第39話 姉VS妹1
決闘をする際は別の空間に移動させられるようです。
マーチちゃんとイツキはスタジアムのような施設のフィールドの上に。
私は観客席のような場所に転移させられました。
私と反対側にある観客席の位置には大きな画面があって、そこに決闘開始までの時間やルールなどが記されています。
・試合開始は今から一分後
・制限時間なし――HPが0になると負け
・この空間でHPが0になったとしても一からのやり直しにはならない
・決闘終了後、ステータスは決闘前の状態に戻る
・勝者は敗者が持つスキルの中から好きなものを一つ得ることができ、敗者にいらないスキルを一つ渡すことができる
・アイテム、装備の持ち込みは可
・使用、破壊されたアイテム、装備は決闘終了後に決闘前の状態に戻る
マーチちゃんは真剣な顔でそれを確認していました。
五秒前からはカウントダウンが始まります。
5
4
3
2
1
決闘開始です。
~~~~マーチ視点~~~~
カウントダウンが0になると同時にボクは動いた。
バッグから素早さバフポーションを取り出して使用したの。
その数は効果が表れる限界の四つ。
それだけ使っても1.16倍にしかならない気休め程度のものだけど。
事実、ボクの素早さは「31」までしか上がらなかった。
槍使いは素早さが高いからどう足掻いても勝てない。
それでも上げる必要があったの。
「素早さのバフかな!? お姉ちゃん、私が防御無視のスキル持ってるって知ってるはずだもんね! そんなショボい薬に頼らないといけないなんて嘆かわしいね! 私はこんなに早く動けるって言うのにさっ!」
離れた位置で槍を構えて突き刺す動きを見せる弥生。
普通なら十メートル近く間があるこの距離で当たるはずのない攻撃。
でも弥生のあれは当たってしまうの。
それがスキル・『遠隔』――
――攻撃した方向に、その勢いのままに射程が障害物に当たるまで延びるスキル。
だからボクは避ける動作に入った。
距離があったから躱すのは難しくなかった。
けど、弥生はまた突き刺す構えを取っていた。
……すぐに決着をつける気みたい。
ボクは逃げることに専念した。
素早さバフポーションの有効期限に気を付けながら。
弥生は遠隔攻撃をしながら距離を詰めてきている……。
徐々に躱すのが難しくなる。
でも、逃げきればチャンスがやって来るの!
『遠隔』を使うにもMP1が必要だから!
そして槍使いはMPが少ない!
――だからすぐ魔力切れを起こす!
ボクも何度も経験したことだからよくわかる。
MPがなくなったら武器が当たる位置まで近づかなくちゃいけないことを。
ボクはその時を待っていた。
弥生の攻めが止まった。
MPが切れたみたい。
「ここなの!」
ボクは駆け出そうとした。
けど、弥生も対策を立てていたの。
「へえ。MP切れるの待って何を企んでるのかなぁ?」
弥生はMP回復ポーションをポーチから取り出した。
それも二十四本も。
その数に、ボクは唖然として立ち止まってしまったの。
……突っ走るべきだった。
この距離でMPを回復されたのは不味いの……!
ボクとの距離は四メートルほど。
しかも弥生には『貫通』というスキルがある……っ。
スキル・『貫通』――
――相手の防御力を無視してダメージを与えられるスキル(要MP)
それを食らったらひとたまりもないの!
いつ使うかわからないから弥生の攻撃は全部回避しなくちゃいけない!
ボクは恐怖を感じてしまった。
一発でも当たったらアウトという状況に。
それで動きが鈍ってしまった。
――ドスッ!
「うぐぁ……っ!?」
刺さった。
刺さってしまった。
左肩に。
痛い……っ。
すごく痛い……!
意識が持っていかれそうだった。
けど、
――持っていかれてはなかった。
この攻撃に弥生は『貫通』を載せていなかったの!
ボクはこの時、それを理解してはいなかったのだけど動いた。
動けたから。
動かなくちゃいけないって思ったから。
「しまったなぁ……。貫通攻撃にしてれば――」
なんて今しなくてもいい反省をしてる弥生との距離を詰めて。
ボクは弥生に使ったの。
――幻惑薬――を。
「……ん? はぁ!? な、なんでビッグスクオスが!? こ、このっ!」
すると弥生は空を見上げて顔色を悪くした。
何もない空を見上げて。
そして、槍を空に向けて突き始めた。
何度も。
『幻惑薬』――使った対象に幻覚を見せる薬。
有効時間は四秒。
有効時間が心許なかったからいくつかストックしていたのだけど、弥生は四秒が経過するまでにMPを使い切ったみたい。
槍の先端から衝撃波が発生しなくなっていた。
「ハッ! あ、あれ!? ビッグスクオスは!?」
薬の効果が切れて困惑する弥生。
ボクは弥生が仮想の敵と戦っている間に準備を整えていた。
自分に攻撃バフポーションを使い装備も替えて攻撃力を上げ、弥生に防御デバフポーションを使って耐久性を下げて!
「そんなの最初からいないの!」
空ばかり気にしている弥生のボディめがけて。
――ボクは拳を思いっきり叩きつけた。
「ぎゃばっ!?」
弥生は吹っ飛んで二、三回地面を転がった。
この一撃で勝つつもりだったけど、どうやら『
まだ決着はついていなくて少し焦らされる。
でも冷静にならないと……。
たぶんだけど、二十四本のMP回復ポーションを使っていたことを考えると弥生の今の最大MPが24である可能性は高い。
レベルは9といったところ。
あの時より下がってるから一回やり直しになってるの、これ……。
……今はそのことを考えてる場合じゃないから一旦置いておくとして。
レベル9のフェンサーのHPは27。
キャラクターの上部に表示されているHPゲージを見る限りダメージ20は入っているはず……!
ボクは装備を素早さ全振りの装備に替えてまだ蹲っている弥生の元へと走った。
決着をつけるために。
けれど、弥生は取り出した。
――帰還の羽を。
「帰還の羽!?」
『帰還の羽』――ダンジョンで使用するとそのダンジョンがあるエリアの街に
転移することができるアイテム
消耗品
それはダンジョンでしか使えないアイテムで、決闘で使っても効果は得られないはずだった。
本来なら。
でも、『決闘システム』は導入されてまだ日が浅かった。
完璧ではなかった。
『決闘システム』には、
――運営が見逃していた大きなバグが存在していたの。
『帰還の羽』を使って一度姿を消した弥生。
そしてすぐにその姿を現す。
HPゲージが真緑になった状態で。
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