第49話(第二章第7話) 生きている心地

「ふぇええええ! マーチちゃああああんっ!」

「ど、どうしたの!?」


 私はマーチちゃんに泣きつきました。

 怖かったのです。

 生きた心地がしなかったのです。

 マーチちゃんに抱きついていると、生きてるんだ、って実感できて気分が幾分か落ち着きました。


 私がさっき運よく倒せたのは、青錫あおすずプディン。

 第一層で私が遭遇した黒金くろがねプディンと同じかそれ以上に殺気強めの、いいえ、殺気まみれのモンスターでした。

 あんなのとはもう二度と出くわしたくありません。

 一歩間違えれば死んでいたんですから。



 私が泣き止むのを待ってくれていたのでしょう。

 気分が大分楽になったタイミングでマーチちゃんが聞いてきました。


「……何があったの? なんか、レベルがすごい上がったのだけど……」

「……プレイヤーを倒しに来てるよ、このゲーム」


 私は、私に起きたことをマーチちゃんに伝えました。

 青錫の魔石を彼女に渡しながら。


「一瞬にしてやられそうになったんだ。ゲートが開いたから出ようとしたらまた閉じて、振り向いたら今にも私に攻撃しようとする青錫プディンがいて。前にも一回似たようなモンスターと会ってたから、振り向くと同時に猛毒薬を撒いてて助かったんだけど……」

「……こんな色の魔石、見たことないの。なんでベータテストをしてるボクよりお姉さんの方が先に行ってるの……?」

「マーチちゃん? マーチちゃん!?」


 すると、マーチちゃんの心がどこかへ旅立ってしまいました。

 マーチちゃん、放心状態です。



 しばらくして、心を取り戻したマーチちゃんが彼女のステータス画面を見せながら言ってきます。


「……なるほどなの。上位種を倒したからこんなにレベルが上がったの」


 そこにはこう記されていました。


========


名前:マーチ     レベル:20(レベルアップまで31Exp)

職業:商人(生産系)

HP:44/44

MP:28/28

攻撃:40

防御:32

素早さ:31(×1.32)

器用さ:48


装備:『寒熱対策のローブ』

   『防塵ゴーグル』

   『速さのペンダントR』

   『速さのブーツR』


========


「おおっ、上がってる……! 私はどうかな?」


 このダンジョンに魔石を集めに来てから9レベルも上がっているマーチちゃん。

 マーチちゃんのステータスを見たことで自分のステータスが気になった私は表示させてみます。


========


名前:セツ      レベル:27(レベルアップまで65Exp)

職業:薬師(生産系)

HP:39/39

MP:56/56(+1)

攻撃:28

防御:34

素早さ:52(×1.04)

器用さ:61


装備:『寒熱対策のローブ』

   『防塵ゴーグル』

   『魔力のペンダント』

   『速さの白い靴』


========


 ……ここに来てから4レベルしか上がっていません。

 しかも、あの青錫プディンというとんでもないモンスターを倒したというのに、その時も感覚では「1」しかレベルが上がった感じがしませんでした。

 このゲーム、本当にレベル上げがシビアですね……。



 ステータスよりも変わっていたのは持ち物の方です。


========


セツの所持アイテム一覧

・帰還の笛

・特大フラスコ(聖水)16/16

・特大フラスコ(聖水)16/16

・特大フラスコ(聖水)16/16

・特大フラスコ(MP回復ポーションL Lv:4)16/16

・特大フラスコ(猛毒薬L Lv:4)16/16

・特大フラスコ(猛毒薬L Lv:4)15/16

・特大フラスコ(猛毒薬L Lv:3)2/16

・特大フラスコ(青錫プディンの粘質水)4/16

・特大フラスコ(錫プディンの粘質水)16/16

・特大フラスコ(錫プディンの粘質水)16/16

・特大フラスコ(錫プディンの粘質水)16/16

・特大フラスコ(錫プディンの粘質水)8/16

・特大フラスコ(緑プディンの粘質水)16/16

・特大フラスコ(緑プディンの粘質水)16/16

・特大フラスコ(緑プディンの粘質水)16/16

・特大フラスコ(緑プディンの粘質水)16/16

・特大フラスコ(緑プディンの粘質水)16/16

・特大フラスコ(空)0/16

・特大フラスコ(空)0/16

(2ページ目へ)

========

========


・特大フラスコ(空)0/16

・特大フラスコ(空)0/16

・特大フラスコ(空)0/16

・特大フラスコ(空)0/16

・特大フラスコ(空)0/16

・特大フラスコ(空)0/16

・緑の魔石×55

・赤い魔石×54

・青い魔石×78

・黄色い魔石×203

・黄金の魔石×52

・緑のE魔石×1,010

・錫のE魔石×56

・青錫のE魔石×3

(1ページ目へ)

========


 ……おおう。

 特大フラスコの山です。

 今、見返してみると空のものが多いですね……。

 貴重なものが詰められなくなっちゃいけない! って思って控えてたんですけど、これならもうちょっと緑プディンの粘質水を集めていてもよかったかもしれません。

 ここは反省ポイントです。


 あと、緑のE魔石が1,000個を超えました!

 魔石は四桁までスタックできると知ることができてよかったです!

 こうなるとますます『収納上手×1』の性能が魔石にまで及ぶのが惜しい気がしますが……。


 これを全てイベントポイントに変換するとどれくらいの順位になるのでしょうか?

 「薬師は弱い」、これは不変の事実とのことなので、この程度では上位には食い込めないんだろうなぁ……。


 持てるアイテムの枠に余裕はあります。

 ありますけど……。

 もう一回ボス戦を行う気にはなれません……!

 本当なら、イベントで上位に入るためにやらなきゃいけないんでしょうけど……っ。

 それはわかってるんですけど……っ!

 今はムリなんです!

 精神的にっ!


 もう一回『あれ』が現れたら勝てる気がしません。

 何か対策を講じないと……。

 僅かに反応が遅れてもダメという今の状況を改善できる方法……。



――攻撃を一度受けてもやり直しにならないようにする――には……。



 ……あっ。

 思いつきました。

 その方法が、私にはあることを。


 私は必死でした。

 ここまで積み重ねてきたものを失いたくなかったので。

 なので、それを一度このダンジョンから撤収したい旨をマーチちゃんに伝えました。


「私、今は魔石を集められそうにないかも。とんでもないモンスターと戦って集中力が保てそうにないんだよね。だから、一旦このダンジョンから帰ろうと思うんだけど、どう?」

「そっか。うん。それでいいと思うの。このゲーム、『命は大事に』なの」


 マーチちゃんも賛成してくれたため、私たちは帰還の笛を使って「リスセフ遺跡」ダンジョンをあとにしました。



 このあと、私は第二層のあるダンジョンに寄って目的のものをつくり上げるのですが、それを見たマーチちゃんから棘のある言葉をいただくことになります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る