第60話(第二章第18話) パーティ名

 五月四日。


 昨日、紺碧錫玉こんぺきしゃくぎょくプディン二体と同時に戦うことになった私でしたが、片方に天井に飛ばされた時、猛毒薬を撒いたらもう片方の個体にそれが運よく掛かって消滅させることに成功しました。

 といっても、それは二体に散々なぶられ続けたあとのことだったため、HPを激しく消耗させてしまっていたのです。

 ですからその戦闘後、私はゲームをやめました。

 宝箱が出なかった悔しさを胸に抱えながら眠ることになりました。



 寝たのが現実の午後十一時十五分を過ぎてしまっていたため、私はいつもより少し起きるのが遅くなってしまいました。

 朝にやることをやって、ログインしたのは八時過ぎ。

 ゲーム内では②の八時四十分になっていました。


 ボス部屋前の安全地帯セーフティエリアでログアウトをしてしまっていたため、ログインして早々、錫プディン合計三十五体(十七体と十八体に分けられてました)と戦うことに。

 危なげなく勝利することができましたが、やはり宝箱は出ません。

 昨日、五百五十戦もしたのに宝箱が一個しか出てこなくて、しかも後半の四百戦以上が外れだったこともあって、私の中に募っていた悔しさが再び表に出てきました。

 宝箱を出したい衝動に駆られて、そのままボスの連戦に突入します。



 今日だけで合計四回が終了した時でした。


『レベルアップしました。レベルが規定値に到達しました。「製薬」で生成可能なアイテムが増えます』

「……え?」


 ……「製薬」で生成可能なアイテムが増えた?

 『声さん』から久しぶりにその言葉を聞きました。

 レベル10くらいになった時に聞いて以来でしたので、私はもう、追加はないのではないか? と思って、この仕組みがあることをすっかり忘れていたのです。

 これは嬉しい誤算です。

 私は何がつくれるようになったのかを早速確かめようとしました。

 その瞬間。



――ヴィン。



「ひゃわ!?」


 目の前に別の画面が突然表示されました。

 そこには「call」と書かれていて。

 マーチちゃんからの電話でした。


「もしもし、マーチちゃん? どうしたの――」

『「どうしたの?」じゃないの! どうなってるの、お姉さん!? 朝ログインして入ってみたら、なんかすごいことになってて! そしたら、さっきまた……! こ、これ、見てみるの!』


 そう言って、画像が添付されたメッセージを私に送ってくるマーチちゃん。

 ……あれ?

 なんかこれ、既視感があります。


 画像を開いて見て、私は素っ頓狂な声を上げてしまいました。


「ほあ!? なんか、すごいことになってる……!」


 こちらが私が見たものです。


========


名前:マーチ     レベル:110(レベルアップまで1,000Exp)

職業:商人(生産系)

HP:197/197

MP:109/109

攻撃:175

防御:131

素早さ:114(×1.32)

器用さ:219


装備:『寒熱対策のローブ』

   『防塵ゴーグル』

   『速さのペンダントR』

   『速さのブーツR』


========


 マーチちゃんのレベルが三桁に突入していました。

 前にあゆみちゃんに付き合わされてやったゲームでは「99」が上限だったはずなので「100」を超えてもまだ上げられるという事実に、私は驚きを隠せません。

 固まっていると、マーチちゃんに再度追及されます。


『で? 何をやったの?』

「え、えーっと……。ボス周回を五百五十回くらい……?」

『……ほんとに何をやってるの?』

「……」


 聞かれたので正直に答えると、すごく呆れた声が返ってきました。

 私は何も言い返せません。

 経験値はパーティで分散されるので、マーチちゃんのレベルをここまで上げたのは間違いなく私、ということになります。

 それで、前に見させてもらった時のマーチちゃんのレベルは確か20でした。

 90も上げています。

 ……これは完全にやらかしてしまっているでしょう。



 今、振り返ってみると五百五十回もボス戦をしていたのは異常なことのように思えてきます。

 宝箱に目がくらんでたなぁ、と反省させられていると、マーチちゃんが話題を変えてきました。


『魔石集めに没頭するのはいいの。けど、その様子だと「運営」からのお知らせを読んでるか心配なの』


 魔石集め……あっ!

 そ、そうでした!

 イベントのためにボスの連戦に挑んでいたんでした!

 それなのに、途中から宝箱を出すことの方がメインに……っ。

 私、ダメダメですね……。


 マーチちゃんが、私がやってたことがイベントのためだったと解釈してくれているようなので、そういうことにしておこうと思います。

 イベントも忘れてたなんて知られたら、もっと呆れられちゃう……!


「……あ、あはは。そ、それで、えっと、『運営』からのお知らせって?」

『……なんなの、今の間? すごく怪しい気がするの。……まあ、いいの。「運営」から新しいメッセージが届いてると思うから読むの』

「う、うん」


 メニュー画面からメールボックスを開いて新しいメッセージがあることを確認し、その内容を読んでみます。



『イベント中間発表!(5月4日:ゲーム内①0時‐現実0時)



 いつもご利用いただきありがとうございます。

 「ギフテッド・オンライン」運営チームです。


 現在行われている「魔石集めイベント」の中間発表をさせていただきます。

 10位から1位のパーティ名とポイントを公開いたします。

 上位を狙いたいパーティの皆様は参考になさってください。


 10位 プディン帝国       17,916ポイント

 9位 MARK4          17,956ポイント

 8位 花鳥風月          20,484ポイント

 7位 未設定           21,756ポイント

 6位 イベント特攻隊       23,040ポイント

 5位 我がままに我がままを    42,740ポイント

 4位 未設定(SE002とMAR03)  72,812ポイント

 3位 ROYAL          78,205ポイント

 2位 ギフテッドの旅団      94,396ポイント

 1位 シニガミ         137,216ポイント


 イベント期間中に効果を発揮する課金アイテムはまだまだ販売しております。

 ぜひご利用ください。


 引き続き、「ギフテッド・オンライン」をよろしくお願いいたします。

 「ギフテッド・オンライン」運営チーム一同より』



 記されていたのはイベントの途中経過。

 一位のパーティは六桁に入っていました。

 緑のE魔石は1ポイントで、青錫のE魔石は16ポイントなので、青錫のE魔石だけを集めたとしても8,000個以上を宿屋の受付の方に渡している計算になります。


「……一位のパーティ、すごいね」


 率直な感想が漏れました。

 ですが、マーチちゃんが注目していたのはそこではなくて。


『そこじゃないの! いや、そこも重要だけど……。四位! ボクたちが四位なの! ボクの識別番号がMAR03だから間違いないの!』

「ええ!?」


 なんと、私たちのパーティが四位にランクインしているとのこと!

 そういえば、マーチちゃんが一人で70,000ポイントほど稼いでいたような……。


 私はマーチちゃんに、メニュー画面にある名前の上のところに小さく書かれているのが識別番号だと教えてもらって確かめてみると、そこには「SE002」の文字が!

 この四位の「未設定」は、間違いなく私たちです!

 嬉しさが込み上げてきました。


 ただ、こうなってくるとパーティ名が「未設定」では味気なく思えてきます。

 それはマーチちゃんも同じようで。


『ねえねえ、お姉さん! パーティ名をちゃんと考えた方がいいと思うの!』

「そ、そうだよね! うーん……。何がいいかなぁ? 薬師と商人のパーティだから、薬師、商人……ファーマシスト、マーチャント……――



――『ファーマー』とか?」

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