第22話 バッグを背負った少女1

 MPを合計「15」使って猛毒薬をL(Lv:2)まで引き上げた私は道具屋を出て武器屋へ。

 そこで最大MPが「1」上昇する「魔力のペンダント」というものを購入して装備しました。


 猛毒薬を昇華するのにMPを三分の一程度使ってしまったので、このままダンジョンに向かうのは不安を覚えます。

 道具屋のNPCの店員さん(赤髪でそばかすがある少女)に何かいい方法はないかな? と相談すると彼女から、宿屋に泊まるとHP・MPが短い時間で全回復する、という有益な情報をいただきました。



 ですので、私は宿屋に向かおうと道具屋を出ようとした時、入口の扉がものすごい勢いで開きました。

 幸い、お店の中から開ける時は押して開けるタイプだったので扉がぶつかるということはなかったのですが。


「ご、ごめんなさいなの……!」


 扉を開けていたのは私と同じくらいの年の女の子でした。

 目はくりっとしてて大き目で、鼻や口は小さめ。

 丸みのある輪郭に、尖った耳。

 髪型は耳の上辺りで短めのツインテールにしています。

 身長はリアルの私と同じくらいの百四十センチほど。

 オーバーオールに登山靴のようなものを履いていて、背中には大きなバッグ。


 彼女は私が出ようとしていたのを認識すると私の邪魔をしてしまったと思ったようで深く頭を下げてきました。

 それから私の横を通り過ぎて武器屋の中になった鏡の前に立ちます。

 その顔はひどく驚いているようでした。

 顔面蒼白といった感じです。

 何があったのでしょうか?


「あの、どうかしたの?」


 彼女があまりにもひどい顔色をしていたものだから私は尋ねました。

 けれど、


「……ううん、なんでもないの。一人で大丈夫なの」

「……そう、ですか」


 できることがあるなら協力しようと思って声を掛けたのですが、彼女になんでもないと言われてしまいます。

 そこまできっぱりと言われてしまっては食い下がるのも変ですし、私は彼女のことが気になりつつも武器屋を出ました。



 武器屋を出ると四人の人物がお店の前に立っていました。


 一人は物語の中の王子様然とした白を基調とした軍隊のような服を着ている、腰には細剣を携えた人物。

 背が高く、容姿は恐ろしく整っていて、髪型は長い漆黒のポニーテール。

 本当に王子様かと思ってしまいましたが、身体の線は細く、何より胸部装甲がすごかったので女性であるとわかりました。

 あれ、戦う時に動きが阻害されないのかな……?


 二人目はかっこいい感じの男性でした。

 垂れ目の長髪で、前髪を気にしているところがちょっと気に障る感じの人でした。

 この人は弓を背負っていました。


 三人目はチャラい感じの男性でした。

 切れ長の目に長めのウルフカット。

 ピアスにギラギラのシルバーアクセサリーを大量に身に着けている人です。

 ゲームの装備品ではなく、最初にスキャンされた装飾品をオシャレで装備しているのでしょう。

 ゲームの装飾品は一つしかつけられませんから。

 この人は盾を背負っています。

 ちょっと意外です。


 四人目は冷静な感じの眼鏡を掛けた男性でした。

 毅然としているというか、笑わなそうな印象を受けるいかつい感じの容姿をしているツーブロックの人物です。

 杖を持っていました。


 彼らはお店に入るわけでもないのに入口のところに立っていたのです。

 気障っぽい人とチャラい人は女性の方を向いて話し掛けていて、いかつい感じの人はそっぽを向いていました。

 その中で一人、女性だけが店内を見ていました。

 ……いえ、あれは店内というよりお店の中に入っていった少女のことを見ていたように思います。

 その顔はわらっていて……。


 何かよくない気配を感じました。 


「あ、あの――」


 あの少女と何かあったのか聞こうとした私。

 ですが、話し掛けた女性に凍てつくような目で睨まれて、私は怖気づいてしまいました。


「あ? なんだ、このガキ」

「さあ? 迷子かな? 初心者なら東に行くといいよ?」

「……チッ」

「ひぅ……っ」


 周りにいた男性三人から向けられた視線も歓迎されているものではないことがひしひしと伝わってきて……。

 居たたまれなくなった私はその場から逃げ出しました。


 宿屋に寄ることも忘れて。



……………………



――『草原エリアダンジョン4・スクオスの森』


 怖い人たちに睨まれて街を飛び出した私は北へと向かっていました。

 無意識に一度通ったことのある道を選んでいたようです。

 またやってきてしまいました、エリア最難関ダンジョンに。


 今のステータスは……


========


名前:セツ     レベル:21(レベルアップまで84Exp)

職業:薬師(生産系)

HP:33/33

MP:31/46(+1)

攻撃:24

防御:28

素早さ:41

器用さ:49


========


 ……これで黄プディン十三体と戦うのは無謀かもしれません。

 最低でも相手の数分の猛毒薬Eをつくれないと厳しいと思いますから。

 MP39はほしいところです。


 私はまだダンジョンの中に入っていませんから、とりあえず安全地帯セーフティエリアに到達した時のMPを見て考えることにしましょう。

 ということで、私はまたダンジョン『スクオスの森』に今度は自分の意思で足を踏み入れました。



 猛毒草を採取し、カラスグモさんたちを集めながら二階へ。


 なんだか最初の頃を思うとカラスグモさんたちの速度がゆっくりに見えます。

 私の素早さが上がっているからでしょうか?

 それに、最初の頃よりカラスグモさんたちが小さく見えるような……?

 前は一メートルくらいに見えていたのですが、今では四十センチくらいになっていました。

 たぶん恐怖によって実際の大きさよりも大きく見せられていたのでしょう。

 これなら勝てるかもしれません。

 が、猛毒薬は一つしか持っていませんし、一度も戦ったことのない相手です。

 慣れた頃が一番怪我をしやすいと聞きます。

 ですから、私は全力で逃げました。



 大量のカラスグモさんたちに追われたため、一度三階へ上ってから聖水を汲みに二階へと戻ります。

 特大フラスコいっぱいに聖水を汲んでからいざ三階へ。


 やっぱりカラスグモさんたちに目をつけられてしまいましたが、冷静に対処して安全地帯セーフティエリアに到着しました。


 かかった時間はこの世界で一時間半ほど。

 一階が久し振りだったので迷いました。

 なんでそんなところで猛毒草を集めていたのかって話ですが……。

 二階も、三階から降りてすぐに聖水の祠があるため、一階からの道は久し振りで迷いました。

 それでもかかったのは一時間半でした。



 安全地帯セーフティエリアに入っただけでは道は塞がれません。

 階段を上ろうとしたら茨が出てくる仕組みのようです。

 茨で封鎖されたあとにログアウトできるかどうかわからなかったので階段には近づきませんでした。


 現在のMPは34。

 あと「5」回復したいので二時間半は休憩になります。

 私はアイテムの確認をしてログアウトしました。



 ゲームの世界での二時間半後にあんなことが起こるとは、この時の私は知る由もありません。

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