第59話(第二章第17話) 宝箱を求めて

 それから五の倍数の時に錫プディンとの対戦があって、その対戦を経るごとに緑プディンの数は八、十一、十四……と三体ずつ増えていきました。

 二十五の倍数の時には青錫プディン戦があって。

 緑プディンの数が一回目の数に戻ってから最初に戦った錫プディンや青錫プディンの数は一体に戻っていました。


 最初は、罠かも、と警戒していた私ですが、途中からはそうやって怯えることをやめて宝箱を求めてボスの連戦をするようになっていました。

 ボス周回をするモチベーションとしては、宝箱はもってこいでした。



 そうして二百五十回目のボス戦。

 錫プディン二十体と戦い、勝って部屋を出ようとすると青錫プディン戦が始まります。

 青錫プディンももうルーティーンのように確立された、一体を掴んで振り回すという方法で突破しました。

 そのあとに奴が出現しました。


 紺碧錫玉こんぺきしゃくぎょくプディンです。


 それが二体になっていたら、私は悲鳴を上げていたかもしれません。

 ですが、相手の数は一体でした。

 一安心です。


 例に倣って、上に弾き飛ばされてから猛毒薬を使って対処しました。

 この宝石のようなプディンでも空中で移動する術は持たないようです。

 猛毒薬を避けられなくて消滅していきました。


 さて、また難関をクリアしたので『アレ』が来るのではないか、と期待していたのですが……。


「出ません……っ!」


 宝箱は出ませんでした……。

 ……なんで?



 二回目の紺碧錫玉プディン戦が終わったわけですが、あれから一度も宝箱を見ていなかった私は意地になっていました。


「……出るまでやる!」


 こうして私は沼に嵌ります。



……………………



 二百五十一回目のボス戦、その内容は緑プディン五体でした。

 どうやら、紺碧錫玉プディンを倒すとリセットされるという見立ては正しいようです。


 二百五十五回目で錫プディン一体を倒して、二百七十五回目で青錫プディン一体と戦って。


 そして三百七十五回目、三回目の紺碧錫玉プディン戦に私は勝利しました。

 相変わらずの、上からの猛毒薬撒き戦法で、です。

 この作業にも慣れてきて速く倒せるようになってきてはいましたが、一番の目的は達成させられませんでした。

 宝箱、現れません……!


「……次!」



……………………



「……ど、どうして……っ」


 私は嘆いていました。


 ……五百回目。

 四回目の紺碧錫玉プディン戦を終わらせたのです。

 それなのに……っ。


「なんで出てこないの!?」


 宝箱は私の元にやってきてはくれませんでした。


 メニュー画面を開いて時刻を確認してみると表示されたのは④の二十時八分。

 ……現実では夜の十一時を超えてしまっています。

 ゲームをやっていた時間は十二時間(ゲーム内時間)。

 いつも通りに寝たかったから八時間で区切りをつけたかったのに……っ!

 ゲームが主体になっちゃダメ! ってお母さんに言われてたから……。

 で、でも、宝箱を見つけられていないこのままじゃ、もやもやして終われないよ……。


「……もう一周だけ。それでダメだったら諦めて寝よう……!」


 私は自分にそう言い聞かせて、またボスを復活させました。



……………………



 異変はすぐに起きました。


 五百一回目。

 ボス部屋に入って、入ってきたゲートが封鎖され、現れたのは緑プディン



――ではなく錫プディン五体。



「ふぇ!? 緑プディンじゃない!?」


 ここに来てセオリーを崩してきました。

 同じことを四周もしていたのに……。

 もうパニックです。

 どうしてこのタイミングで変化が生じたのか、その意味がわからなくて私は頭の中が真っ白になりました。


 ただ、そうこうしている間にも敵は攻めてきます。

 それを視界に捉えた私は考えることをやめました。

 まずは倒してから!

 考えるのはそのあとです!



 錫プディン五体を倒すこと自体は問題なく達成しました。

 ゲートは開きましたが、私は外に出ることを躊躇いました。

 イレギュラーは既に起こっているのです。

 出ようとしたらまた閉まって閉じ込められ、上位のモンスターと戦わされるなんてことも容易に想像できます。

 ですから、すぐには出入口の方へ行くことができませんでした。


 五分ほど気持ちの整理に費やしてなんとか覚悟ができた私がゲートへと向かってみると、普通に出られました。

 すごく神経をすり減らしてしまったので、今日はもうやめようかな? と思ったのですが、宝箱が出ていないことを思い出します。


「も、もうちょっとだけ……!」


 ……どうしても宝箱をゲットしたい私がいました。



 五百二回目。

 今回も相手は錫プディン五体でした。

 追加でモンスターが現れることもなく、ホッとします。

 ……宝箱も現れませんでしたが。


 五百三回目、五百四回目も錫プディン五体。

 敵の追加も宝箱もなしです。



 そして五百五回目。

 今まで錫プディンを倒してからじゃないと現れなかった青錫プディンがすぐに出現しました!

 驚いてすぐには動けなかったのですが、相手が正面から向かってくる一体だけだったので攻撃を受けることだけはなんとか回避できました。

 ……なんか、結構前から青錫プディンの動きが遅くなってきているように思います。

 自分のレベルが上がっているからでしょうか?

 ステータスを確認していないのでわかりません……。


 一体だけだったので投げて青錫プディン討伐完了です。

 宝箱は……。

 出ませんでしたぁ……!



 五百六回目、錫プディン八体。

 三体増えていました。

 ……これ、もしかして緑プディンが錫プディンに置き換わってる、ってことなんですかね?

 まだ確証はありませんが……。


 五百七回目、五百八回目、五百九回目――錫プディン八体。


 そして五百十回目、青錫プディン二体。

 錫プディンも青錫プディンに置き換わってる……?

 とりあえず倒しました。

 宝箱は出ず……。



 五百十一回目、錫プディン十一体。

 ……。


 五百十四回目まで同じ内容が続いて、五百十五回目は青錫プディンが三体。

 五百十六回目から五百十九回目まで錫プディン十四体。

 五百二十回目で青錫プディン四体。

 五百二十一回目から五百二十四回目まで錫プディン十七体。


 …………。


 五百二十五回目。



――青錫プディン四体。



 これ、確定です!

 緑プディンが錫プディンに置き換わっていて、錫プディンが青錫プディンに置き換わっています!

 そしてこのあと!

 本来なら青錫プディンが来るところですが、もう青錫プディンは錫プディンに代わって出てきていますから……。

 奴が……! 奴が来るじゃないですか!



 紺碧錫玉プディン……っ!



 まさか、こんなに早いスパンで戦うことになるなんて……っ。

 でも、宝箱を落とす可能性が一番高いのは奴だと思います……!

 私は覚悟を決めて紺碧錫玉プディン戦に臨みました。



 天井に吹っ飛ばされて、猛毒薬を撒いて、勝ちました。

 ……が。


「うええええん! 出ないよおおおお!」


 宝箱には嫌われました。



……………………



 そのあと。

 緑プディンが錫プディンに、錫プディンが青錫プディンに置き換わったボス戦を五百四十九回目までこなした私。


 五百五十回目。


「いやあああああああああっ!」


 私は悲鳴を上げました。



――紺碧錫玉プディンが二体、出てきたからです。

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