第26話 バッグを背負った少女5
「いやぁ、持ち物からも詳細って見れたんだねぇ。知らなかったよ。教えてくれてありがとう。……まあ、詳しく調べてる余裕なんてなかったんだけど。猛毒薬は基本、つくったらすぐに使ってたし……」
アイテム欄でアイテムの名前のところを長押しすると詳細が見られるとの情報を少女からいただきました。
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猛毒草……猛毒薬の原料となるアイテム。
えぐみが強く、食すと「4」のダメージを受ける。
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回復草……HP回復ポーションの原料となるアイテム。
ほのかに甘く、食すとHPが「4」回復する。
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聖水……様々な薬系アイテムの原料や鍛冶をする際にも用いることがあるアイテム。
飲むと四十分の間、HP・MPの自動回復力が四倍になる。
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「ええっ!?」
お店に売ってなかったものを中心に教えてもらった機能を試していると、聖水が飲めることが判明しました。
しかも、その性能はHPとMPが早く回復するようになるというものでした。
この知識を、黄プディンとの連戦の前に得られていたら……。
私の心の中に空しさが押し寄せてきていました。
知識って大事なんだな……、なんて物思いにふけっていると、何やら呟いていた少女が思い出して謝ってきます。
「……詳細の見方を知らなかったの? この人、初心者? だから薬師なんかを選んで……。でも、だったらなおさらビッグ黄プディンを倒せるわけ……。ううん、このアイテムがつくれるなら可能なの。たぶん、『有効期限撤廃』のスキルが薬師の『製薬』スキルと合わさって想像以上の効果に……。それに、レベルも高いしこの人がビッグ黄プディンを倒したのは嘘じゃないかもなの。た、助けてもらったのだから、お礼を言わないと……――あっ! ごめんなさいなの! 自己紹介がまだだったの!」
そう言って少女はステータス画面を開きました。
私に見せようとしていたようですが、その直前で彼女は固まりました。
「……あ、あれ?」
「どうしたの?」
「い、いえ! レベルが思ったより上がってたので驚いて……! こちらなの!」
私が心配して尋ねると彼女はハッとして画面を見せてくれました。
それがこちらです。
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名前:マーチ レベル:3(レベルアップまで12Exp)
職業:商人(生産職)
HP:15/15
MP:8/12
攻撃:14
防御:13
素早さ:12
器用さ:15
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「おお……! 生産職の人に初めて会ったよ……! ……あれ? でもレベル3? 薬師はレベル2にするのも大変だって言ってたけど、商人は大変じゃないの?」
私は初めて
ですが、ふと彼女・マーチちゃんが言っていたことを思い出して疑問が口を衝いて出ます。
この質問に彼女は答えてくれます。
「商人も大変なの。あと、鑑定士とか。鍛冶師は戦う術を持ってるけどそれでも戦闘職よりは厳しいらしいの……」
「じゃあ、なんで……――あっ! キミもスキルに助けられた、みたいな感じ?」
「……違うの。これは今、レベルアップしたの。あなたがボスを倒したから。本来ならパーティを組んでないと経験値は分散されないんだけど、ボス部屋はちょっと仕様が変わってて、パーティじゃなくてもボス部屋に入ってる人数が四人までなら経験値が振り分けられるって聞いたの。だからボクはあなたのおこぼれにあやかっただけなの……」
「パーティ……!」
やはり生産職はどれもレベル上げが大変なようです。
それを聞いて私は、彼女のレベルが上がっているのは彼女のスキルに関係しているのかも、と推測して述べたのですが否定されました。
彼女のレベルが上がっていたのは、私が倒した黄プディンの経験値が彼女にも入っていたかららしいのです。
これ、たぶん重要なことなのですが、私はその時に彼女が発した言葉に惹かれていました。
――パーティ――
いい響きです……!
これまで私は最弱な職業ということで仲間に加わることを拒否されてきていました。
ですが、こういうゲームは仲間とともにプレイするのが醍醐味の一つだと聞きます!(あゆみちゃん談)
同じ生産職なら私と仲間になってくれるのではないかと私は期待しました。
「ねえねえ、マーチちゃん! 私とパーティを組まない!?」
「…………ふぇあ!?」
ちょっと先走りだったかもしれません。
マーチちゃんを驚かせてしまったのか、変な声を出させてしまいました。
でも、この子を逃すわけにはいかないって思って。
この子とパーティを組みたいっていう気持ちが強くて、私は私を抑えられませんでした。
「あっ! ごめんね、いきなり! 私、どうしてもパーティを組んでみたくて……! この世界、薬師は需要がないみたいでどのパーティにも断られちゃってたから……! でも、同じ生産職同士なら私ともパーティを組んでくれるんじゃないかって思っちゃって……! え、えっと、お願いします! 私とパーティを組んでくださいっ!」
私は頭を下げて頼み込みました。
マーチちゃんの困惑は続いていました。
その理由はすぐに語られます。
「あ、あなたは強いと思うの……っ! それこそ、一人でもやっていけそうなほどに……。い、今のボクなんかと組んだら逆に弱くなっちゃうの! お荷物を抱えることになるから……っ。そ、それにボクは――
――生産職をやりたくてやってるわけじゃないから……」
「――え」
その言葉は、私にとって衝撃でした。
やっと
――自分の意思で生産職をやっているわけではない――と。
罰ゲーム的な何かでやらされた、とかそんな感じなのでしょうか?
この世界の生産職は不遇らしいのであり得ない話ではないかもしれません。
「……そっか」
努めて平静を装うとしましたが、つらいものがありました。
私は残念に思えてならなかったのです。
感覚としては裏切られたみたいな感覚に近かったでしょうか?
私が勝手に期待して一人で舞い上がっていただけなので、彼女に非はないのですが……。
がっくりと肩を落としてしまった私に彼女はおろおろとした様子で言ってきました。
「えっと、えっと……! 嫌というわけじゃないの! お誘いは本当に嬉しかったの! ただ、お姉さんに迷惑を掛けたくなかっただけで……! ボクはすぐに死んじゃうかもしれないもの……」
「め、迷惑だなんて思わないよ! それに、私だってこれまで偶々生きてこられただけで死んじゃうかもしれないし……!」
私と組むのが嫌というわけじゃない――それを聞いて私は食い下がりました。
生産職をやりたいわけではなかった、というのは否定されませんでしたが、パーティは組むことに嫌という感情はなさそうです。
私の気持ちが伝わってほしい! と、私は思いを言葉にしてぶつけました。
すると、彼女の心は揺れ動きました。
「で、でも……! ボクはいろいろと問題を抱えてるから……っ!」
「
「……わ、わかったの。そこまで言うなら……」
「やったぁっ! ありがとう!」
私の押しに彼女は折れて。
パーティを組んでくれることになりました。
やりました!
ゲーム内で初めてのお友だちができました!
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