第12話 気になること

 特大フラスコを手に入れた!



 私はほくほく顔でそれを大切にポーチの中に仕舞いました。

 早速何かを入れてみましょう!


 とは言ったものの、黄プディンの粘質水は消えちゃってるんですよね……。

 どうしたものかと考えていると、宝箱が消えて、茨で封鎖されていた道が開通しました。


「……もう一回行きますか。聖水の祠……」


 現状、特大フラスコに入れられそうなものはそれしか思い浮かびません。

 いっぱいに入っているところを見てみたかったため、私は動き出しました。


 あの恐怖が待っていることも忘れて。


「カァーーーー」

「カァーーーーーーーーッ!」

「ひゃわああああああああっ!?」


 二階までの道中、私は触手を生やしたカラスグモさんたちに追いかけ回される羽目になりました。



……………………



「はぁ、はぁ、はぁ……。つ、ついた……!」


 やっとの思いで二階の階段付近にある祠に辿り着いた私は、息を整えるのも忘れて聖水を汲み上げました。

 アイテム一覧に収めると表記されたのは『特大フラスコ(聖水)16/16』!

 圧巻です……!


 それを確認できて、得られた達成感でルンルン気分になっていた私ですが。


「それじゃ、戻ろっか! ……戻る? またあそこに行く? ……い、嫌だよぅ、行きたくないよぅ!」


 戻るということは、またアレに押しかけられるということを意味します。

 ダンジョンの入り口に向かうにしろ、ダンジョンの最上階を目指すにしろ。

 ここからなら最上階を目指して、そこにある転移装置の中に入った方が近いらしいのですが……。

 さっきも追われたばかりなのです。

 私は精神的に疲弊していました。


「……ええい!」


 けれど、聖水の祠も安全地帯セーフティエリアではないらしいので(試しにログアウトしようとしたけどできませんでした)とどまっていたらいずれはアレに見つかってしまうかもしれません。

 それならもう、行動した方が得策でしょう。


 私は三階に再び、いえ、三度足を踏み入れました。



……………………



「カァーーーー」

「カァーーーーーーーーッ!」

「いやああああああああっ!」


 ……上がって早々これです。

 ボス部屋前の安全地帯セーフティエリアまで全力ダッシュ。

 ……きついです。


 私はレベルが上がっているのですが、それでも彼らとはやっぱり戦う気が起きません。

 ……その、気持ち悪くて。

 それに、彼らは数が多いのです。

 十匹くらいで寄って集ってくるのです。

 猛毒薬の数が到底足りません。

 あと、彼らは絶対に黄プディンではないので倒したとしても黄プディンの粘質水は落とさないでしょう。

 黄プディンの粘質水が枯渇して猛毒薬をつくれなくなります。

 それは避けなければならない事態でした。

 私のメインウエポンは猛毒薬なのですから。

 猛毒薬を持っていることがもう、私の精神安定の材料になっていたのです。

 ……もちろん、ゲームの中での話です。



「と、到着!」


 安全地帯セーフティエリアに倒れ込むようにして入った私。

 追ってきていたカラスグモさんたちがしばらくの間こちらを睨むようにしていましたが、諦めて散って行ってくれました。

 安全地帯セーフティエリア、神です!

 もうここから離れたくないとさえ感じてしまいます!


「なんてことは言っていられないよね……。あっ、そうだ!」


 寒い朝にベッドから出られない時みたいな感覚になっていましたが、それではこのゲームをやっている意味がありません。

 自分に発破をかけて立ち上がると、ボス部屋への入口付近の壁が目に入ったからでしょうか(今は閉ざされていますが)?

 ふと思いついたことがありました。



「金プディンの粘質水で猛毒薬をつくれないかな?」

――黄プディンの粘質水を金プディンの粘質水で代用できないか?――と。



 色合いも似ているし(?)、同じところにいたボスなのだから(?)、その可能性はあるのではないかと思ったのです。


「や、やってみよう! 無駄になるかもしれないけど……」


 ダメ元で試してみることにしました。

 使うのは聖水、猛毒草、金プディンの粘質水、黄色い魔石。

 すると――


「えっ!?」


 完成した薬に私は目を見開きました。



――猛毒薬R――



 『ポーション昇華』のスキルを使っていないのに、Rの文字がついていたのです。

 初めからレアの猛毒薬。

 試しに『ポーション昇華』のスキルを使ってみようとするとMP「1」でEに格上げすることができると判明しました。

 すごいです、金プディンの粘質水!


 こうなったら黄金の魔石を使ったらどうなるのかも試してみたくなります。


「も、もったいないかなぁ……? でも、確かめたい……!」


 聖水、猛毒草、金プディンの粘質水、黄金の魔石で試してみたところ、結果はさっきと同じ猛毒薬Rでした。

 ちょっと損した気分です。

 黄プディンの粘質水がないので「黄プディンの粘質水×黄金の魔石」の組み合わせは確かめられなかったのですけど。



========


所持アイテム一覧

・特大フラスコ(聖水)14/16

・フラスコ(猛毒薬R)

・フラスコ(猛毒薬R)

・フラスコ(金プディンの粘質水)

・フラスコ(金プディンの粘質水)

・黄色い魔石×8

・黄金の魔石×3

・猛毒草

・猛毒草

・猛毒草


========


 ポーチの中はこうなって、一応猛毒薬Rに『ポーション昇華』のスキルを二回ほど使っておきます。

 一つの猛毒薬RがMP「3」の消費だけで猛毒薬Lにしたところで、また一つ疑問が浮かんできました。


「そういえば、ログインしたらいきなり閉じ込められたんだよね……。それって、またここでログアウトしてログインしたら同じことになるのかな?」


 三十分ほど前のことなのでよく覚えてます。

 ここで現実に戻ってまたゲームの世界に入ってきたらどうなるのかが気になりました。


 アイテム欄を確認した限りでは大丈夫だと思います。

 ですが、不測の事態が起こり得ることも想定して動くべきです。


「……この階にあるといいけど」


 私は、本当は嫌だったけれど、また安全地帯セーフティエリアの外に繰り出しました。



……………………



 カラスグモさんたちに攻め立てられること、こちらの世界で三十分ほど。

 私は安全地帯セーフティエリアに戻ってきました。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 この時の所持アイテムですがこんな感じになってます。


========


・特大フラスコ(聖水)14/16

・フラスコ(猛毒薬L)

・フラスコ(猛毒薬R)

・フラスコ(金プディンの粘質水)

・フラスコ(金プディンの粘質水)

・黄色い魔石×8

・黄金の魔石×3

・猛毒草

・猛毒草

・猛毒草

・猛毒草

・猛毒草

・猛毒草

・猛毒草

・猛毒草

・猛毒草

・猛毒草

・猛毒草

・猛毒草

・猛毒草

(二ページ目へ)


========


 めっちゃ猛毒草摘んで戻ってきました!

 これでできる準備は全てやっているはずです。


 ……ログアウトしてみましょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る