第19話 帰還

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帰還の笛――ダンジョン内で使うことができるアイテム。

      そのエリアにある街まで転移できる。


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 『帰還の笛』の詳細を確かめてみるとそう記してありました。

 今MPはマックスの状態ですが、次戦おうとすると黄プディンの数は十三体になることが予想されます。

 フラスコ四刀流でも骨が折れるでしょう。

 それに苦労して手に入れた黒金プディンの粘質水を使ってしまってもいいのかという思いもあります。

 どうにかして取っておく方法を考えたいところです。


 ですので、『帰還の笛』を使って街に行ってみることにしました。


 ……あっ。

 今思ったのですが、あゆみちゃん、このダンジョンの入口をずっと見張ってるなんてことはないかもしれません。

 それだと冒険ができませんから。

 なんのためにこのゲームをやっているんだっていう話になります。

 街にいないタイミングだといいのですが……。



……………………



 『帰還の笛』を使うと一瞬で街の噴水の前に!

 便利ですね、これ。


 街には結構な数の人がいました。

 このゲーム、かなり多くのサーバーに分かれてて動作が重くならないように対処されてるそうなのですが多いですね……。

 百人くらいはいる気がします。


 現在の現実の時刻は日曜日の朝九時を過ぎたくらい。

 ダンジョンにも挑んでいる方はいるはずなので街でこれだけのプレイヤーさんがいるということは相当な人数がこのゲームをやっているのかもしれません。


 これだけいれば人混みに紛れ込めるかな?

 でも、向こうも紛れちゃうから急に現れたりするかも……。


 私が、あゆみちゃんがいないかと辺りを警戒していた時、他のプレイヤーさんたちの会話が耳に入ってきました。


「おい、聞いたか? 『MARK4マーク・フォー』が第二層に到達したって話」

「マジかよ? それって『スクオスの森』の最上階にいるアレを倒したってことだろ? 俺、何回も挑んじゃあ『帰還の羽』で逃げ帰ってるんだけど……」


 まーくふぉー?

 第二層?

 私には彼らが何を話しているのかがよくわかりませんでした。

 ただ、『スクオスの森』の最上階にいるアレ、という言葉を聞いた時は背筋がぞわぞわっとした感じを覚えます。


 あまり私には関係ない話だと思ったので、とりあえずアイテムの整理をしたいなぁ、と道具屋を目指そうとした私。

 彼らは今私がいるところと私の目的地の間にいたため横を通り過ぎようとしたところで、彼らは次の話をしたのです。


「それにしてもこのゲーム、レベル上げが大変なのに発売して一週間で次のステージに到達か……。そいつら、組か?」

「その通り。四人全員がベータテスト組らしい。アレに勝てるわけだよ。ベータテストの時に入手したスキル、アイテム、お金を製品版を始めた時から持ってるんだから。それにテストをした特典で復活薬ももらえてるってさ」

「まさに選ばれし千人って感じだな。で? どんなパーティなんだよ、うちらが使ってるサーバーのトップは?」

「メンバーはダイヤ、クローバー、ハーツ、そしてリーダーの・スペード。全員中学生みたいな容姿をしてるらしい。けど、このリーダーには黒い噂があって、このゲームを始めたばかりの生産職の子が『MARK4』に入りたがったことにキレて



――――らしい。



生産職はこのゲームじゃ恵まれてないからいらねぇって……」

「え――」


 この言葉を聞いた瞬間、私の動きは止まりました。

 道具屋に入るためにドアノブに伸ばされていた手が宙で固定されます。


――『頼むよ! オレ、「ギフテッド・オンラインこれ」、からやってるんだよ!』


――『おお! やっと入ってきたか! おっせーよ! あと、この世界では「」だからな! 危ないから本名で呼ぶなよ!』


――『こいつをすればいい! 戦闘能力のない生産職ゴミだ! 勝手に死ぬだろ!』


 ……なんだろう?

 関係ない話をしていると思っていたけど、そうでもない気がしてきました……。


 私は踵を返して彼らに尋ねます。


「す、すみません。あゆみちゃ――そのロードって人、ツンツン頭の如何にもやんちゃ坊主って感じの剣を持ってる人だったりします?」

「嬢ちゃん? なんだ、いきなり……。そんな話もあったっけな……。実際に見たことはないが。なんでそんなことを聞くんだ? この話に興味が――って、薬師……生産職……――まさか!」

「ダンジョン放逐された子!?」

「……」


 間違いありません。

 彼らはあゆみちゃんの話をしていました。

 そして私が黙ってしまったものだから、彼らに私が「そのロードにダンジョン放逐をされた、このゲームを始めたばかりの子」だと気づかれてしまいます。

 ちょっと空気が重たくなりました。


「そ、そいつは災難だったな……。けど、また生産職、それも薬師を選ぶとは……。よほどのこだわりがあるのか……」

「……或いは誰にも教えてもらえなかったのか。薬師なんてゴミ性能で一番の不遇職だって」


 ……

 この人たち、もしかして私が一からやり直してると思ってます?

 それにしても、ゴミだとか不遇だとか。

 薬師に対する認識はひどいものでした。


 今は材料も実績もないので彼らの言ったことを訂正しません。

 私があのダンジョンを生き残れたのは道具が優秀であったからで、薬師わたしが優れていたわけではないので……。



 それから彼らと少しだけ話をして、彼らは去っていきました。

 わかったことを以下に纏めます。


・あゆみちゃんは今、『第二層』にいるということ

(このサーバーにおいて一番早く『第二層』に到達したらしい)

・『第二層』とは『第一層』をクリアすると行ける場所であること

(クリアとは、『スクオスの森ダンジョン』最上階にいる草原エリア全体のボスを討伐すること)

・エリア最難関ダンジョンの最上階にいるボスをエリアボスといい、『スクオスの森ダンジョン』の最上階にいるエリアボスは『ビッグスクオス』であるとのこと

・エリアボスを倒すと次の街がある場所まで転移できる装置を使えるらしいこと

(次の街と最難関ダンジョンの最上階が転移のゲートで繋がっていて、行き来することができるみたい)


 これ、あゆみちゃんが第一層のこの街に戻ってくることがあるってことですよね……。

 まだ危機は完全には去ってくれていないようです。


 あゆみちゃんに怯えなくて済むようにするには、あゆみちゃんより先の階層にいくこと。


 それしかなさそうです。


 ですが、私は最弱の薬師。

 今のままではあゆみちゃんを抜けそうにありません。


 私は考えた末に、とりあえず防具を新調することにしました。

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