくれたんだよね? ありがとう、マーチちゃん! ……っていうか、順番が逆じゃなくてよかったよ。今のも攻撃にカウントされてたみたいだから、私があとだったらマーチちゃんが危なかったもん」
謝るボクに、笑顔で平気だと伝えてくるお姉さん。
それよりマーチちゃんは大丈夫? って逆にボクが無事かどうかの確認までしてくれて。
お姉さん、優しすぎるの。
だからこそ、心配も増すわけで……。
ボクたちが落ちた場所は、ボクたちが落ちてきた場所と反対側にある似たような穴の二箇所を除いて茨でできたドームのような場所だった。
でもたぶん、ここは洞窟の中だと思う。
茨の隙間から岩肌が見えていたから。
そんな洞窟内の壁や天井に茨が張り巡らされたドームのような場所にいたのは水のように透き通る身体をした八体の透明なプディン。
ボクはそいつのことを知っていた。
ベータテストで見て。
あれはお姉さんが探し求めていた通常のプディンなの。
ライザが説明を始める。
「隠し部屋でございます。あちらの透明なモンスターはプディンというモンスターでございます。薬師でございましたらジョブスキルを使用するのに必要とのことでしたので、お誘いいたしました。透明なものは希少でこの辺りではここにしか生息していない、と『天からのお告げ』がおっしゃっております」
「通常プディン……!」
やっと見つけられたことでお姉さんは目を輝かせていたの。
対してボクは、ライザの言葉に疑問を持っていた。
確かに製品版を始めてこれまで一回も通常プディンとは会ってなかったけど、通常プディンが希少?
ベータテストではダンジョンのどこにでもいたのに?
考えてることが顔に出ていたのかもしれない。
ライザに教えられたの。
「ベータテストからの変更点、のようでございますよ? 『お告げ』でございます」
「……どうも」
通常プディンが希少種に変更された?
俄かには信じられないけれど、製品版になってから会っていなかったのは事実なの。
だから、嘘をついているようには思えなかった。
っていうか、『天からのお告げ』……性能がよすぎて怖いの。
お姉さんは通常プディンを狩りに行って、プディンの粘質水を集めてほくほく顔で帰ってきて。
反対側に開いていて穴が帰り道なのだろう、とボクとお姉さんがそっちに向かおうとした時、またしてもライザが止めたの。
「あの場所だけ奥に空間がございます。炎や毒を使用すれば通れるようになるはずでございます」
そう言って、ボクたちが落ちてきた穴と帰り道と思われる穴のちょうど間、ボクたちから見て左側にある壁の部分を指差した。
「毒? それって猛毒薬でも? でも、必要になるって思ってなかったから持ってきてない……」
と、お姉さん。
……なんかあの女がボクよりもお姉さんから慕われてるような気がして釈然としなかった。
だから、普段はあまりこういうことはしないのだけど、ボクは自慢げにバッグの中からあるものを取り出したの。
――もしもの時のために倉庫から取り出していた猛毒薬を。
「猛毒薬ならボクが持ってるの」
「マーチちゃん! すごい、すごいよ!」
お姉さんに褒められてなんだかすごく気分がよくなるのを感じた。
……もしかして、ボクがライザを警戒してるのって、お姉さんを取られると思ったから?
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