第70話(第二章第28話) 宝探し
「他の方たちから説明を受けました。このゲームは攻撃を受けたら痛いのだと……! わたくし、痛いのは嫌でございます! ですからどうか、どうかそんなことをおっしゃらずに……っ!」
腰から九十度に曲げて頼み込んでくる女性。
私には彼女の気持ちが痛いほどにわかりました。
「はい! そうですよね! 痛いのは嫌ですよね! わかりました! 一緒に行きましょう!」
「あ、ありがとうございます!」
「ちょっと、お姉さん!?」
私も痛いのは嫌だったので、女性に痛い思いをさせるのは
それに、誰も彼女の手を取らなかったということが、このゲームを始めた時の私と重なって見えて。
だから私は、彼女の仲間になりたいと思いました。
同じ不遇とされる者同士、手を取り合えるはずだと感じて。
女性の手を取りながらそう言うと、彼女は受け容れてもらえるとは思っていなかったのか一瞬驚いた表情を見せました。
けれど、すぐに喜びの表情へと変わります。
私はその表情が見れてよかったと思いました。
マーチちゃんがひどく取り乱していたのが気になりますが……。
マーチちゃんは私よりも職業について詳しいので、鑑定士を仲間に加えることのデメリットを懸念しているのかもしれません。
……そんなにひどいんだ、鑑定士って……。
……………………
話はリスセフ平原へ向かいながらしました。
女性はライザさんというそうで、このゲームを始めてそんなに経っていないとのこと。
現実で嫌なことがあったらしく、夢を見るように冒険ができるという「ギフテッド・オンライン」の世界に癒しを求めたのだとか。
戦いよりも違う世界を楽しみたかったという理由から生産職を選んだらつまはじきにあって今に至る、と語ってくれました。
私と彼女、ちょっと似ているかもしれません。
あと、このゲームの仕様でわかったことが少しありました。
パーティに入るにはそのパーティメンバー全員の賛成が必要になるそうです。
マーチちゃんが、ライザさんがパーティに加わることにどうしても納得がいかないようで渋ったため、ライザさんは私たちのパーティには加わっていません。
ただ、一緒に行動することは認めてくれたため(渋々でしたが)一緒にいます。
この状態でダンジョンに入ると「共闘」という状態になり、四人以下なら経験値の分散が行われ、五人以上の場合はペナルティとして経験値が入らなくなるそうです。
「共闘状態」になるには一緒に行動することを両者が納得することが条件であり、両者が「共闘」をやめることを納得したり、長時間離れて行動したり、片方が不当行為を行ったりした場合に解除されることをマーチちゃんが教えてくれました。
ということで、私たちとライザさんはこれから「共闘状態」になるということになります。
『リスセフ平原』ダンジョンに入っても、最初のダンジョンということで敵は非常に少なく、これならライザさんがやられる心配もほとんどないでしょう。
安心したようにホッと息をついて、ライザさんは話を続けました。
「マーチ様。先ほどからわたくしを警戒なさっているようでございますが、わたくしはあなた方を利用しようなどとは思っておりません。お強いあなた方がモンスターを倒せばわたくしにも経験値が入るとのことで、それ目当てに取り入ってきたのでは、とお考えなのでしょう? ですが、ご安心くださいませ。わたくしには経験値が入らないようになっておりますから」
「……経験値が入らない?」
マーチちゃんがライザさんに対して監視するような目を向けていたので、居心地の悪さを覚えてそれをなんとかしようとマーチちゃんにわかってもらおうとしている様子のライザさん。
そこで彼女が使った言葉は「自分を強くするために取り入ることはできない」というものでした。
どういうことなのかと私が質問すると、ライザさんは答えてくれました。
「はい。わたくしには『トリックスター』というスキルがございます。このスキルはある程度の強さからゲームを始められるというものでございます。ですがその代償として、経験値が入らずこれ以上強くなることができないという制約が存在するのでございます」
「へえ、そんなスキルもつくれるんですね」
誰よりも強い状態で始められるけれど、経験値は手に入れられなくなるスキル――『トリックスター』。
そのスキルがあるから経験値目当てで私たちに近づくことはない、と彼女は言い切りました。
私は納得しましたが、マーチちゃんは難しい表情のままです。
「……ライザ。ステータスを――」
「あっ! あれではございませんか!? 『三角形を形成する三本の木』というのは!」
マーチちゃんが問い質そうとした時、ライザさんが大きな声を上げました。
宝の地図にヒントとして書かれていた「三本の木」を発見したのです。
私たちの意識はお宝の方へと移っていきました。
三本の木を見つけたため、そこに駆け寄っていきます。
マーチちゃんがヒントに書かれていたことを思い出して、三本の木が立っているその真ん中に立ちました。
……しかし、何も起こらず。
私たちは三人で木の周りを調べ始めました。
それでも何もおかしなところはなくて……。
「うーん……。三つの木はあったけど、お宝は……?」
私はもう一度地図とヒントを見返してみます。
――『リスセフ平原 1階東側の三角形をつくっている三つの木の真ん中』。
こう書かれていましたが、その位置にお宝があるようには見えません。
木の間隔は全ての辺が一メートルほどの正三角形をつくるように立っていて、それほど大きな三角形にはならないので見逃したということはないはずなのですが……。
困っていた私にライザさんが提案してきました。
「セツ様。お宝があるのは中央、と書かれているのでございますよね? でしたら、埋められているのかもしれません。調べてみてはいかがでしょうか?」
地面の中に埋まっている……。
そうすると、専用の道具やスキルがなければゲットできないということになる気がするのですが。
……調べてみるだけ調べてみましょう。
ゲームですから、必要な手順を踏んだとみなされて何か進展があるかもしれませんし。
(前にあゆみちゃんがやってたゲームでそういうのがあった気がします)
私が三つの木の真ん中に立って地面を調べようとした時でした。
急に地面が光りだしたのです。
いくつもの丸や三角、四角が重なってできた図形が足元に現れて……!
「こ、これ、魔法陣!?」
「こ、怖いよ、マーチちゃん……!」
私が何が起きるのかと怯えているとマーチちゃんが駆け寄ってきてくれて。
その直後、私の視界は真っ白に染まりました。
足元から発せられていた光がその明るさを増したことで。
次に目を開けた時、私は真っ白な部屋の中にいました。
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