第68話(第二章第26話) イベント終了

 イベント最終日でしたので寝る前に少しやろうと思っていたのですが、疲れていたからでしょう。

 ベッドに入ってすぐに眠ってしまいました……。



 五月六日の朝。

 目を覚ました私は慌てて「ギフテッド・オンライン」の世界へ……と行きたかったのですが、逸る気持ちを抑えて朝やるべきことをやってからログインしました。

 時刻は現実で六時十五分過ぎ。

 ゲームでは②の一時十二分というところ。

 昨日ログアウトした、第二層・カラカラの街の宿屋の受付に私はやってきます。

 時間帯が早いからでしょうか?

 辺りは閑散としていました。


 『運営』からのメッセージはまだなく、マーチちゃんもログインしていない状況。


 私は宿屋の外に出ました。

 街にも誰もいなくて静まり返っています。

 五月だというのに冷え込んでいて。

 寒熱対策はしているのにちょっとだけヒヤッとした感じを覚えました。

 現実では朝なのに、ここでは真夜中。

 ゲームを始めてからこれまで忙しなく動き続けていたため、あまり意識していませんでしたが、よく考えてみると不思議な感覚です。


 枯れてしまっている噴水の縁の部分に座って空を見上げてみると、そこには満点の星がきらめいています。


「わぁ……」


 そういえば、この世界に初めて来た時も宝石のようなこんな夜空を見上げていたっけ。

 随分と懐かしく感じられて、私はしばらく天体観測を続けていました。


 途中で首が疲れてしまったため縁に寝転がって空を見上げていると、顔を覗き込まれます。


「……何してるの、お姉さん?」

「ひゃわ!?」


 いきなりだったので変な声が出てしまいました。

 私を見下ろしてきたのはマーチちゃん。

 私は慌てて跳び起きます。


「えっと、大したことはしてないんだけどね。ちょっと、空を見上げてただけ。この世界に来た時、初めて見たのはこんな感じの空だったなぁ、って」

「空? ……あっ」


 マーチちゃんに何をしていたのかを上を向きながら説明すると、彼女も同じように上を向いて感嘆の声を漏らしました。


「……すごく懐かしい気がするの。キャラ設定する時のあの空間と同じ……。今、見れてるってことは、見ようと思ったらいつでも見れた? もしかしたらボクは、心のゆとりがなかったのかもしれないの。こんなことにも気づけなかったなんて……」


 隣にいるマーチちゃんの表情が輝きだします。

 それを見て、私は思いました。

 このゲームは現実と見間違うほどの素晴らしい背景をしています。

 ですから、この星空のように素敵な景色がまだまだいっぱいあるのではないか、と。

 私は思ったことをマーチちゃんに伝えました。


「ねえ、マーチちゃん。他にもこの星空みたいな素敵な景色がないか一緒に探しに行ってみない?」


 と。

 マーチちゃんはぽつりと、


「……それもいいかもしれないの」


 そう返してくれました。



 二人して噴水の縁に仰向けに寝転がって空を眺めていると、端の方から徐々に白んできてゲーム内にも朝が訪れます。

 ちなみにですが、いつもは私がログインする頃には大抵先にログインしているマーチちゃんが今日はいなかった理由ですが、「朝ご飯を食べる時間にゲームの世界に行くな!」と看護師さんから怒られて、食べてから行くように昨日言われたそうです。


 それは兎も角として。

 随分とまったりとした時間を過ごしていた私たち。

 そんな私たちの元に知らせが届きました。


――ヴィン


 と目の前に生じされるスマホの画面のようなモニター。

 メールが来たのです。

 差出人は「ギフテッド・オンライン」運営チーム。

 私たちは同時にそれを開いてみました。

 その内容は――



『イベント結果発表!(5月6日:ゲーム内②4時‐現実7時)』



 いつもご利用いただきありがとうございます。

 「ギフテッド・オンライン」運営チームです。



 ゲーム内において5月3日①の0時から5日④の23時59分まで開催されていた「魔石集めイベント」が終了し、結果が出ましたのでその発表をさせていただきます。

 なお、発表は1位から10位までとさせていただきます。


 第10位 ベータテスターの集い様  199,236ポイント

 第9位 MARK4様         211,508ポイント

 第8位 お菓子がないならプディンを食べればいいじゃない?様

                  246,043ポイント

 第7位 クロ様          262,144ポイント

 第6位 ジャック・オー様     479,952ポイント

 第5位 未設定様         603,729ポイント

 第4位 プディン帝国様      619,961ポイント


以上のパーティの皆様には「経験値4倍の砂時計」をお送りさせていただきます。


 第3位 ギフテッドの旅団様    637,173ポイント


ギフテッドの旅団様には「武器・防具ランクアップの秘玉」をお送りさせていただきます。


 第2位 シニガミ様        858,112Eポイント


シニガミ様には「ステータスランダムアップグミ」をお送りさせていただきます。


 そして、第1位



――ファーマー様:967,023ポイント!』



「っ! や、やったぁ!」

「し、信じられないの……!」


 一位!

 私たちのパーティ名が一位にありました!

 私とマーチちゃんはそれを見て、手を取り合って喜びました。

 この時の街の広場には他にも何人かのプレイヤーさんがいたけれど、彼らの視線が気にならなくなるくらい私たちは高揚していて。

 それほどまでにこの結果が嬉しかったのです。



 『運営』からのメッセージには続きがありました。


 私たちに「宝の地図」を送るということ。

 順位は宿屋の受付で確認できるということ。

 イベントの景品も宿屋の受付で受け取れるということ。

 景品には受け取れる期限が設けられているということ。

 所持しているE魔石は通常の魔石に置換されるということ。


 他にも、このイベントで問題があったということも書かれていました。

 魔石に関連するスキルを取っているプレイヤーが少なかったために『運営』側がそれほどポイントは取れないだろうと判断していたことで、獲得ポイントの表示がカンストしてバグってしまったプレイヤーがいた、とか。

 不当な手段でポイントを稼ぐパーティが現れたため、その人たちのイベントへ参加する権利を剥奪した、とか。


 この問題点、実は結構重要なことだったりするかもしれません。

 だって、本当なら私たちよりもポイントを取っている方がいた、ということなのですから。

 ですが、この時の私たちは浮かれていてそのことに気づいていませんでした。

 景品を受け取れる期限がある、という文を見て、私たちは宿屋へと向かって行きました。



 私たちは知りません。

 このあと、私たちにあんなことが待ち受けているなんて……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る