第9話 覚悟
みんながみんな、薬師という職業に期待していませんでした。
いいように使われて捨ててもいい存在なんて、納得できるワケがありません。
私は、このゲームにおける薬師という存在が可哀想に思えてなりませんでした。
だから、決意しました。
絶対に生きて帰って、薬師でもやれるんだ、ということを証明しよう――と!
それは、今まで避けていた戦うことを決めた、ということでもありました。
巨大なプリン型のモンスターの一体が動き出しました。
地面と接していた底面の部分が浮き始めます。
あれは……身体を倒して伸し掛かってくるような攻撃です!
私はスペースのある方に移動して、その攻撃を回避しました。
見えていればなんとかなりそうです。
向こうの攻撃がヒットしないのはこっちにとってはありがたいことなのですが、こっちにも攻撃する手立てがないことが問題でした。
職業に合った武器を使わないと攻撃力が四分の一になってしまう、というのがこのゲームの仕様だそうです。
ここに来るまでに教えてもらっていました。
話してくれた相手が相手なので疑わしい部分はありますが、この部分で嘘をつく意味はあまりないように感じるので信じてもいいことだと思います。
そして、薬師に合った武器ですが、
――ない――とのこと。
理由は、戦いを専門としている職業ではないから。
……これもトイドルの言っていたことなのですが、残念ながら信憑性は高そうです。
プリン型モンスターBが近づいてきて、頭と思しき部分を逸らし始めました。
これはヘッドバッドのような攻撃の予兆です!
私が距離を取ってそれを避けると、プリン型モンスターCが倒れ込むような動作をしてきます。
「ひゃいっ!?」
せ、セーフ……!
右側に飛び退いて辛うじて回避することに成功しました。
その際に尻もちを搗いてしまって、少しの間身動きを封じられてしまいましたが……。
一対三は不利です!
挟み撃ちされて、逃げ場を失ったら一巻の終わり……っ。
私は立ち上がりながら、必死になってできることを探りました。
薬師にできることは――
ハッとします。
私はポーチから四つのものを取り出しました。
フラスコ(黄プディンの粘質水)、フラスコ(聖水)、黄色い魔石、猛毒草を。
そして、叫びます。
「『製薬』っ!」
すると、手元に出した四つのアイテムは一つのフラスコの中に纏まって、禍々しい黒紫色の液体がつくられました。
ちなみに、聖水が入っていたフラスコは
私は今完成させたこの液体・猛毒薬をプリン型モンスターの一体に向けて早速掛けようとしました。
ですが、その寸前で思い留まります。
それは、思い至ったから。
――私にはこの薬の性能を引き上げる術があることに。
私の固有スキル『ポーション昇華』
――薬系アイテムの品質を無限に向上できるスキル。
私はありったけのMPを消費して猛毒薬の品質を高めました。
「1」消費して一段階アップ。
更に「2」消費してもう一段階アップ。
更に更に「4」消費して更に一段階アップ。
私の現段階での最大MPは11で、次に求められたMPは「8」だったため、上げられたのはここまで。
アイテム名は猛毒薬Lに変化していました。
今の私がつくれる最高傑作です。
ちょっと感動していたのですが、そんな場合ではありませんでした。
プリン型モンスターの一体が突っ込んできたのです。
私は慌てて避けました。
そして、そっちがその気なら! と、猛毒薬Lをその個体に使いました。
猛毒薬Lを掛けられた固体は今までと違った動きをし始めます。
全身をぷるぷると震わせ始めたのです。
新たな攻撃の前触れ!? と私は警戒を強めました。
ですが、震えているだけで何もしてきません。
残りの二体も何か、戸惑っているようです。
私はふと、震えている固体の上に何やらバーのようなものがあることに気づきました。
それは、最初のうちは緑だったのですが、右側から徐々に黒色に変わり始めていっていました。
……これ、もしかしてHPゲージではないでしょうか?
あゆみちゃんに誘われてやった別のゲームで見たことがあります!
これが本当にHPゲージなのだとしたら……。
――え? ……あの、あの薬の効き目、やばくないですか?
四秒ほどでゲージの色は黄色に。
六秒ほどで赤に差し掛かりました。
そして、七秒で……
――パァアアアアアアアアンッ!
猛毒薬Lを掛けられたプリン型モンスターは弾け飛んだのです。
その瞬間、脳内に「声さん」の声が聞こえてきました。
『レベルアップしました』
それと同時に、ステータスの変化が感覚としてわかります。
========
名前:セツ レベル:2
職業:薬師(生産系)
HP:12/12
MP:13/13
攻撃:11
防御:11
素早さ:13
器用さ:13
========
どうやら強くなったようです。
体力も回復していました。
私の足元に飛び散ったプリンの欠片が転がってきました。
『回収可能:要・蓋アリ容器』というテロップが表示されます。
私は感覚的にそれを回収しました。
アイテム名はフラスコ(黄プディンの粘質水)。
……あれがプディンというモンスターだったようです。
私はアイテムになったものしか見ていなかったのでこれまで気づきませんでした。
私が回収し終わったあともまだプディンの欠片は残っていました。
『回収可能:要・蓋アリ容器』とも表記されています。
私は
それを回収し終えると近くにあったプディンの欠片はなくなり、その跡からトパーズのような黄色い綺麗な石を四つ発見しました。
「あっ! 魔石!」
私がそれらを嬉々として拾っていると、残りのプディンたちが妙な動きをし始めたのが視界に捉えられました。
……いけない、戦闘中でした。
二体に注意を戻すと、モンスターたちは身体を仰け反らせて私から離れていきました。
その様子は仲間がやられてしまったことに驚いて、私に怯えているようで……。
「……あの、えっと。……すみません?」
なんかすごく申し訳ないことをしているような気がしてきました。
でも、私はやられるわけにはいきませんし、彼らを倒さないとここから出られそうにありませんし……。
それに、彼らの方から私を攻撃してきていましたから、敵であることは確実なわけで……。
「正当防衛、ですよね? で、できるだけ痛くないようにしますから……!」
私はそう言って、猛毒薬を製薬したのでした。
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