第51話(第二章第9話) セツ、ゾンビになる。

========


名前:セツ      レベル:27(レベルアップまで65Exp)

職業:薬師(生産系)

HP:39/39

MP:1040/56(+1)

攻撃:28

防御:92,073,395(×2,684,355.56)

素早さ:52(×1.04)

器用さ:61


装備:『寒熱対策のローブ』

   『防塵ゴーグル』

   『魔力のペンダント』

   『速さの白い靴』


========


「……よし」

「よし、じゃないの。なんで飲んだの?」


 ゾンビポーション(マーチちゃん命名)を飲んだら防御力がヤバいことに。

 他のステータスが二桁なのに対して八桁。

 九千万を超えています。

 ……っていうか、MPが上限を超えてるんですけど?

 バグでしょうか?


 そして、ゲームのバランスを崩しかねないことをした私に対してマーチちゃんが呆れながら問い詰めてきます。

 そんなこと言ったって……。


「だ、だって、もっとマーチちゃんと一緒にいたかったし……。このゲームが『命を大事に』しないと同じキャラはもうつくれなくなるかもしれないっていうのは知ってるから、何がなんでも生きたかったんだよ……」

「お姉さん……」


 今まで、このスキルを持っていたからここまでやって来れたし、あの時、ボス部屋に放り込まれたマーチちゃんを助けることができたのです。

 だから私は、このスキルを変えたくありませんでした。

 マーチちゃんと私を繋いでくれたものだから。

 死んでしまって、キャラクターをつくり直している間にもし、誰かにスキルを取られてしまったら、と想像するだけで心が乱されそうになります。

 そのことを伝えると、マーチちゃんは私の気持ちを汲んでくれたようで、追及をやめてくれます。


「……仕方ないの。一緒にいたい、っていうのはボクもわかるから」


 そう言って肩をすくめながらも少し嬉しそうに表情を緩めさせるマーチちゃん。

 マーチちゃんが私と一緒の気持ちでいてくれたことに、私は温かい気持ちになりました。


「あっ! じゃあ、マーチちゃんの防御バフポーションもつくる? 材料は取ってきたから――」

「それは遠慮しとくの。ボクはゾンビになりたくないから」

「ええー……」


 マーチちゃんもやられにくくするためにゾンビポーション防御バフポーションをもう一つつくろうとしたのはマーチちゃんに拒否られましたが。


「よくよく考えてみたら、それをつくれるスキルをつくれたんだから、『運営』は使ってもいいって判断したんだと思うの。スキルを死なないために活用するのは、このゲームでは普通のこと……。だから、お姉さんはそれで自分を強化するのは間違ってないの。でもボクは、それはお姉さんの特権だと思うから」


 どうやらマーチちゃんには譲れないものがあるみたいです。



 自分の力でやっていきたい――そんな信念があるように受け取れました。



 私のスキルはゲームのバランスを崩すものであることは疑いようがありません。

 彼女はゲームが好きみたいですから、挑んで、ダメでも考えて、次の攻略に活かしていきたいのだと思います。

 私はマーチちゃんにいなくなってほしくなくて真面目に、私がつくったポーションを使ってほしいと提案していたのですが、彼女の言葉を聞いて、その考え方を、私は尊重することにしました。



 時刻は②の八時四分(朝)。

 現実でも八時になったところです。

 私はお母さんの許可を得ていて、②の一日はゲームの世界にいられることになっています。

 ですので、これから魔石集めを再開させようと思います。

 ③は家のお手伝いをすることになっているのでログインできそうにありませんし、④もそんなにゲームの世界に入れそうにありませんから。

 そのことをマーチちゃんに伝えると、マーチちゃんも③はリハビリや面会の時間になっているそうで私の意見に賛成してくれました。


 私はマーチちゃんに特大フラスコ(猛毒薬L)を二十五個つくってもらい、宿のお部屋でそれらをL(Lv:3)まで昇華させます。

 MPの表示がおかしくなってしまったのかと思っていましたが、そんなことはなく、あれは私がつくったMP回復ポーションを飲んだことで起きた現象だったようです。

 私の『薬による能力補正・回復上限撤廃』というスキルが効果を発揮して、上限を無視してMPを回復させたものと考えられます。

 猛毒薬の品質を高めている時、正常に減っていっていましたから。

 600減って、今は440と表記されています。

 まだ上限を超えてる……!


 さて、準備は整いました。

 マーチちゃんは、ついて行ってもできることはないから宿の部屋で作業してる、とのこと。

 ですから、私一人で「リスセフ遺跡」に向かいました。

 行く前に、宿屋の受付で使わないであろう猛毒薬L(Lv:3)が入った特大フラスコを預けておきます。

 ……これ、実は一回ダンジョンまで行って、アイテムの所持数制限に引っ掛かっているのを知って、帰還の笛を使ってとんぼ返りし、緑のE魔石を拾えるようにしたっていうのが正しいんですけどね……。

 ああ、猛毒薬L(Lv:3)の一回分と二個の緑のE魔石が……っ。



……………………



 気を取り直して「リスセフ遺跡」へ。


 慎重に進んでいったおかげか、リスセフとの遭遇は十回で済ませることができました。

 猛毒薬を多く温存して、安全地帯セーフティエリアに到着です。

 前回の半分くらいの時間でここまで来ることができています。

 道を覚えたことと、敵に気づかれたら逃げるのではなく即座に倒すという方針に替えたのがよかったのかもしれません。


 目的の場所まで来ることができたので、少し休んでからボス周回開始です!


……

…………

……………………


「はあっ!」


 あれから約一時間後。

 私は二十回目になる最後の一体の緑プディンに猛毒薬の投薬を済ませました。

 正確に言えば錫プディンとも四回戦っているので、最後の一体に猛毒薬を掛ける行為はこれで二十四回目になるのですが。

 緑プディンが黒い粒子になって消え、四つの緑のE魔石が残ります。

 私はそれを回収してボス部屋を出ました。


 現在獲得したE魔石は、緑が880個、錫が40個。

 猛毒薬が入っていた容器は十五本が空に(満タンなのは十一本)。


 魔石を集めなければ、ということに意識が傾いてしまっていた私はこの時、重大なことを忘れてしまっていました。


 二十四回目のログアウトからのすぐにログイン。

 二十五回目のボス戦が始まります。

 現れたを倒して、ドロップアイテムを集め、開いたゲートをくぐって安全地帯に出ようとしました。

 その時です。



――ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!



 ボス戦が終了したというのに、再び塞がってしまった壁。

 嫌な感覚が背筋を這います。


 今回が二十五戦目。

 錫プディン四体とは二十一回目の時に戦っていました。

 それはつまり――


「しまっ――」


 気づいた時には遅く……。


「――あがっ!?」


 振り向きざま、私の身体は思いっきり弾き飛ばされました。



――緑のオーラを纏った青みがかった錫色のプディンに。



 死を覚悟するほどの重たい一撃。

 実際、私の身体は地面を転がり続け、私の右側あった壁、それもかなり遠くの方にあった壁に激突するまで止まりませんでした。

 一瞬、本当に死んだと思いました。

 ですが――


「……あれ? 生きてる? ていうか、そんなに痛くない……?」


 私はあの一撃を食らってもピンピンしていたのです。

 ステータスを見てみると、



――HP:42/43



「おおう……っ」


 「1」しかダメージを負っていませんでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る