第18話 イレギュラー
ボス部屋に踏み入れた時にハッとします。
イレギュラーが起きた場合を想定していなかったと。
それに気づいたのは茨で入口を塞がれる瞬間でした。
このタイミングで気づいてももう手遅れです。
黄プディン十一体が出てくるかもしれないのに、私はそのことをまったく考慮していませんでした。
黄金のプディンが出てくると思い込んでいた私のミスです。
私は覚悟しました。
手持ちに猛毒薬Lが二個分あるため、二体は屠ることができるでしょう。
ですからあと九体。
少なくても四時間半(ゲーム時間で)逃げ続ける覚悟を……!
ただ、私のこの心配は杞憂に終わります。
現れたのが黄金のプディンだったからです。
「よ、よかったぁ……!」
……思い込みで行動すると取り返しのつかないことになると前に学んでいたはずなのに、私はまた同じ過ちを繰り返しそうになっていました。
何が起きてもいいように万全を期す――それがこのゲームの鉄則だと感じます。
これはゲームですが、リアルのように修正が効かないことが多々あるゲームですので。
慎重に慎重を重ねなければ……!
ということで、バトルに集中です。
相手は黄金のプディン四体。
……四体?
あと一体がどこかに隠れているのではないかと思って目を凝らしますが見つけられません。
黄金のプディンはこれ以上増えないということなのでしょうか?
兎にも角にも、不意打ちに警戒しながら私は動き出しました。
まず二体に猛毒薬Lを投薬。
無事に倒せてレベルアップをすることに成功します。
急いで金プディンの粘質水を回収し、猛毒薬Rを製薬。
品質をLまで向上させ、姿が見えている二体に使用します。
問題なく撃破することができました。
「……」
私は警戒心マックスの状態で金プディンの粘質水を回収し、臨戦態勢をキープしていました。
しかし、何も起こることなくドロップアイテムが点滅し始めます。
私は慌てて黄金の魔石を拾い集めました。
黄金の魔石をポーチに仕舞っている間も警戒は解いていませんでしたが、何も起きることはなく。
全てを回収し終えて拾えなかった金プディンの粘質水が消失すると茨のゲートが開通します。
「……え? 終わったの!?」
私は唖然としてしまいました。
敵の数は十四戦目の時と同じだし、宝箱の出現もなし。
また四戦しないといけないのかと思うと気分が落ち込みます。
「はぁ……」
肩を落としながらボス部屋を出ようとした時でした。
――シュルシュルシュル!
さっき開いたはずのゲートが目の前でまた塞がったのです。
「……え? なんで――」
起こってしまったのです。
――イレギュラー――
背後に気配を感じて私は瞬間的に振り返りました。
そこには、
――黒く輝くプディンの姿が――
「ウソ……でしょ……!?」
肌で感じます。
このプディンはヤバいと。
一応猛毒薬Lをいつでも使えるように持っていますが、これで対処できるかどうか……。
ゲート付近にいた私と部屋の中央にいる黒いプディンとの距離は十メートルくらいありました。
この距離、黄プディンだったら詰めるのに二十秒くらいかかります。
黄金のプディンでも五秒くらい。
しかし、黒いプディンは――
――一秒で二メートルの位置まで――私に攻撃ができる圏内まで迫ってきたのです……!
これを見た瞬間、私は無意識に唱えていました。
恐らく、今のままでは勝てないと感覚的に悟ったのかもしれません。
私が唱えたもの、それは――
「『ポーション昇華』、『ポーション昇華』、『ポーション昇華』っ!」
手に持っていた猛毒薬をMPの限界がくるまで力を底上げしました。
出来上がったのは『猛毒薬L Lv:4』
それを、私にヘッドバッドをお見舞いしようとしている黒いプディンに投げつけます。
次の瞬間――
――パァアアアアアアアアンッ!
一瞬にして黒いプディンは弾け飛びました。
私にその頭が当たる直前のことです。
あとコンマ一秒でも遅かったら、私は死んでいたかもしれません。
「……た、助かったぁ……っ!」
私はその場にへたり込みました。
……………………
『レベルアップしました』
『レベルアップしました』
『レベルアップしました』
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名前:セツ レベル:21(レベルアップまで84Exp)
職業:薬師(生産系)
HP:33/33
MP:45/45
攻撃:24
防御:28
素早さ:41
器用さ:49
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「……三つ上がった」
やはりこのゲームは鬼畜だと思います。
あんなのが出てくるなんて……。
プレイキャラを殺しに来てるじゃないですか……!
そしてそんな黒いプディンを一瞬で倒してしまう『猛毒薬L Lv:4』……。
……助かったからいいですが、もうめちゃくちゃです。
レベルが20になったら新しくつくれるアイテムが増えると思っていたんですけど、そうはならなかったですね。
黒いプディンを倒して、アイテムはこんな感じに。
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所持アイテム一覧
・特大フラスコ(聖水)11/16
・フラスコ(
・フラスコ(黒金プディンの粘質水)
・フラスコ(黒金プディンの粘質水)
・フラスコ(黒金プディンの粘質水)
・ビン(プディンの粘質水)
・緑の魔石×40
・赤い魔石×44
・青い魔石×60
・黄色い魔石×379
・黄金の魔石×28
・黒金の魔石×4
・回復草
・猛毒草
・猛毒草
・猛毒草
・猛毒草
・猛毒草
・猛毒草
・猛毒草
(二ページ目へ)
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黒金の魔石と黒金プディンの粘質水を手に入れました。
あれは黒金プディンというモンスターみたいです。
もう落ちているアイテムはないのでこの部屋をあとにしようとした時でした。
――ゴトッ
「っ!」
出口に向かっていた私の背後で音がしました。
何かが落ちてきた音が。
こ、この音はもしかして……!
期待に胸を膨らませながら、ゆっくりと振り返ります。
幻聴だったらどうしようという不安もないまぜになっていました。
部屋の中央を見た時、そこにそれはありました。
「き、来たあああああっ!」
宝箱です!
念願の宝箱です!
でもちょっと色が違うような……?
黒金プディンと同じ色合いをしていました。
黒金プディンを倒したから?
私は早速特大フラスコをお願いしようとしました。
けれどそれは、「声さん」に止められてしまいました。
「特大フラスコをお願いします!」
『申し訳ありませんが、それはこの宝箱で得られるアイテムの一覧にはございません。この黒金の宝箱で得られるアイテムはエピック相当となっております。私のお勧めは「帰還の笛」でございますがいかがでしょうか?』
どうやら特大フラスコはリストにないようです。
……残念。
っていうか「声さん」、この前もお勧めしていませんでした? それ。
私は考えました。
前とは状況が違います。
最上階に行って、転移装置がないことを確認しました。
……いえ、あるのかもしれませんが、それを使うためにはあの禍々しいオーラが放たれているドアの奥に行かなければいけない可能性が高いということを。
そしてダンジョンの入り口にはあゆみちゃんが待ち構えているのです。
街に戻れるアイテムを手に入れておくのは一つの手段かもしれません。
何より、「声さん」がここまでお勧めしているのですし……。
「わかりました。じゃあ、それで!」
『承りました』
こうして私は「声さん」お勧めの『帰還の笛』を手に入れました。
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