第27話 バッグを背負った少女6

~~~~ バッグを背負った少女視点 ~~~~



 ものすごい悲しそうな顔をされたから、パーティになることについOKしてしまったの。



 『マーチこれ』はボクじゃないっていうのに……。



 パーティを組むことを了承したらあんなに嬉しそうな顔をされて、余計に言い出しづらくなっちゃった……。


 ……仕方がないの。

 『ボク』が返ってくるまではこの人のパーティでいよう。

 『ボク』が返ってくる目途が立ったら、



――自然に見えるように自滅しよう――。



 そうすればこの人を傷つけるのも最小限で済む。

 そうしよう。

 それが最善のはず……。



 このゲームではパーティになるとメニュー画面を開いた時にパーティの状況を確認することができるようになるの。

 それでそこから現実で言う電話のように離れているメンバーと連絡を取ることも可能になる。

 そのことを説明すると、彼女は目を輝かせていた。

 ……心苦しさが増していくの。


 ボクがそんな感覚に陥っていると、彼女は何かを思いついたように手を叩いて朗らかにこんなことを言ってきたの。


「あっ、そうだ! 折角仲間になってくれたんだもん! これ、あげるよ! 仲間は大切にしたいからね!」


 ポーチから何かを取り出してそれをボクに渡してくる彼女。

 それは笛の形をしていたの。

 ベータテストでも見たことがなかったアイテムだった。

 だから、一度バッグに仕舞って詳細を見る必要がボクにはあって……。


 確認して、ボクは驚愕した。


========


帰還の笛――ダンジョン内で使うことができるアイテム。

      そのエリアにある街まで転移できる。


      使用してもなくならない。


========


「まっ!? 帰還の羽の上位アイテム!? こ、ここここ、こんなものいただけないの!」


 な、何を渡してるの、この人!?

 ベータテストをやってた人間ボクが知らないってことはこれはレアなアイテムのはず……!

 そういうものを易々と他人に渡すものではないというのに……っ。


 レアアイテムを返そうとするボクだったけど、彼女は頑なに受け取ろうとしなかったの。


「いいから、いいから! これがあればそうそう死なないでしょ? 私はマーチちゃんに生きててほしいから!」


 笑顔でそんなことを言ってきて……。

 いい人、いい人なんだろうけど……!

 ……やっぱりこの人、初心者なの!

 そして絶対に騙されやすい人なの……っ!


 どうしても引き取ってくれなかったから、ボクは意を決して言うことにしたの。

 ボクが注意しなかったら、いつかこの人はひどい目に遭うって思ったから。

 優しい人がつらい状況になるのは見たくなくて。


「お、お姉さん! ボクが持ち逃げしたらどうするの!? このアイテムを持ち去ってパーティを解消するかもしれないの! だから、こんなレアなアイテム、簡単に渡しちゃダメなの!」

「……え? 私、騙されてるの? マーチちゃんは持ち逃げしちゃう?」

「そういうことじゃないくて! そういうこともあるかもしれないって話をしてるの! 奪われてからじゃ遅いの!」

「ご、ごめんっ。次からは気をつけるよ……」


 ……ふう。

 なんとか言い聞かせられたの。

 この人、ボクよりも年上みたいなのに、危なっかしい感じがするの。

 ボクがパーティでいる間にどんなことが危険に繋がるのかを教えておかないと……!


 ボクみたいにはなってほしくないから。


 だからついでに、ステータスの見せ方も注意しておいた。

 ボクからしたら、こっちの方が本命かもだけど……。


「あと、ステータスを見せる時に一緒にスキルも全て見せてたけど、あれもダメなの! この世界ではスキルが全てと言っても過言じゃないから、PK……いいスキルを持ってるキャラをやってから自害して一からやり直す際に倒したキャラが持ってたいいスキルを奪う行為があったって聞いたことがあるの! お姉さんが持ってるスキルはいいスキルだからばれたら狙われる! 絶対に隠して! 他の人に見られないようにして使って!」

「は、はい!」


 一応これで彼女の危ないところは指摘できたはず……。

 ……『マーチこのボク』がいなくなってもやっていけるはずなの。


 時刻を確かめると、②の二十時四十分って示されてた。

 現実世界でお昼の十一時を少し過ぎた頃。

 ボクは、今日はもうログアウトすることに決めたの。


 弥生と話をつけるために。


「……それじゃ。ボクはこれから現実で用事があるから失礼するの」

「え? あっ、うん! またね、マーチちゃん!」

「……また」


 お姉さんの笑顔が眩しくて、ボクは逃げるように帰還の笛を使った。

 ボクは街に転移して、そこでゲームを終了したの。


 この時、ボクはちゃんと見ておくべきだったかもしれない。

 バッグの中がとんでもないことになっていたことを……。



……………………



 現実に戻って、お昼ご飯の時間になったけど、妹は部屋から出てこなくて、見に行くとゲームの世界に浸り込んでいた。

 『DtoD』はゲームをしている最中に無理やりヘルギアを取るとよくないって説明書に書かれてたから、ボクは弥生が現実に帰ってくるのを待つことになった。


 そして弥生が帰ってきたのは晩ご飯の時間のあと。

 二十時を回った時だった。


 今日は両親に用事があって、二人とも家を出ていた。

 こういう時は大抵、弥生はだらしなくなる。

 親がいる時はしっかりした姿を見せているから二人に、特にお母さんに気に入られているのだけど。


「はぁーーーー! つかれたぁ! でも楽しかったぁ!」

「……弥生。『ボク』を返してよ」


 ダイニングに満足そうにやってきた妹にボクは切り出した。

 けど、案の定の答えが返ってきて……。


「えー? またその話ぃ? 嫌だって言ったじゃん、あまりものなんて。私は強いスキルで爽快にプレイしたいんだよ」

「ボクが取ったスキルなの! ボクだってそれでプレイしたかったのに……!」


 ボクは抗議した。

 ボクが調べて、ベータテストをやってることを知って、テストを体験できるように動いて、そして、取りたいスキルを取ったの。

 その時、妹は何もしていなかった。

 このゲームにも興味を示していなかった。

 だから、ボクには『ボク』でプレイする権利がある!

 そのはずだった、のに……っ。


「……はぁ。めんどくさ。それ以上言うとママに言いつけるよ?



――お姉ちゃんが独り占めする!



って」

「な――!?」

「ママはお姉ちゃんに厳しいから、そうなったらどうなるんだろうね? お姉ちゃん、たぶんもうゲームできなくなっちゃうんじゃないかな?」

「……うぅ……っ!」


 ……こう言われると、ボクには何も言えなくなった。

 お母さんはボクに冷たかったから、弥生の言う通りになるかもしれない。

 ボクは引き下がるしかなかった。


「はぁーあ! お腹空いたー! お姉ちゃん、今日のおかず何ー?」


 勝ち誇ったような弥生の声が耳についた。

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