第71話(第二章第29話) ライザのスキル
「ううん……」
「っ! マーチちゃん!」
「ここは……?」
壁も床も天井も、真っ白な空間に私たちはいました。
八畳くらいの広さで、中央には先ほど私の足元に現れたのと同じ図形が先ほどとは打って変わって弱々しい光を放っていました。
私が、これはどういうことなのか、と頭の中を整理しているとマーチちゃんが推察したことを述べてくれます。
「たぶん、あれ、転移の魔法陣なの。エリアボスを倒した時、光の柱が現れたでしょ? あれと似たようなものなの」
「転移の魔法陣……」
私たちはこの場所に転移をしてきたのではないか、とのこと。
転移なら『帰還の笛』や『踏破者の証』を使っているので何度か経験していました。
ですが、こういう転移の仕方は初めてだったため、私は怖くなってしまったのです。
光の柱にも入ったことありませんでしたし……。
私が、ここはどういう場所なのだろう、と考えていた時でした。
突然後ろから声がしてきます。
「やはり調べてみて正解でございましたね! わたくしのスキルが『何かある』と告げていたのでございます!」
「ひゃわ!? ら、ライザさん!?」
私の背後にライザさんが立っていました。
魔法陣が発生した時、彼女は三つの木に囲まれた場所には入っておらず離れたところにいましたから、まさかいるとは思わなくて私は飛び上がってしまいます。
「それほど驚かずとも……」
「ご、ごめんなさい。まさか、ライザさんも巻き込んでるとは思わなくて……。そ、それで、えっと、スキルって言いました?」
私がオバケでも見たかのような反応をしてしまいましたから、ショックを受けてしまっているライザさん。
私は彼女に謝罪をしたあとに、「スキル」という言葉を耳にした気がして尋ねました。
私が尋ねると、ライザさんは得意気な様子で返してくれました。
「はい! わたくし、『天からのお告げ』というスキルも持っているのでございます。このスキルはすべきこと、行ったほうが良いことを教えていただけるというものでございます。『地図を持って真ん中へ行け』とこのスキルに告げられたため、わたくしはあなた様に三本の木の中央に行ってみてはいかが? と勧めたのでございます」
「な、なるほど……。地図がカギだった、と。だから、マーチちゃんが立っても何も反応しなかったのに、私が立ったら仕掛けが発動したんだ。……ん? あれ?」
『天からのお告げ』――自分がこれからどうすればいいのかを教えてもらえるスキル。
そのスキルを持っていたから、ライザさんは地図を持つ私があの三本の木の真ん中に行くべきだとわかって、私をそこに向かわせたのだと明かしてくれました。
それを聞かされた私は、驚いていました。
そういうスキルもつくれたんですね……、と。
困ったらなんでも聞けるスキルってすごく便利そうです。
このゲームでつくれるスキルってかなり奥が深いんだなぁ、って知って私は感心させられていました。
……ですが、ちょっと待ってください。
スキル作成が思っていたよりも融通が利くということを知った私には思うところがありました。
もしかして私って、自分で思っていたよりも頭が固かったのではないか、と。
私のスキル、戦うことを念頭に置いたものばかりです。
偏っています。
今のところ、私がつくったスキルのその全部が全部、戦闘で役に立ったという記憶しかありません。
それらのおかげで今があるので不満があるわけでは一切ないのですが、ちょっと考えてしまったんです。
――そもそも私、戦闘がしたくてこのゲームを始めたわけじゃないのにこの結果はどうなのだろうか? と。
私が、自分の視野が広かったらもっといいスキルをつくれたのではないか? と心の中で自問自答していると、ライザさんが言ってきました。
「『お告げ』であった通りのようでございますね。あちらをご覧くださいませ」
手のひら全体を使って奥の方を見るようにと促してきたライザさん。
私とマーチちゃんがその方を向くと、そこには何かがあるようでした。
背景と同化する色をしていたため捉えにくかったのですが、よく目を凝らしてみるとそれは、
「宝箱!」
宝の地図が示していたものだったのです。
慌てて駆け寄ろうとする私にマーチちゃんの注意が飛びました。
「お、お姉さん! 魔法陣には気をつけてなの! 踏むと転移するの!」
中央にある魔法陣に注意して白い宝箱がある場所までやってきた私とマーチちゃんとライザさん。
「いい? 開けるよ?」
代表で私が開けることになりました。
私は、ここを見つけられたのはライザさんのおかげだから彼女が開けた方がいいのではないか? と提案したのですが、それをマーチちゃんが受け容れてくれなくて、ライザさんも、地図を手に入れられたのはあなた様方ですから、と辞退したので。
手をかけて蓋の部分を持ち上げてみると、中から出てきたのは――
「……宝石?」
魔石とは違う形をした宝石のようなものでした。
魔石は菱形のような形をしているのに対して、こちらはラウンドブリリアントカット。
ポーチの中に入れて詳細を見てみると、こんなことが書かれていました。
========
パワーアップの秘玉(スキル)……スキルの秘めた力を解放するために必要な秘玉。
条件を満たしているスキルに使うとそのスキルが
パワーアップする。
========
「……パワーアップ?」
「なんなの、それ?」
私には意味がわからなかったので首を傾げてしまいます。
マーチちゃんに聞かれましたが答えられないため、この秘玉を取り出してマーチちゃんに渡しました。
マーチちゃんもそれをバッグに仕舞って説明文を読みますが、彼女でもわからないようでした。
「マーチちゃん、わかる?」
「……ごめんなさいなの。ちっともわからないの」
困り果てて考え込む私たち。
そこへライザさんが手のひらと手のひらをポンと叩いて発言してきました。
「そちらのアイテム、スキルを強化することができるアイテムではないでしょうか? 『天からのお告げ』によりますと、条件を満たしたスキルをイメージしながら使用することでそのスキルの性能を引き上げることができる、とのことでございます。条件とは何かと問いましたところ、『そのスキルを4,444回以上使え』というお答えをいただきました」
にぱぁっと笑ってなんでもないことのように言うライザさん。
……『天からのお告げ』、有能すぎませんか?
マーチちゃんの『ポケットの中のビスケット』といい、このゲーム、有能すぎるスキルを持ってる人が多いのでは……。
……私のスキルってもしかしてそれほどでもなかったりします?
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