第54話(第二章第12話) ゴリラポーションを使ってみる

「……ねえ、マーチちゃん。これ、使っていいかな?」


 私はマーチちゃんに尋ねました。

 以前、『これ』をつくった時にマーチちゃんは『これ』を使うことを強く反対していたのです。


 ゲームのバランスが崩れるから、と。


 ですが、状況はちょっと変わっています。

 今はイベントというものが開催されているのです。

 しかも順位がつけられて、高順位になればなるほどいい景品がもらえるというイベントが。

 私は、イベントをマーチちゃんに頼りきりにしたくはありませんでした。


 私の問いにマーチちゃんは渋い顔をします。


「あんまり認めたくはないの。絶対、面白くなくなるから」

「……そっか」


 マーチちゃんにとってゲームは楽しむものであることは、この数日間一緒にいてなんとなく察せられていました。

 『これ』を使ってしまったら、楽しさは大分減ってしまうことが想定されます。

 どれだけの威力になるのかは定かではありませんが、力押しができるようになってしまう可能性がある以上、できなかったことをできるようにしたいとか、攻略したいというマーチちゃんの望みとは実際の状況が違ってきてしまいますから。


 ダメだと言われるのは予想できていました。

 ですから、私はまた猛毒薬Lを持てるだけつくってもらおうとしたのですが、マーチちゃんが「……でも」と言って続けてきたのです。


「お姉さんだって『運営』から使っていいって許可されてるんだから、私がとやかく言うのは間違ってると思うの。それに、お姉さんよりやばいスキルを持ってる人がこのイベントでそのやばいスキルを普通に使ってくることだって考えられるし……。だから、



――使っていいの。それがお姉さんに与えられた特権だって気がするから」



「っ! ありがとう、マーチちゃん!」


 なんと!

 ダメだと思っていたけれど、マーチちゃんが使うことをOKしてくれたのです!


 私は一応、マーチちゃんに猛毒薬Lが満タンに入った特大フラスコを一つ増やしてもらって、それと空の特大フラスコをいくつかと、私特性の攻撃バフポーションを持って宿屋を飛び出そうとします。

 でも、その前に、


「ありがとう、マーチちゃん! 私、イベントで上位を取れるように頑張るから! マーチちゃんだけに負担がかからないようにするからね!」


 振り返って再度マーチちゃんにお礼を言ってから、私はダンジョンへと向かって行きました。

 その時、マーチちゃんは困った笑顔でぼそっと何かを呟いていたようですが、それは私の耳には届きませんでした。



……………………



 「リスセフ遺跡ダンジョン」に入った私はそこで誰にも見られないように隠れながら「攻撃バフポーション」に『ポーション昇華』を行い、性能を上げられるだけ上げてから飲みました。


 攻撃バフポーションL(Lv:6)――攻撃力を約2,500倍にするトンデモポーションが出来上がっていました。


 そして私のステータスはこんな感じに。


========


名前:セツ      レベル:33(レベルアップまで313Exp)

職業:薬師(生産系)

HP:46/46

MP:192/67(+1)

攻撃:86,802(×2,622.44)

防御:106,568,915(×2,684,355.56)

素早さ:61(×1.04)

器用さ:72


装備:『寒熱対策のローブ』

   『防塵ゴーグル』

   『魔力のペンダント』

   『速さの白い靴』


========


 ……強化したのですが、これだけあれば魔石集めをスムーズに行うことができるでしょうか?

 一応、防御の方は青錫プディンの攻撃にも耐えうることがわかっていますが……。

 それほど高くないHPが心許ないです。

 あと、これまでの戦闘を、一定ダメージを与えられる猛毒薬に頼ってきていたので相手の耐久力がどれだけあるのかも私は知りません。

 生産職、特に薬師は弱い、と言われ続けてきましたが、どれだけ弱いのかはよくわかっておらず……。

 私の想像以上に弱かったらどうしよう……。

 ……ああ、HP回復ポーションがほしいです。



 嘆いていても始まらないため、私は自分の頬をパチンと叩いて気合を入れました。

 それから、もしこの攻撃力が通用しなかったらマーチちゃんに猛毒薬をつくってもらう必要性が出てきますから、私はダンジョン一階にいるリスセフで試してみることにしました。


 ……。


 ……探すと急に出てこなくなるの、なんでなんでしょうね?

 結局、リスセフと遭遇することなく、私は三階まで上がってきていました。


 階段を上がって次の階を目指している時。

 私が、このままじゃボス戦で初めて試すことになってしまうのでは!? と懸念し始めたころでした。

 私の耳に奇声が聞こえてきます。


「ギェ、ギェエエエエッ!」


 声の発せられた方を向くと、緑のオーラを纏いながら私に接近してくるリスセフが!

 私は思わず逃げてしまいました。


 三十秒ほど迷宮のようなダンジョンを走った私は行き止まりに突き当たってしまいます。


「ギェ、ギェエエエエッ!」


 振り返ると、リスセフが攻撃の構えを取っていました。

 私は、この攻撃力でも通用しないかもしれない……! とダメだった時のことが頭を過ってしまって尻込みをしてしまっていましたが、やらなければやられるという状況に陥って覚悟を決めしました。


 リスセフが攻撃するために振り回そうとしていたふんをしっかり掴んで、背負い込むようにしてリスセフを地面に投げます。


「せいっ!」

「ギェエッ!?」


 すると、思ったよりも簡単に投げることができました。

 きれいに決まったと思います。


「ギェ、ギエエエエ……ッ」


 地面に叩きつけられるようになったリスセフは悶えたあと、黒い粒子になって消えていきました。


「た、倒せた……?」


 リスセフがいた場所には二つの緑玉だけが残されていて。

 私はこの攻撃力が通用することがわかって、よかった、と気が抜けてその場に座り込みました。



 第一層のエリアボスを、市販のものですが強化した攻撃バフポーションを使って倒していたことは覚えています。

 ただ、あの時は相手に防御デバフポーションも大量に使っていましたから、そのおかげもあったのかもしれない、って思ってたんです……!


 そしてこっちはあとで思い出したのですが、マーチちゃんが彼女の妹と決闘をするってなった時、戦闘職は生産職の二倍のステータスだ、とマーチちゃんが言っていましたね……。

 攻撃力2,500倍は異常な数値なのだと、今更気づきました。

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