第7話 エリア最難関ダンジョンを生き延びろ4

 私をダンジョンの外まで連れて行ってくれると言ってくれたのは、トイドルさん率いるパーティでした。

 メンバーはトイドルさん、ミックスさん、ワワワさん、シーヴァさんです。

 全員男の人だったので緊張しましたが、皆さんとてもフランクですぐに解けました。


「しっかし、災難だったな、セツちゃん。まさか、ダンジョン放逐されるなんてな」

「はい……」


 トイドルさんが私を気遣うような言葉を掛けてくれます。

 これも、打ち解けられた要因の一つでした。


 ちなみに、「ダンジョン放逐」とは、PKプレイヤー・キルをするとペナルティが発生するのでそれを避けるために、弱いプレイヤーを難易度の高いダンジョンに無理やり行かせること、だそうです。

 トイドルさんが説明してくれました。


「で、でも、本当にいいんですか? 私がいるとペナルティが発生してしまうんじゃ……っ」


 私は力になってくれたことに感謝していましたが、それと同時に彼らに負担を強いてしまうことに後ろめたさを覚えていました。

 パーティは四人以下でないと制限をかけられてしまうと聞いていたからです。

 ですが、彼らは笑って返してくれました。


「ああ、いいって、いいって! 経験値が入らなくなったり、ドロップ率が悪くなるぐらいなモンだから!」

「そうそう! 俺たちはまあまあ強いんだぜ? だからちょっとぐらい経験値が入らなくても、あんま気にしないのさ! それより人命優先、ってな!」

「ミックスさん、ワワワさん……!」


 なんていい人たちなのでしょう!

 私は、このような素敵な人たちに会えて幸運だったと感じました。


「私、絶対に忘れません! ポーションが売れるようになりましたら、これに見合う価格で提供させていただきますね!」

「おお! 楽しみにしてるぜ!」

「薬師で頑張る宣言か! 逞しいな!」


 私がしてもらったことは必ず返す、と伝えると、ワワワさんとシーヴァさんが応援してくれました。

 本当にいい人たちです……!

 彼らと会うまでは自分に自信が持てなくなっていたのに。

 この森も怖くて仕方がなかったのに。

 彼らのお陰で勇気が持てて、場所に対する恐怖もいつの間にか感じなくなっていました。


 ポーションの話をしたからでしょうか?

 トイドルさんが聞いてきます。


「セツちゃんはHP回復ポーションってどれぐらい持ってるんだ?」

「す、すみません。持ってないです……っ」

「……そっか。そいうや、初めてすぐにこのダンジョンに連れてこられたって言ってたな。素材がなくても仕方ねぇか。……」

「す、すみません……」


 私が持ってないと言うと、トイドルさんは少し暗い表情になってしまいます。

 怪我をしていたのでしょうか?

 私が薬師だったから期待させてしまったのかもしれません。

 私は申し訳なくて謝ることしかできませんでした。



 それから、帰るよりも進んだ方が得、とのことで、私たちは上の階を目指すことになりました。

 その道中も会話はやむことなく、終始和やかに進んでいきます。

 私にとってはとてもためになることを話してくれました。

 HPはこの世界の五分で「1」回復するとか、MPは三十分で「1」回復するとか。


 あと、恐らくなのですが、戦えない私のことを思ってくれてのことでしょう。

 トイドルさんたちは交代で見張りをしてくれていたのです。

 そのおかけで、敵に見つかることなく階段に着くことができました。


 階段を上る前に祠を発見しました。

 その中には器があって、中からは綺麗な水が湧いていたのです。

 これが「聖水」だそうです。

 薬師がここまで一人で来るのはなかなか難しい、とトイドルさんに教えてもらったので、折角だから採取していくことにしました。

 フラスコ(聖水)三つ、ゲットです。



 三階に上がると、より深い森に入ってきたような感じを受けました。

 薄暗くて怯える私に、トイドルさんたちは「大丈夫、大丈夫」と言って私の肩を叩いてきます。

 すごい自信です。

 彼らといれば大丈夫な気がしていました。


 三階に入っても私の安全を第一に考えてくれているようで、モンスターとは遭遇しない道を選んでくれていたトイドルさんたち。

 本当に頭が下がります。



 二十分ほど移動して、私たちは最上階へと繋がる階段の方へと向かっていました。

 その際、こんな話が出てきました。


「ボス部屋?」

「ああ。普通なら最上階にそのダンジョンのボスが出てくる部屋があるんだが、このダンジョンだけはそれが三階にあるんだ。しかも、ちょっと特殊な仕様になってて異常に強いんだよ、ここのボス」

「そ、そうなんですか? で、でも、皆さんなら、大丈夫、ですよね?」

「……おう! 俺たちは生きて帰るぞ! このダンジョンを踏破した称号を手に入れてな!」

「す、すごいです……!」


 ボス部屋というボスが出てくる部屋がダンジョンにはあって、それが、ここのダンジョンだけは仕様が異なっているというのです。

 しかも強い、と聞かされて、私は心配になりました。

 ですが彼らは、生きてダンジョンを踏破できる、と言ったのです。

 心強いと思いました。


 私が感激したちょうどその頃、階段が見えてきました。

 その階段は後ろと左右を茨でできた壁に覆われた位置に設けられていました。

 しかも、左右の壁は随分と長くて、一本道を形成していて、それを辿っていった先に階段があったのです。


「なんか、今までとつくりが違うような……」

「……大丈夫、大丈夫。問題ないから」


 私はこの構造を訝しみましたが、トイドルさんたちは警戒することなく歩いてきます。

 あまりにも平然としていたので、私も、問題はないかな? と思ってついて行きました。


 しかし、階段まであと五歩といったところで。


――シュルシュルシュル!


 いきなり棘のついた蔦がいくつも地面から生えてきて、階段への道を塞いでしまったのです。


「な、なに!? なんですか!?」


 狼狽える私に、トイドルさんが説明を施してくれます。


「ここがボス部屋の入口なんだよ。ほら、俺らが通ってきた道も塞がれてるだろ? あれ、ボスを倒せば開く仕組みなんだ。そんでもって、しばらくすると右側の一部の茨が消える」

「……ほ、本当です……っ!」


 彼の言った通り、この通路は完全に封鎖されていました。

 四方八方を茨に囲まれた状態になっていたのです。

 そんな逃げ場のない状態で、これまたトイドルさんの言った通り、誘うように一部だけが消えた右側の茨の壁。


 私たちはそこに近づいて、まだ壁になっている部分に身を隠しながら消えた箇所の奥に何があるのかを覗き見ました。

 そこは大きな部屋のようになっているようです。

 ボス部屋とのことですが、モンスターの姿は見えません。


「……あれ? ボスは?」


 困惑する私を余所にトイドルさんたちは燥ぎ始めました。


「おっしゃー! 喜べ、セツちゃん! バグを引き当てたかもしれねぇ! ボス不在だ! 本来ボスが落とすアイテムを拾えば、封鎖が解除されるぞ!」

「ほ、本当ですか!?」

「そしてそのドロップ品はセツちゃんにやろう!」

「ええ!? そんな、悪いですよ! 私、なにもしてないのに……っ」

「いいから、いいから! お近づきの印ってことで受け取ってくれ! 俺たちはセツちゃんが店を出した時、贔屓にしてもらうからさっ!」

「っ! ありがとうございます!」


 なんと、ボスが出現しないバグがこのゲームにはあるとのこと。

 そして、彼らはドロップ品まで私にくれるというのです。

 私は一旦は断ろうとしましたが、彼らにもメリットがあるとのことなのでお言葉に甘えることにしました。


 ……彼らの嘲笑に気づくこともなく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る