第45話(第二章第3話) イベント準備
五月二日。
イベントが始まる一日前。
私とマーチちゃんはイベントで上位を狙うために準備を行っていました。
そのために私たちが来ているのは「第二層・砂漠エリアダンジョン1アホクビ砂丘」です。
辺り一面が砂の丘になっていて、照りつける太陽がじわじわと体力を削っていくこのダンジョン。
マーチちゃんが『寒熱対策のローブ』を買ってくれていてそれに着替えていたので、私たちはダメージを受けずに済んでいました。
しかし、如何せん暑いです……!
私たちはふらふらになりながら、ワニ頭でカニのハサミとハチの針を持つタカ型のモンスターが飛び回る砂の大地を彷徨っていました。
第二層に入ってからモンスターも強化されていて、ここに登場するアホクビは赤いオーラを纏わせて攻撃してきます。
マーチちゃんの推測によると、あれは攻撃力アップのバフを掛けているのではないか、とのことです。
たぶん、それ、当たっていると思います。
だって、赤いオーラを纏わせていないものの攻撃と纏わせているものの攻撃では、それを躱して相手が砂に突っ込んだ際に巻き上げる砂の量が目に見えて違っていたのですから。
赤くなっていないものの攻撃が柱が上がるように巻き上げるのに対して、赤くなっているものの攻撃は爆発するかのように砂を舞わせていました。
それが目くらましになって、続く相手の攻撃を躱すのが難しくなりました。
幸いにも、大群に囲まれてそれをやられたことはなかったので、なんとか切り抜けられたのですが……。
ここ、一番厄介なのはこの地形です。
私たちはアホクビに見つからないように気をつけながら移動していきました。
イベントの準備のためにここ、『アホクビ砂丘』に来ているわけですが、私たちの、正確には私の目的はここにあるアイテムを入手することです。
第二層の街・カラカラの街にあった図書館(第一層の街にあったものより大分小さい)で調べたところ、『アホクビ砂丘』に私の求めているものがあるとのことでしたので。
ですが……。
「うーん……。またかぁ……っ」
「……外れなの」
私はそれらしいものをポーチに入れて名称を確認して、落胆の声を漏らします。
マーチちゃんも、今度こそは! と期待していたようで、肩透かしを食らってげんなりしていました。
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MP回復草だったもの……MP回復草のなれの果て。
回復したり素材に使うことはできない。
========
そうです。
私はMP回復薬をつくろうとしていたのです。
ですが……。
……なにこれ?
回復したり素材に使うことができないアイテム?
こんなものがあるなんてっ!
さっきからこればっかりです。
かれこれ十から十五回くらい同じ名前を見ました。
そもそもなかなか見つけられないというのに、やっと見つけてもこれではどっと疲れが出てきて嫌になってきます。
正直、この『ダミーアイテム』の存在にイラッと来ていました。
私は「MP回復草だったもの」をリリースしながらマーチちゃんに意見を仰ぎました。
「どうしよう? 二時間探してこれだもんね……。もう諦めて帰った方がいいかな?」
私、弱気になってます。
これに対してマーチちゃんは疲れた様子を見せていたものの、帰りたくないという意思を示してきました。
「さっき階段があったから二階に行ってみるの。このまま帰るのは負けたみたいで癪なの」
マーチちゃん、結構負けず嫌いみたいです。
彼女が諦めていないので私も諦めるわけにはいきません。
悔しい思いをさせたくありませんから。
ダンジョンを進んでも『帰還の笛』があるので帰るのは問題にはなりませんし。
……………………
というわけで、マーチちゃんが見つけていた階段のところまで慎重に戻って、ダンジョンの二階へ。
階段を上ってすぐ。
そこには簡略化されたオバケのイラストのような実をつけたMP回復草の群生地がありました。
「うわぁ……」
「……こういうこともあるの?」
ダンジョン一階をあれだけ探しても十五個(しかもどれも「だったもの」)くらいしか見つけられなかったのに、こんなことならさっさと階段を上っていればよかった、と私は苦笑、マーチちゃんは溜息をつかされます。
見つけられた喜びより、群生地があることを先に教えてほしかったという気持ちの方が強く出てしまっていました。
とりあえず、目測だけで百個はあろうかというMP回復草を見て、これで目的は達成できそう、と思った私。
でしたが……。
『MP回復草だったもの』
『MP回復草だったもの』
『MP回復草だったもの』
……。
そこは「だったもの」の群生地になっていました。
……………………
結局、私はそこにあったアイテムを全て拾って調べることになりました(マーチちゃんは『ポケットの中のビスケット』というスキルの所為でMPがなくなるとバッグに収納できなくなるため)。
一時間ほどかけて全てを確認したのですが、「だったもの」ではないものは一つもなく……。
私たちは無駄な時間を費やされることになったのでした。
……これはひどいです。
百個ほどあって、その全てが「素材として使えないもの」だったというのは流石にこたえます。
ダミーアイテムの存在を恨めしく思いながら、『帰還の笛』を使って帰ろうか、という話になりました。
ただ、いざ帰ろうとすると、後ろ髪を引かれる思いが込み上げてきます。
私たちがイベントで上位を目指すのであれば、やはりMP回復薬は欠かせない気がするのです。
攻撃力の低い私たちが魔石を手に入れるには猛毒薬に頼るしかなく、その猛毒薬の品質を上げるにも、猛毒薬の数を増やすのにも、MPが必要になってきますから。
不意に、私は下る階段の方を向きました。
「……ねえ、歩いて帰ってもいいかな?」
どうしてもMP回復薬がほしかった私は、もう一回一階を探してみることを選択したのです。
もう結構調べ尽くしていたので望み薄ではあたのですが。
『帰還の笛』を使ってしまうと、その小さな望みすらなくなってしまいますから。
私の考えていることが伝わったからでしょうか?
「……わかったの。ボクも付き合うの」
マーチちゃんは私のお願いを聞いてくれて、一緒に探してくれると言ってくれたのです。
これでダメだったらその時は諦める、ということで、私たちはまたダンジョン一階へ赴きました。
一階に降りてすぐ、オバケのような実をつけた植物を見つけた私たち。
それは上る前にもその場所にあったもので、既に確認はしていました。
ですから、確かめなくても結果はわかっているのですが、私はなんの気なしに拾ってみます。
すると、
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MP回復草……MP回復ポーションの原料となるアイテム。
ほのかに酸味があり、食すとMPが「4」回復する。
========
「……ふぇあ!?」
「え!? な、なんなの!?」
どういうわけか、「だったもの」が取れていました。
私はわけがわからなかったのですが、お目当てのアイテムをゲットできたことに舞い上がります。
「あ、あった! あったよ!」
「ほんと!? ……本当なの!」
マーチちゃんに知らせて。
手を取り合って喜び合いました。
これはあとで知ったことなのですが、このダンジョンはプレイヤーが入ってある程度時間が経つと、その暑さの所為でMP回復草が「だったもの」になってしまう仕掛けになっているのだそうです。
そして、私がMP回復草を入手できたのはリリースした「だったもの」が消滅して元の場所に
ほんと、この地形、嫌いです!
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