第41話 姉VS妹3
~~~~弥生視点~~~~
街の中でもアイテムの使用はできるんだよね。
これで何もできない置物の出来上がり。
さぞかし戸惑っていることだろうと私は彼女の顔を拝んでおくことにした。
けど――
「……そういうことするんだね。あの子とは大違いだよ」
「なっ!?」
そいつは動いていた。
掴んでいるその手を放すこともなかった。
確かに当たったはずなのに。
それなのに――。
私は戸惑わされた。
私がどうやっても動けなかったのに、なんでクソザコのこいつが動けてんの!?
「麻痺薬は麻痺薬だからね。耐性がついちゃうと効かなくなっちゃうんだよ」
わからないっていうのが顔に出てたみたい。
説明された。
意味はちっとも理解できなかったけど。
恐らく、そういったスキルを持ってるんだろう。
私は考えた。
この状況を打開できる方法を。
考えながら何か持っていないかとバッグの中を細かく調べた。
そうして見つけた。
――こいつがまだインチキなアイテムを持っていることを。
『猛毒薬(C)』――
――使った対象に四秒につき最大HPの1%ずつダメージを与えるアイテム。
有効時間:無制限。
有効時間に制限がないってことは、これを使われたら時間はかかるけど死ぬってこと。
これをこいつに使えば……!
私は猛毒薬も冴えない薬師に使おうとして、ふと思いとどまった。
さっき麻痺薬が効かなかったじゃん。
だからこいつは状態異常を防げるタイプのスキルを持ってる可能性が高い。
ならこのアイテムはこいつに使わない方がいい。
無駄になるから。
じゃあ、このアイテムはどうするか?
すぐに閃いた!
――『
どうせ自滅しようとしてたんだ。
その死に方が変わったって問題はない。
私は猛毒薬を薬師の子に見せつけるようにして取り出した。
そしてそれを相手が止める間もなく一気に飲み干した!
これで目的は達成される!
私、天才!
薬師は驚いた表情で固まっていた。
「アハハハハッ! まさか自分で飲むとは思わなかった!? 残念でした! 私はこいつのスキルがもらえればそれでいいの!」
相手を出し抜くのは気分がいい!
私は楽しくて楽しくて仕方がなかった。
けど、その楽しさもすぐになくなっていった。
――私のHPが減っていなかったから。
「な、なんで!? 猛毒薬でしょ、これ!? なんでHPが減らないの!?」
困惑する私に冴えない薬師が言ってきた。
「……耐性をつけておいたからだよ。でもまさか、あの子の言ったとおりになるなんてね。私に麻痺薬を使って、自分に猛毒薬を使うって……」
「意味わかんない! わかるように言って!」
もったいぶったような言い方に腹が立って私は説明をお願いした。
薬師の子から説明される。
「簡単な話だよ。状態異常にする薬は何個も使うとその状態異常に対する耐性ができるの。それを利用しただけ。私には市販の麻痺薬を大量に投与してあって、キミの身体には市販の猛毒薬を大量に投与してある。だから私は痺れなかったし、キミは苦しまなかったの。キミのお姉さんが予測した通りになって驚いたよ」
「な――っ」
私はとっさに確かめた。
ステータスを見ると16%ほどのダメージを受けていて。
これが耐性を得るために服用した猛毒薬によるダメージらしい。
ちゃんと確認していれば……!
私は後悔してもしきれなかった。
何よりも、あの姉に妨害されたっていうのが納得できなかった。
もうインチキな麻痺薬はない。
インチキな猛毒薬もない。
どうやってこいつを撒いて自滅しようかを考えていると、何かを掛けられた。
「わぷっ!? な、何……!」
「市販のHP回復ポーション。品質は幾分か高くしてるけど」
ステータスを見て私は愕然とした。
――HP:1169/28
あり得ない……!
上限を超えて回復してる!?
表示がぶっ壊れたのではないかと思って動揺していると、薬師は言ってきた。
「死なせないし殺させない。どんな手を使ってでも止めてみせる」
肩を掴んでいたその手に力を籠められる。
「覚悟してね。私は結構執念深いよ? HPが減ったら回復させるし、誰かを手に掛けようとしたら全力で助ける。キミが諦めるまで何度でも、何度でも何度でも何度でも何度でも」
「ひぃっ!?」
その姿は異様だった。
とてもじゃないけど薬師が出せるオーラじゃなかった。
私は何を勘違いしていたんだろう。
あのインチキな薬は姉が用意したものだと思い込んでいた。
けど、こいつがさっき使った回復量がおかしなHP回復ポーション。
こいつだったんだ。
あの馬鹿げた性能の薬をつくったのは……!
こんな奴が姉の近くにいたなんて……!
私は怖くなって逃げるようにログアウトした。
~~~~刹那視点~~~~
『マーチちゃん』の姿をした彼女の妹が消えたあと。
マーチちゃんはその日、ゲームの世界にやって来ることはありませんでした。
というか、それから現実時間で二日間やって来なかったのです。
私は心配で仕方ありませんでした。
それでも、私はゲームでしか彼女と繋がっていませんから、ただ待つことしかできませんでした。
そして二日後。
彼女はログインしてきます。
私は久し振りに彼女に会えたことに喜んだのですが、そうもいっていられない状況になっていました。
――彼女はゲーム中にヘルギアを無理やり取られたことで脳にダメージを負い、下半身が動かせなくなってしまったというのです。
私はショックを受けました。
それと同時に、彼女がそうなる原因をつくった彼女の妹に対してとめどない怒りが湧いてきました。
それでも彼女は言ってきました。
――まだマシな方なの。深刻なダメージを受けて記憶障害や人格の崩壊、最悪脳死になる事例もあるみたいだから。リハビリをすれば日常生活には支障がないレベルまでは回復できるなら、それは幸運なの。
と。
彼女は不幸に屈してなどいなかったのです。
彼女が諦めていないのなら、私が暗くなっている場合ではありません!
怒りの感情はどこかに放り捨てて、彼女のためになる行動をしようと思いました。
何か私にできることはない? と聞くと、彼女はこうお願いしてきたのです。
――ここでボクとまた一緒に冒険をしてほしい――と。
――ここでの楽しい経験があればつらいリハビリにもきっと耐えられるから――と。
私は決意しました。
もっと楽しい経験を彼女と一緒にしていくことを。
―――― 第一章・おわり ――――
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