第72話(第二章第30話) 求めていたもの
「え? すごすぎじゃないですか? 『天からのお告げ』……」
「ええ。本当に助けられております。このスキルがあったからこそ、わたしくは今、こうしていられるのでございます。あなた様方が生産職に就いておられるのを存じていたのも、ともに行動させていただこうとしたのも、全てこのスキルのお告げなのでございます」
私はライザさんと話して、思い出していました。
そういえばマーチちゃんが、ライザさんが私たちのことを生産職に就いてるって見抜いたことを訝しんでいたっけ。
私たちはあの時(今もですが)、初期装備ではなく寒熱対策のローブを着ていましたから。
その謎が今、解けました。
『天からのお告げ』、本当に性能がよすぎると思います……。
「……まあ、マーチ様は大きなバッグを背負ってらしたので、わたくしのようなスキルをお持ちでない方でも生産職に就いていることがおわかりになると存じますが。あちらは商人特有のものなのでございましょう?」
「……へえ、そうなんだ……」
「……え?」
「……え?」
けれど、マーチちゃんが生産職であることは『お告げ』のスキルを持っていなくても誰でもわかりそう、と述べたライザさん。
マーチちゃんがいつも背負ってるあのバッグは商人の象徴である、と。
私は知らなかったので勉強になったと感心していると、ライザさんが困惑した表情を向けてきました。
私はなんでそんな顔をされているのかわからず、きょとんとしてしまいます。
私とライザさんがお互いの顔を見ながら固まっていると、マーチちゃんが声を上げました。
「やったの、お姉さん! 『ポケットの中のビスケット』がパワーアップしたの! これで勝手に発動するのを抑えられて、MPの消費を気にせずにアイテムをバッグに詰められるの!」
「えっ!?」
嬉しそうな声を発したマーチちゃんの方を見ると、彼女は『パワーアップの秘玉』を使っていたようです。
それで『ポケットの中のビスケット』を強化できたとのこと。
マーチちゃんはスキルの説明文をパーティメンバーに見えるように設定して私に見せてくれました。
========
『ポケットの中のビスケット+』――
バッグに入れたアイテムをMPを消費してその数を増やすことができるスキル。
事前に設定することにより、一度に増やす数を0から9までで選べる。
増やす数に比例してMPの消費量は増減する。
========
「おお……!」
強化したことによって、自動でMPを消費して増やしてしまうためMPがなくなるとアイテムを詰められなくなるという『ポケットの中のビスケット』の唯一ともいえる欠点が解消されていました。
パワーアップをするには結構難しい条件があったはずですが、マーチちゃんがイベントでE魔石を大量に増やしていたことを思い出します。
そのおかげで条件をクリアできていたんですね。
よかったね、マーチちゃん!
喜ぶマーチちゃんを見て、私まで嬉しくなります!
「……ごめんなさいなの。本当は他のスキルもパワーアップさせてお姉さんの役に立ちたかったのだけど、『収納上手』はまだ条件を達成できてなかったの……」
「ううん! そんなことない! マーチちゃんは私をすっごく助けてくれてるよ?」
ただ、こうなると『収納上手』の欠点が際立って見えてしまったのでしょう。
同じものを九つまでスタックできるスキルですが、そのスキルを持っていない人が9,999個までスタックできる魔石にまでその効果の影響を及ぼしてしまう『収納上手』。
マーチちゃんはこれを強化してこれまで以上に私のサポートをしようとしていたみたいですが、それが叶わなかったことを残念がっていました。
私としてはもう充分すぎるほどにマーチちゃんに支えられてきていると実感していましたから、大丈夫だと伝えました。
マーチちゃんには、自分に対する過小な評価を正当なものにしてもらって気に病まないでほしいと思います。
「あっ。そうだ、マーチちゃん。私も確かめてみてもいいかな?」
私はマーチちゃんが増やしていた「パワーアップの秘玉」を彼女から受け取って、自分のスキルが強化できないか調べてみました。
結果は、
――『条件を満たしていません』
三つ全てにおいて表示されたのはこの文章。
私はまだまだのようです。
やっぱりマーチちゃんってすごいんだなぁ……。
「リスセフ平原」のお宝をゲットできたので、次に向かおう、ということに。
私はマーチちゃんに頼みました。
「そうだ、マーチちゃん! アレをライザさんに渡してもらってもいいかな?」
「またお姉さんは……。ひょいひょいと渡していいアイテムではないの」
「ええ!? それじゃライザさんだけ置いてけぼりになっちゃわない!? それはよくないと思うんだけど……」
「はぁ……。仕方がないの」
「? なんの話でございましょう?」
私のお願いする内容を聞いて渋るマーチちゃん。
ですが、最終的には私のお願いを聞いてくれました。
マーチちゃん、やっぱり優しい子ですよね。
一人、ついていけていない様子のライザさんにマーチちゃんはアイテムを取り出して一旦戻してからまた取り出して、それをライザさんに渡しました。
「これを渡しておくの」
「はあ……? これは……――ッ!?」
マーチちゃんがライザさんに渡したのは『帰還の笛』。
ゲームを始めて間もないという彼女がここに取り残されてはいけないと思って、ライザさん用の『帰還の笛』をマーチちゃんに増やしてもらったのです。
『帰還の笛』を受け取ったライザさんの身体はピシッと固まりました。
それから――
「なななな!? こんなレアなもの渡す――!? あっ、スキルで……!?」
叫び出してしまいました。
彼女の口調が崩れていたので私は心配になります。
「ライザさん!? 大丈夫ですか!?」
そんな私にマーチちゃんが呆れ返って浴びせてきたのが次の言葉。
「……これが通常の反応なの」
マーチちゃん、冷たいです……。
兎にも角にも。
これで三人揃って帰ることができます。
私とマーチちゃんが笛を吹こうとした時でした。
待ったが掛けられます。
止めたのはライザさん。
「お、お待ちくださいませ! 少々寄り道などいかがでしょう?」
……寄り道?
どういうことかと聞いてみると、折角ダンジョンに入ったのだから『天からのお告げ』を使ってみたのだそうです。
そうしたら、「三階西側へ行け」と伝えられたとのこと。
『天からのお告げ』で言われたということは、した方がいいこと、ということなんですよね?
そのスキルのおかげでお宝も見つけられたわけですから、私に断る理由はありませんでした。
二つ返事でライザさんの提案を受け容れます。
マーチちゃんは眉をひそめていましたが……。
どうしてそんなに邪険にするのかな?
それから私たちは魔法陣を使って「リスセフ平原」ダンジョン一階に戻り、ライザさんの案内の
そこには四本の木が正方形をつくるように立っていて、その中心にライザさんが向かうと彼女の姿が地面の中に吸い込まれるようにして消えていきました。
ライザさんのあとを追いかけると、どうやらそこには穴が開いていたらしく、私はその穴に落ちてしまいました。
穴の中はトンネルの滑り台のよう。
ザザーッと滑り落ちていくとやがて傾斜はなくなり、ドームのような広い空間に出て……。
そこで見たものに私は愕然としました。
「う、うそ……っ。こ、これって……!」
私が見たもの、それは――
――透明なプディンでした。
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