第66話(第二章第24話) ラストスパート2

 マーチちゃんが発見したことなのですが、課金専用アイテムとして「イベントポイントが四倍になるもの」が五月四日の0時から販売開始されたそうなのです。

 一つ、3,000円だとか。

 うぅ、現実でお金を持っているかいないかがゲームにも影響するなんて……。

 私たちも払った方がいいのかな? って思いましたが、学生である私にその出費はきついです。


 どうするべきなのか迷っていると、マーチちゃんが見解を述べてきました。



――「中間発表を見たところ、ほとんどのパーティがその課金アイテムを買ってるみたいだけど、上位のパーティはそれだけじゃない気がするの。この増え方……たぶん、スキルなの」――と。



 この「魔石集めイベント」において有利になるようなスキルを持っているのではないか、とマーチちゃんは推理していました。

 私はハッとします。


 マーチちゃんもこのイベントで有利になるスキルを持ってる! と。


 『ポケットの中のビスケット』で魔石を増やしていたマーチちゃん。

 課金をしなくても彼女のスキルで私たちは戦えていました。

 それに、マーチちゃんは言ったのです。


 現実のお金をゲームの中で使うことはしないの、と。


 マーチちゃんがそういう考えであるなら、私もそうしようと思いました。

 課金をして、際限がなくなるのも怖いですし。



 時刻は②のぜろ時四十四分。

 私たちは行動を開始します。

 お金をかけてくる方たちが相手なのでうかうかしている暇はないでしょう。

 マーチちゃんに『踏破者の証』をもらって、私は第三層へ向かいました。

 ……あっ、『踏破者の証』を渡される際にマーチちゃんから、これはすっごくレアなアイテムだから使う時はできるだけ他の人に見られないように使うの、と忠告を受けています。

 なので、こっそりと第三層へ……。


 一応、ブクブクの街から第二層の「リスセフ遺跡」の最上階に戻って、一つ下の階の緑プディンの巣に行ってみたのですが、第二層をクリアしている私はボス部屋に招かれることはありませんでした。

 黄プディンの巣も第一層をクリアすると行けなくなったので、今回もそうなのかなと思っていましたが、案の定です。

 「巣」が一番、魔石を集められるのに……。

 ……第三層の最難関ダンジョンにも似たような巣があるでしょうか?

 第一層にも第二層にも最難関ダンジョンには「巣」があったのでその可能性はあると思います。

 私は第三層に戻って『ウェットスーツ』と『シュノーケル』を装備して、北を目指しました。



 「第三層水中エリアダンジョン4・アホクビ海底谷」――。


 海の中にある狭くて深い谷が舞台のダンジョンです。

 その景観はまるで雄大な峡谷美を誇る国立公園のよう。

 上から見ると美しいのですが、谷の底から見ると尋常ではないほどの圧迫感を受けます。


 このダンジョンは他のダンジョンとは少し様相が異なっていました。

 ダンジョンに入ってすぐに下りの階段があったのです。

 今までのダンジョンは上へ進んでいっていたのですが、このダンジョンで進む方向は下でした。


 下っていくにつれてどんどん光が弱くなっていくダンジョン内。

 第一層にあった「洞」や第二層にあった「遺跡」の中と同様に不思議な力が働いています。

 ただ、それらのダンジョンは全体を淡く照らしていたのに対して、この「海底谷」は私の周りは明るくなるのですが遠くを見渡すことはできません。

 これがこのダンジョンのギミック、というものなのでしょうか?


 私はこのダンジョンに生息しているアホクビを避けながら奥へ奥へと進んでいきました。

 今なら戦って倒せるかもしれませんが、なんというか、逃げることが習慣になってしまっていて……。

 素早さが上がっていますから逃げることに問題はありません。

 ……えっと、むやみやたらに生き物を傷つけたくはないので、今後も戦わなくていいのなら戦わない方針でいこうかな、と思います。

 ……プディンはめっちゃ倒してるんですけど。

 顔とか手足がないから生き物って感じがあまりしないんですよね、あれ……。


 そんなこんなでB11階。

 最下階に続く階段を下りようとしたら、地面から大量の泡が噴き出してきて何故か通れなくなりました。

 わからないことと言えば「上」もそうです。

 天井なんてないはずなのに何かに当たってそれ以上は行けませんでした。

 ゲームの仕様なのでしょうか?


 右側には割ることのできない大きな、大きな泡のようなものがあって、階段へと進めなくなるとその巨大な泡が私を吸い込み始めました。

 一体どういう仕組みなのでしょう?

 現実の物理法則で考えてはダメなのでしょうけど……。


 泡の中に閉じ込められた私は見ました。

 この空間に漂っているプディンを。

 どうやらここがボス部屋、プディンの巣のようです……!


 「巣」があってよかった! と思った私でしたが、このボス戦は今までとは勝手が違いました。

 水の中ということでプディンが私の上や下を移動すること。

 ダンジョンのギミックの所為で遠くにいるプディンが視認できないこと。

 私は装備のおかげで水の抵抗を受けなかったり受けられるようにしたりできるけれど、プディンは水の抵抗をもろに受けるので投げる方法では倒しづらいこと。

 あと、倒して魔石にしたあとに他のプディンを対処しに行って、魔石が行方不明になるというのも、暗いなか探すのがつらかったです……。

(私が動いていれば魔石は存在し続けるため、消失させることはありませんでしたが)


 えっと、初戦は赤プディン八体だったと思います。

 色も数も暗さの所為であいまいですが、ゲットしたのが「赤いE魔石×32」だったので。

 ……さて。

 これまで通りスムーズに、とはいかないかもしれませんが、ボス周回を始めましょう!



……

…………

……………………



 泳ぎながら相手を倒さなければいけないということと、暗闇の中を逃げ回られるという新たな要素の追加によって思いの外時間が取られてしまっていました。

 気づけば、②の刻が終わろうとしています。


 私が持っているゲーム機本体はお母さんと一緒に設定をしていて、ご飯を食べる時はゲームができないようになっています。

 ゴールデンウィークに合わせて設定し直しているので、正午から午後二時までと午後六時から午後八時までがその時間に当たります。

 睡眠時間は自分で管理すること、というのがお母さんからのお達しです。


 このゲームをやっていてゲーム禁止時間に入ってしまった場合、今入っているダンジョンがある階層の街まで強制転移させられてからの強制ログアウトになるみたいです。

 持ち物は失われないそうですが、ダンジョンから出されるということはボス周回のカウントがリセットされる可能性があるってことですよね……。

 それは避けたいです。

 次の戦いから敵がパワーアップするかもしれないんですから。


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