第34話 冒険
水曜日はそれで終了です。
……………………
木曜日。
私は宿屋のお部屋でマーチちゃんと宿題をやっていました。
その時の雑談で彼女が教えてくれます。
「そういえば、今日の早朝にアップデートがあったの。製品版が出て半月ってことで要望が多かった決闘システムが導入されたそうなの」
「……決闘システム?」
「ボクも試したわけじゃないから定かじゃないけど、プレイヤー同士がスキルを掛けて戦うもので、
――勝った方が相手からほしいスキルを奪って、いらないスキルを負けた側に押しつける――
そういう仕組みだって公式サイトには載っていたの」
「え? でも、どうやったら決着がつくの、それ? HPを0にするとかだったら一からやり直しになっちゃうんじゃ……?」
「勝敗はどちらかのHPが0になるとつくけど、決闘でHPが0になった場合はやり直しにはならない仕様みたいなの。HP・MPは決闘前の状態に戻るし、決闘で使ったアイテムも決闘が終わると決闘が始める前の状態に戻してくれるって」
「へぇ……」
決闘システムなるものが追加されたとのこと。
これはスキルが全てといっても過言ではないゲームですので、盛んに行われるのではないでしょうか?
私はやりませんけど。
スキルはいいものに恵まれていますし、戦う必要がないのなら戦いたくはありませんから。
ですから、私はその追加要素にそそられませんでした。
……………………
二人とも宿題が片付いたので、今日やりたいことを行います。
昨日できなかったもう一つのアイテム・攻撃デバフポーションづくりです!
必要となる素材は『草原エリアダンジョン3・タチシェスのいる自然公園』で揃うそうなので西へゴー! です。
……
…………
……………………
ダンジョン踏破です。
そこにはタチシェスというニワトリの頭と脚をもつカメの甲羅を背負っていて、巻貝の殻にお尻を嵌め込んだ、翼の部分が大きな貝殻になっているモンスターがいたのですが、彼らは何分遅く、逃げるのが簡単でした。
デフォルメされたアホクビがしなしなになったような青い実をつけたヨワ草を採取しながらでも逃げられました。
そして最上階。
大きなタチシェスと青プディン四体という内容のボス戦です。
黄プディンの粘質水が三つしかなく、猛毒薬の数が明らかに足らないという状況だったのですが、マーチちゃんのスキルを使って切り抜けました。
猛毒薬量産の力押しです。
獲得経験値は「10」。
……シビアです。
それから昨日同様、宿屋のお部屋で攻撃デバフポーションを製薬しました。
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攻撃デバフポーション(L Lv:2)
使用すると攻撃力を1/16にする。
同一の薬を使用するとその分の数値が上乗せされる(プラスされる)。
但し、薬系アイテムは四つよりも多く重ね掛けすることはできない。
同種の薬を使用すると上書きされる。
×有効時間は四分 → 有効時間:無制限
×使用期限は生成してから四日 → 使用期限:無制限
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攻撃力を十六分の一にする薬。
これはいくつ持っていてもいいのではないでしょうか?
もしもの時、私やマーチちゃんを助ける「命の綱」になってくれる気がします。
今回は「L Lv:2」でとどめたのでマーチちゃんもバッグに仕舞えるはずです。
私がマーチちゃんにこの薬を渡した時ですが、彼女は私になんとも形容しがたい目を向けてきました。
「またヤバイモノをつくったんじゃないだろうな、こいつ……」みたいな……。
昨日、ゲームのバランスを壊しかねないことを仕出かしていますからね。
ちょっと信用を失っているのかもしれません。
「……まあ、これくらいなら、うん、まあ……」
それがマーチちゃんが『攻撃デバフポーションL Lv:2』の詳細を見た時の感想でした。
あとつくっていないのはHP回復ポーションだけ。
ですが、私、どこにでもいるはずの通常プディンと一回も遭遇したことがありません。
通常プディンを探すか、或いは……。
そう考えて、思いが口を衝いて出ました。
「……第二層、行きたいなぁ……」
第二層に行けば新しいアイテムが手に入れられるはず。
そうすれば新しい薬がつくれるようになるはずなのです。
私は薬をつくることに楽しさを見出していました。
「第二層に行く……!? 本気なの!?」
私の呟きにマーチちゃんが反応します。
大変驚いた様子で。
「え? ……うん。だって、新しいアイテムもつくってみたいし……」
私がそう伝えると彼女は溜息をついて諭すように言ってきました。
「……はぁ。あのね、お姉さん。このゲームじゃ、生産職だけでエリアボスを倒すなんて無謀なの。実力のあるパーティに依頼してキャリーしてもらうしか生産職がエリアを突破する方法はないって言われてるの。それくらいエリアボスは強力なの」
――無謀――。
そう言われて、私は自分たちだけで行くのは諦めてどこかのパーティに連れていってもらうことも検討し始めます。
ですがふと、思いました。
「それ、頼んだとして、生産職を第二層に連れて行ってくれるパーティっているのかな?」
馬鹿にされている生産職を守りながら戦ってくれるパーティが果たしてどれほどあるのだろうか、と。
そして、返ってきた答えはこれで……。
「……第二層に行けるパーティは第二層で活動してて戻ってくることは基本的にないからそうすると、依頼を受けてくれるパーティの実力を見抜く力が必要になってくると思うの。下手なパーティに依頼すると最悪盾に使われるかもなの……」
それを聞いて私は決断しました。
――やっぱり私たちだけで第二層を目指そう――と。
もう裏切られるのは嫌だったから。
その意思をしっかりと持った私は、お部屋の扉の前まで行き、振り返ってマーチちゃんに告げました。
「明日、エリアボスに挑みに行こう! これからボス戦に備えてアイテムを調整してくるよ」
言われたマーチちゃんは目を白黒させていました。
「ええっ!? どうしてそうなるの!?」
私は答えます。
「私も犠牲にされたりいろいろとやられてるから、壁なんかにされたら耐えられない。だから私は自力で第二層に行く。負けるつもりはないよ。まだまだマーチちゃんと一緒に冒険がしたいからね」
「お、お姉さん……」
私の思いを聞いたマーチちゃんは納得はしていない表情でしたが、私を止めることはありませんでした。
宿屋を出た私は道具屋へと入ります。
マーチちゃんは死んだらもう『マーチちゃん』ではやり直さないと言っていました。
生産職はもうやらない、と。
だったら、死なせるわけにはいきません。
彼女とのこの関係を終わらせたくなかったから。
私は必死になって様々なことを想定しました。
私が死なないように。
彼女を死なせないために。
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