第30話 金欠解消作戦、遂行

 火曜日。

 学校に行って、この日もあゆみちゃんは休みで、あゆみちゃんのためにもノートを取って、帰りにあゆみちゃんのお見舞いをして、あゆみちゃんはやっぱりゲームをしていて、もう知らないとほかっておくことにして帰宅しました。


 宿題を終わらせて十七時頃、ログインします。



 ゲームの世界に入ると私は宿屋の受付のところにいました。

 どうやら一日(ゲーム時間)3,000Gのようで、時間が来ると強制的に部屋から出されてしまうようです。

 受付にいたNPCの方の説明によると、数日分を纏めて払うことも可能ですが、お部屋から出てしまったらキャンセル扱いとなり、また代金を支払っていただかなければならなくなるのでお勧めはしないとのこと。

 ちなみにこの連泊機能は、HP・MPが一日で回復しきらないプレイヤーさんのための措置だそうです。


 私は3,000Gを払ってお部屋を借りようとしましたが、パーティメンバーがもう借りているとのことで通してもらえました。

 案内された部屋にノックして入るとそこには、



――黙々とバッグに『帰還の笛』を出し入れしているマーチちゃんの姿――が。



「ま、マーチちゃん? どうしたの? 目が据わってるけど……」

「……あ、お姉さん。なんか久しぶりな感じがするの」

「まだ一日も経ってないよ!?」


 彼女の明らかに異様な感じを漂わせている目とさっきの言葉から私は察しました。


「マーチちゃん、もしかしてずっとやってたの?」

「……ずっとじゃないの。気づいたら現実が朝の六時になってて。シャワー浴びて学校行ったけど眠気と死闘を繰り広げながら授業を受けることになって……。終わったらすぐに帰ってきて『帰還の笛』増やしを再開したの。現実時間で言えば三十分くらいやってる、かな……?」

「……寝てないってこと?」

「……えーっと、増えていくのを見てると楽しくなってきちゃって……――そ、そんなことよりこれ、見てほしいの!」


 学校にはちゃんと行った……じゃなくて!

 大変です!

 マーチちゃん、寝る間も惜しんでアイテムを増やし続けていしたそうです!

 私の眉間にしわが寄ったのを見て、怒られるのを回避しようとしたのでしょうか?

 彼女は成果を見せようとしてきました。

 所持アイテム一覧の画面を私に見えるようにします。


========


・帰還の笛×1

・帰還の笛×9

・帰還の笛×9

・帰還の笛×9

・帰還の笛×9

・帰還の笛×9

・帰還の笛×9

・帰還の笛×9

・帰還の笛×9

・帰還の笛×9

・帰還の笛×9

・帰還の笛×9

・帰還の笛×9

・帰還の笛×9

・帰還の笛×9

・帰還の笛×9

・帰還の笛×9

・帰還の笛×9

・帰還の笛×9

・帰還の笛×9

(二ページ目へ)


========


 二ページ目も『帰還の笛×9』で埋め尽くされていました。

 それだけでなく、持ち切れなかったのか三十個ほどの『帰還の笛』が宿のお部屋の中の二つあるうちの片方のベッドの上とテーブルの上を占領していました。

 それでもまだ増やそうとしているマーチちゃん。

 一種のトランス状態とでもいうのでしょうか?

 私は慌てて止めました。


「マーチちゃん、寝なさい!」

「ふぇ!? で、でもまだ、恩を返せてない――」

「マーチちゃんが倒れちゃう方が私はヤダよ!」

「……へ? そう、なの……?」

「そうだよ!」


 マーチちゃんに言い聞かせながら、私は彼女を開いているベッドに連れていって寝かせました。

 このゲーム、ゲーム内での睡眠も現実の身体を休める効果があるそうですから。

 開発者がこのゲームを宣伝する際に言っていました。

 科学の力で睡眠時間も四分の一にすることを可能にした、とか。


 ベッドの脇で見張る私に対して、見られていたら眠れないというマーチちゃん。

 もう無茶はしないことにしたみたいなので、私は消えかけていたアイテムをできるだけ回収し、扉の横のフックに掛けられていたベルを鳴らして受け付け人を呼び、もう一日お部屋を借りれられるようにしてログアウトしました。

 ゲームを終了する前、マーチちゃんのことをちらっと見た時、彼女は寝息を立てていたのでたぶん休めるでしょう。



……………………



 夕食とお風呂を済ませて二十時半。

 ログインしてマーチちゃんの様子を見てみようとすると、彼女の姿はどこにもなく……。


「あ、あれ!?」


 私は焦らされました。

 何か事件に巻き込まれてしまったのではないか!? と気が気でなくなります。

 慌てていたため、部屋から駆け出そうとしてテーブルの脚に盛大に足をぶつけて転倒してしまいました。


「あぐっ!?」


 ガタンッ! とテーブルも倒してしまって。

 その際、何かがテーブルの上からひらりと落ちたようで、それは私の目の前の床に滑るようにやってきました。

 それは紙で、こう記されていました。



『現実で寝てきます。おやすみなさい――マーチ』



と。


 誘拐などではなくてホッとしました。

 そういえばここ、パーティメンバー以外入れない仕様なんでしたっけ?

 ……落ち着きがなさすぎです、私。



……………………



 火曜日は私もログアウトして眠ることにして、水曜日。


 あゆみちゃんの風邪は長引いてます。

 熱があるのにゲームをしてるので当たり前といえば当たり前ですが。

 私は月曜日と火曜日に彼のお家でひどい目に遭っていますので、ノートは他の人に取ってもらうことにしました。

 あゆみちゃんには反省してもらいたいものです!



 そして放課後。

 帰宅して宿題を終わらせて、ログインすると宿の受付で、少し離れたところにマーチちゃんが既にいて私には見えませんがメニュー画面を操作しているようでした。


 声を掛けようとしたところでメニュー画面が開きました。

 マーチちゃんから「messageメッセージ」が届いた、と。

 私はマーチちゃんに気づいてもらうために近づきました。


「マーチちゃん! 体調は大丈夫?」


 彼女はゲームの中でですが、二日間も寝ずに作業を行っていたのです。

 ただ、いくらゲームの中といっても体感は現実と変わりありません。

 身体を壊してしまっていてもおかしくはないのです。

 ですから、私は彼女の調子を確認するところから入りました。


「あっ、お姉さん。大丈夫なの。その、ああいうの、偶にやっちゃうから……」


 マーチちゃんは初めてじゃないから心配いらないと苦笑して返してきましたが、それはそれで心配になる回答でした。

 この子、ちょっとだけあゆみちゃんと似ている気がします。

 自分の身体のことを顧みずにゲームをするところが……。


 私が本当に大丈夫なの? と思っていると、彼女は言ってきました。


「今メッセージ送ったけど、会えたから直接言うの。お姉さん、



――換金しに行ってみるの!」



 そう言ってわくわくした様子で歩き始めたマーチちゃん。

 私はそんな彼女のあとについて行きました。

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