第69話(第二章第27話) ネタ職業

~~~~ ???(厄介者)視点 ~~~~



 ああ、ついてねぇです。

 マジでついていやがりません。


 一人称わーは信じてたのに、このゲームはわーを裏切りやがりました。


 最初は、こんなゲームやめてやる! って思ったんですけど、他の奴らが楽しそうにしてやがるのが無性に気に食わねぇって感じて……。

 なんでわーが、わーだけが嫌な思いをしねぇとなんねぇんですか!? って思わずにはいられなくなって。

 だから、わーは決めました。



――このゲームをぶっ壊してやるって。



 プレイする人間がいなくなればサ終に追い込めるでしょう。

 わーを不幸にしやがった罰です。

 わー以上に不幸になりやがれってんですよ。


 わーはゲームを続けました。

 楽しむ気なんてさらさらなかったです。

 ただただ、わーが受けた傷を、わーを排除したこのゲームにも味わわせてやりてぇっていう一心でした。

 ちっとも意味がわかんねぇんですけど一からのやり直しにさせられてたんで、嫌がらせに特化したスキルを得て。

 プレイヤーがまたこのゲームをやりたがらねぇ状況に陥れて。

 そうやって、わーはこのゲームへの復讐を遂行してたんです。



 なのに……。


「何、イベントとかやってんですか!?」


 信じらんねぇです、このゲーム……!

 わーを排除しておきながら、他で盛り上がるとか!

 ……わーのしてきたこと、これっぽっちも効いてねぇみてぇでした。


 何か、何か致命的なダメージを与えられる方法は……!


 考えて、考えて、考えて、考えて。

 けど、何も思いつきやがりませんでした。


 それで三日が経って、イベントが終わったっていうメールが送られてきやがりました。

 イラッとしやがりましたが、それを見て閃きました。


「……そうです。



このトップテンの奴らを排除すりゃあいいじゃねぇですか……!」



 イベントの上位にランクインしてるってことは、このゲームをやり込んでやがるってことです。

 ならば、そいつらがいなくなっちまえば『運営』にとっては大打撃のはず!

 ご丁寧にパーティ名を載っけてくれてるんで、それを利用しねぇ手はねぇです。

 そいつらに恨みはねぇですが、このゲームに致命的なダメージを与えるために無残な死に方をしてもらいましょう。

 それにそいつら、もう充分楽しんでやがるんでしょう?

 だったら、わーと同じ列にまで落ちても問題ねぇですね。

 さーて。

 どいつから、もうやめる! って思わせてやりましょうかぁ!


「きひゃ、きひゃひゃひゃひゃ」



~~~~ 刹那視点 ~~~~



 私とマーチちゃんは第一層に来ていました。

 「第一層全ダンジョンの宝の地図」を手に入れたからです。

 「始まりの街」に移動するのも『踏破者の証』を使えばかかる時間は僅か一秒!

 マーチちゃんが増やしてくれていたので二人とも移動することができました。

 『ポケットの中のビスケット』が有能すぎます!


 「ねえ、マーチちゃん。どこから行こうか?」


 私は地図を手にマーチちゃんに尋ねました。

 地図は四枚。


『リスセフ平原 1階東側の三角形をつくっている三つの木の真ん中』

『アホクビの住む洞 2階南側の少しだけ色が変わっている壁』

『タチシェスのいる自然公園 3階西側の左右で数が違う岩』

『スクオスの森 1階北側の階段付近にある大樹の根本』


 ヒントも書かれていたため、その場所に行くのはそれほど難しくないと思われます。

 ただ、お宝の在り処は一つのダンジョンに一つずつと示されていて、どこから向かえばいいのか私は迷っていました。

 そんな私とは対照的にマーチちゃんは迷いなく言います。


「まずはリスセフ平原からなの。こういうのは地図がなくてもまぐれで辿り着けちゃうかもしれないものからやっていくの」

「おお、なるほど……!」


 私はマーチちゃんの言葉に説得力を感じたため、私たちは最初にリスセフ平原へ向かうことにしました。



 東側の出入口から街を出ようとした時でした。

 私たちは声を掛けられます。


「あ、あの! 少々よろしいでしょうか!?」


 後ろからだったため振り返ると、そこにはお嬢様がいました。

 今の私よりも身長が高くて、西洋人形のような整った顔をしている女性です。

 私が彼女を見てお嬢様だという印象を持ったのは彼女の髪型。

 なんと金髪の縦ロールだったのです!

 そして見事なまでの胸部装甲!

 彼女にはNPCというテロップが表示されていませんでしたからプレイヤーということになるのでしょう。

 ここまで誰が見てもお嬢様だと感じるような人なんて漫画とかでしか見たことがありません。

 初めて生で見ました。

(ゲームの世界なので「生」という表現が正しいのか微妙なところですが)

 服もお嬢様っぽいフリルをふんだんにあしらったピンクを基調としたドレスを着ていて、ここまではザ・お嬢様! って感じだったのですが……。

 どうして探偵チックな上着と帽子を身に着けているのでしょうか?

 あれ、確か、インバネスコートとディアストーカーという名前なんですよね。

 コーディネートの統一感を崩しているように思えます。


 私が彼女の格好に疑問を抱いていると、マーチちゃんが小声で解説してくれました。


「……あれ、このゲームの鑑定士の初期装備なの……」


 鑑定士……。

 私は以前、マーチちゃんが言っていたことを思い出しました。

 生産職の話をした時に、生産職は薬師の他に商人、鑑定士、鍛冶師がいる、と。

 ということは、彼女はこのゲームで不遇とされている生産職に就いている一人ということになります。


 マーチちゃんに続いて二人目の生産職!


 私は嬉しくなって、お嬢様のような女性と会話をしようとしました。

 ですが、そんな私の前にマーチちゃんが身体を割って入らせるようにして女性と対峙しました。


「ま、マーチちゃん……?」

「なんの用なの? 鑑定士ってネタ職業だって聞いたのだけど、どうして鑑定士なんて選んだの?」


 私は戸惑います。

 マーチちゃんが女性を警戒する素振りを見せるものだから、それはもう頭の中は大混乱です。


 私を置き去りにして会話は続けられました。


「ぞ、存じ上げなかったのでございます……っ。選んでしまってからネタ職業だと知らされて、どなたもわたくしを仲間に入れてくださらなくて……。途方に暮れていましたら、あなた方がやって来るのが見えたのです! あなた方も生産職なのですよね? わたくしも仲間に入れてください!」

「初期装備じゃないのに職業がわかるって、スキルか……。でも、残念ながらネタ職業を守れるほどボクたちに余裕はないの。一からやり直して鑑定士をやめた方があなたのためだと思うのだけど?」

「そ、そこをなんとかお願い申し上げます!」


 話しについていけなくて、でも、このままではどんどん置いて行かれることが想定されて、私はマーチちゃんに説明を求めました。


「ま、待って! ネタ職業って!?」

「……鑑定士は『謎の』アイテムを鑑定してそのアイテムの正しい姿を突き止めることができる職業なの。でも、ボクは今まで『謎の』アイテムを見たことがない。それだけ『謎の』アイテムは出現しないって見ていいの。そもそも出現したとしても、鑑定の館に行ってNPCにお金を払ってやってもらえば済むことだからわざわざプレイヤーを見つけて頼む必要もなくて。だから鑑定士は、ジョブスキルの使いどころのなさからネタ職業なんて呼ばれてるの」

「不遇……!」


 マーチちゃんに教えてもらった鑑定士の扱い……。

 それがあまりにもあんまりで思わず心の声が漏れ出てしまいます。

 鑑定士、薬師よりもひどいのでは……?

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