第40話 姉VS妹2
~~~~マーチ視点~~~~
『リターンリスタートバグ』――
――決闘中に帰還アイテムを使うことでHP・MP、決闘で使用したアイテムが決闘を行う前の状態に戻るバグ。
ボクはこれをネットで調べて知っていた。
……本当に速やかに直してほしい致命的なバグなの。
『帰還の羽』も当然使っていないことになるから何度だってこのバグが使えてしまうことになるのだもの。
決闘を行う両者が『帰還の羽』を持っていたら最悪。
強さなんて関係なくて、よりスキルに執着してる方が勝ちになる。
そんなの、何が決闘なの? って話なの。
「ふう! 危なかった! HP回復ポーションは持ってなかったからね! でも『
バグを使って粋がっている弥生。
ボクは溜息が出るのを止められなかった。
「……はぁ。そういうことなら仕方がないの。この手はできれば使いたくなかったのだけど」
そして決心したの。
奥の手を使うことを。
本当なら自分だけの力でどうにかしたかったのだけど……。
そうも言っていられない状況になったから。
「何? お姉ちゃんも『帰還の羽』を使うの? いいよ! どっちの忍耐力が上か根競べしよっか!」
なんて言って余裕の笑みを見せてくる弥生にボクは近づいていった。
それから弥生に使ったの。
――麻痺薬を。
「――ッ!?」
ピシッと固まって動けなくなる弥生。
ボクは言ったの。
「ボクはボクの力で弥生に勝ちたかった。自力でやれることを証明しようって思ってた。バグを使われるまでは。そんなことをされたら勝てないの。ボクは弥生ほど執念深くはないから。でも、負けるわけにもいかなかった。お姉さんとまだ冒険をしたかったから」
ボクの説明を受けている間、弥生は何もできないでいた。
四秒なんて優に超えていたのだけど、動けるようになんてなっていなかった。
それもそのはず。
だってボクが使ったのは、
――お姉さん特性の麻痺薬なのだから――。
『麻痺薬(製作者:セツ)』――
――使った対象の動きを止める。
有効期限:無制限。
使われたら二度と動けなくなる薬。
状態異常回復アイテムを使ってもらったり状態異常回復魔法を施してもらわないと解けないから、一対一の『決闘』で使われて麻痺状態になってしまったら治すことはほぼ不可能。
……お姉さんがつくり出すアイテムは本当にとんでもなくチートなの。
使ったら勝てない方がおかしいってくらいに。
だからお姉さん作のアイテムは持ち込まないようにしようと思っていたのだけど、決闘前日にお姉さんに言われたの。
――「『決闘』ってバグってないよね? ……いや、その、『犠牲バグ』をするような子なんでしょ?」――
って。
お姉さんがそう言ってくれたからボクは『決闘』について調べられたし、お姉さんがお守りとして持たせてくれた麻痺薬を持ち込むことにした。
そしてお姉さんが危惧する通りになった。
……持たせてくれたありがとうなの、お姉さん。
「……っ、……っ!」
弥生は痺れているから道具を使うこともできなくて、回復することがままならない。
ボクは攻撃全振りの装備に変更して攻撃にバフを掛けた。
上がった攻撃力が載るようにして――
――『
綺麗に決まった。
ボクはあまり運動神経がいい方ではなかったのだけど、身体が動いて。
相手もまさか蹴りが来るとは思っていなかったみたいで、心構えもできていなかったのだと思う。
だから致命的なダメージが入った。
HPゲージが一気に真っ黒になって、弥生が黒い粒子になって消えていく。
こうしてボクは守ったの。
お姉さんと冒険する時間を。
~~~~弥生視点~~~~
「あり得ない! ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく!」
あんなインチキなアイテムを使うなんて!
それに、スキルは三つとも手放したくないから換えない(『決闘』を申し込まれた側はスキルを換えないことも選択可能)、とか!
雑魚のくせに何様なの!?
お姉ちゃんのくせに!
私はすぐさまログアウトしたよ。
そしてそのままお姉ちゃんの部屋にいった。
ヘルギアをつけてベッドに横になってるお姉ちゃんからヘルギアを無理やり取り上げる。
なんか唸るような声が聞こえてきたけど、私は無視した。
お姉ちゃんのノートパソコンとヘルギアを持ち出して、私は私の部屋に戻ってヘルギアを装着した。
「――チちゃん、マーチちゃん!」
少し痛い感じがしたけど『ギフテッド・オンライン』の世界に入って来れた。
見覚えのある「始まりの街」の噴水広場。
私の目の前には私の肩を掴んでる冴えない薬師の子。
手を見ると『イツキ』より小さくなっていて、商人特有のバッグを背負っている。
どうやら無事に『
私は早速自滅してこいつのスキルをもらおうとした。
街の中じゃできないから外に出ようとしたんだけど、それを冴えない子が私の肩に置いているその手を退けなかった。
「……どこに行こうとしてるの?」
……こいつ。
確かお姉ちゃんと一緒にいたクソザコの薬師だよね。
お姉ちゃんは姉みたいに慕ってたっけ。
こいつに用なんてないから適当にあしらって、私は私の目的を果たそうとした。
「えっと、ちょっとダンジョンにレベルを上げに行ってくるだけなの、お姉ちゃん」
こんなところで時間を取られたくない。
お姉ちゃんがヘルギアを取りに来るまでに終わらせたいんだよ!
私は姉の振りをして撒こうとした。
姉を装うのは自信があったから。
でも、こいつは手を離してはくれなかった。
そして、
「……お姉ちゃん?」
「キミ――
――あの子の妹だね」
「っ!?」
見破られた。
自信があったのに……!
なんで!? って考えていると答えを明かされた。
「あの子は私のことをお姉さんって呼ぶんだよ」
「っ!」
しまった!
いつもお姉ちゃんって言ってたからいつもの癖でやらかした!
薬師の子は冴えないのに自分の発言に迷いはないって顔をしてる。
……今から取り繕うのは無理そうだね。
できないことはないけど時間がかかるだろう。
クソザコの分際で私の予定を狂わせて、ムカつく……!
私はどうしようか考えた。
この状況を乗り切る方法を。
そして、ハッとした。
――『決闘』で私が使われたインチキなアイテムを使えばいいんだ――
って。
あれを使われたら動けなくなった。
たぶんバグか改造された麻痺薬だ。
私はバッグの中を漁って目的のものを見つけた。
口角がつり上がってるのがわかる。
「なんであの子の中に入ってるの?」
そう聞いてくる冴えない薬師に私は投げつけた。
インチキな麻痺薬を!
「ずっとそこで止まってろ、ざぁこ!」
インチキな麻痺薬はその薬師の胸の辺りに当たってパリンと割れた。
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