第24話 バッグを背負った少女3
~~~~ バッグを背負った少女視点 ~~~~
『ボク』は知らない人たちと一緒にいたの。
アーチャーのキサラギさんと、シールダーのジュンさん、それにクレリックのオーガストさん。
彼らとともにボクは『草原エリア最難関ダンジョン・スクオスの森』に向かっていた。
移動中、ボクは弥生に尋ねた。
ベータテストで一緒だった仲間がいるはずだけど? と。
これに対して弥生からの答えは、
――「繋がらなくなった」――
だった。
……繋がらなくなった?
彼らに何かあったの?
イチガツさん、ジュライさん、セプテンバーさん……。
……何故だか、言いようのない不安を感じたの。
……………………
ダンジョンに入った。
彼らはみんなレベルが10であるらしく、スクオス(カラスみたいな頭をしたクモみたいな身体の、頭から触手を生やした敵)二・三体なら余裕で倒していた。
……ベータテストの時はボクもやってたけど今のボクじゃ、まったく歯が立たないかもしれないの。
彼らがスクオスを対処してくれるから、ボクの仕事は専ら荷物持ち。
ただ、『マーチ』のスキル・『収納上手×1』の性能は微妙だった。
同じアイテムをスタックできるスキルだけど、その数は九つまで。
すぐに持ち切れなくなった。
というか、もっと厄介なスキルをこの身体は抱えていたの。
――『ポケットの中のビスケット』――
バッグに入れたアイテムを自動でMP1消費してその数を一つ増やすスキル。
一見よさそうに見えるけど……。
MPがなくなるとバッグにアイテムを詰められなくなる。
……とんだ欠陥能力なの。
そのおかげでボクはこうなり……
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名前:マーチ Lv:1
職業:商人(生産職)
HP:11/11
MP:0/10
攻撃:11
防御:10
素早さ:10
器用さ:11
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所持アイテム一覧
・スクオスの嘴×4
・スクオスの嘴×4
・スクオスの糸×3
・スクオスの糸×3
・スクオスの触手×3
・スクオスの触手×3
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荷物持ちとしてもお役御免となった。
二階に上がっても、ボクは彼らについて行くだけ。
弥生についてきてと言われたからついてきたんだけど、これ、ボクいらないんじゃ……?
五人で行動してるからペナルティで経験値が入らなくなっちゃってるし……。
どうしてボクを連れてきたのか、その理由がわからなかった。
一つ、思い当たる節はあったけど、まさか、ね……。
仮にも姉妹だし、そんなことはしないはずなの。
三階。
ここが弥生のお目当ての場所。
ビッグ黄プディンの巣で、三体のビッグ黄プディンに手も足も出ずにボコボコにされたらしいの。
相手を怯ませるために買い込んだ麻痺薬を使い切ってしまって、残ったのがもしものためにと取っていた魔石各種と使えなかった回復草、あと、気まぐれで捕まえてみたプディンの粘質水だった、とか。
兎に角、弥生がここでビッグ黄プディンたちを倒せば『ボク』は帰ってくる。
だから、早く済ませてくれないかな? って思いながらボクは彼らについて行っていた。
スクオスを倒しながら進んで、
誰かがここでログアウトしてるみたいだったの。
誰がとまではわからないけど、ダンジョン内でログアウトするとその地点の地面に小さなピンみたいなものが刺さる仕様になっているから。
まち針みたいになってて、通常の針が糸を通す部分にはその中に「LO」って書かれた一センチほどの菱形がついてる。
それには触れられないからよく見逃すんだけど、今日は見つけられた。
……たぶん、ここでログアウトしてる人を始めて見たから目に付いたんだと思うの。
ここ、結構バグが報告されてた場所だから、こんなところでログアウトするとデータが飛ぶっていう噂が広まってて。
実際、ベータテストの時点では本当に飛んだって人もいたみたいだし……。
……大丈夫なの、この人?
なんて、他人の心配をしていると、茨が道を塞ぐ音を耳にした。
そして開くボス部屋への道。
(正確に言えば、ここは中ボスの部屋なのだけど……)
今からビッグ黄プディン戦が始まるみたい。
ボクはどうしよう? って考えていた。
今のボクがいたら確実に足手まといなんだけど、全員が入らないとビッグ黄プディンは出てこないし……。
でも、相手は三体もいるから狙われたらやられちゃうかも……。
ボクはどうしたらいいのかを弥生に聞こうとしたの。
でも、その時――
――ボクは『ボク』に服の肩ひもを掴まれた――。
「なっ!? 何してるの!? ま、まさか――」
ボクはハッとした。
ないって思ってた。
でも、この状況……。
そうだとしか考えられない。
――バグ・『犠牲通過』――
ここのボス部屋に人がいる時に外から衝撃を加えることでボス戦が開始し、それと同時に階段への道が開通してしまうバグ。
「うんっ。どうしても倒せなかったからね。役に立ってよ、お姉ちゃんっ」
「う、うそでしょ……!?」
耳元でそんなことを言ってくる妹。
思っていなかった。
うちの妹がこんな奴だったなんて……!
「なん、で……!? ここでやられたんでしょ!? ここで恨みを晴らすんじゃ――」
「あのねお姉ちゃん。
――そんなの、この身体になってから何度も挑んでるに決まってるでしょ?」
「こ、この身体になってからって……!」
わけがわからないかった。
何を言ってるの、こいつ……!
ボクの弥生に対する好感度が急激に下がっていくのを感じる。
そんななか、妹だと思っていたものが突如として語り始めた。
「私ね? ずっとこのゲームやりたかったのに、あまりものみたいなスキルしかもらえなくて全然楽しめなかったんだ。強いスキルを持ってるお姉ちゃんが羨ましかった。だから、お姉ちゃんのゲームのデータと私のゲームのデータを差し替えたの。それからこの身体を動かしてやっと慣れてきた。この身体を失いたくないんだよ。だって、スキルが強いんだもんっ。だからお姉ちゃん、これちょうだい? お姉ちゃんにはそれあげるから」
「な……っ!?」
強いスキルがほしかったって。
弱いスキルはいらないって。
だから、私のデータを奪ったんだって……!
風邪を引いていなかったら……っ。
それでコイツにセッティングを頼んでさえいなければ……っ!
「おい、何ぼそぼそ言ってんだ!? さっさとやっちまおうぜ!? ビッグ黄プディン戦スキップできるって誘ったのお前だろうが!」
「ごめん、ごめんっ。もう済んだからさ。それじゃあバイバイ。
「うわっ!?」
シールダーの男が衝撃を加えようとスタンバっていて、他の二人はもう階段の前で茨が退くのを待っていて。
ボクは妹に、バグを発動するためにビッグ黄プディンの巣に放り込まれた。
視界に収められていたのは徐々に遠くなっていく『ボク』。
ゲートも閉まり始めていて。
商人で、難関だと言われているここを突破できるわけがない。
ボクは自覚したの――
――これから死ぬんだ――って。
でも、そうはならなかったの。
閉まろうとする茨の道を駆け抜けてきてくれた人がいたから。
「……キミ、武器屋で会った子だよね? 大丈夫?」
「お、お姉さん!?」
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