第5話 エリア最難関ダンジョンを生き延びろ2

 私は身体を動かすのが割と好きな方だったりします。

 ただ、何分も全力疾走をしなければならないとなると流石につらいです。

 でも、へとへとでも、立ち止まることはできません。

 なぜなら、私は今。


「カァーーーー!」

「カァーーーーーーーーッ!」

「ひぃいいいいっ!」


 追われているからです。


 最初の頃は二体だったカラスグモさん(仮称)も、今では十体ほどという大所帯に。

 逃げ回っていたら、また別の固体に見つかって、更に逃げたら、更に別の固体に……といった感じで、こんなことになってしまっていました。


「カァーーーーッ!」

「ひゃわああああっ!?」


 カラスグモさんAがその嘴で私を攻撃しようとしてきます。

 一撃でも受けてしまったら死んでしまうかもしれませんので、当たるわけにはいきません。

 私は全力で回避しました。


 カラスグモさんAの攻撃を躱したら、次はカラスグモさんBが、その次はカラスグモさんCが……というふうにローテーションを組んで私を狙ってくるカラスグモさんたち。

 それをなんとか避けながら、私は走り続けました。


「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」


 なんか、体力がヤバくなってきている感じがします。


 そんな時でした。

 草木を掛けわけながら進む森の中で、現実世界の森ではあまり見受けられないものを発見しました。



 上り階段です。



 そういえば、このエリアのダンジョンは四階構成になっている、ってあゆみちゃんが言っていたのを思い出しました。

 ただ、これ、どこに続いているのでしょうか?

 見上げたら、枝が伸び切ってついている葉っぱで捉えにくいですが、空が見えるのです。

 上っても足場がないのでは……?


「カァーーーーッ!」

「ひぃっ!?」


 なんて考えている場合ではありません!

 追われているこの状況をなんとかしなければ……!


 私は前にあゆみちゃんに誘われてやったゲームで、階段が安全だったものがあったことを思い出しました。

 ですから、階段に一歩、踏み込んだのです。



 直後、視界は一気に変わりました。

 相変わらず森の中なので、変化は微々たるものだったのですが、ちょっとだけ深い森という感じになっていたのです。


 階段を上ったという感覚はまるでなく、さながら、転移をさせられたような、そんな印象を受けました。

 その証拠として、振り返って見ると、下りの階段があります。

 どこへ続いているのかわからない深い、深い階段が。


 ……。

 少し待ってみましたが、カラスグモさんたちが追ってくる様子はありませんでした。

 どうやら本当に空間が分けられているみたいです。


 私はハッとしました。


「そうだ! ここならログアウトできるんじゃ……!」


 けれど、そううまくは運びませんでした。


『ダンジョン内です。安全地帯セーフティエリアでなければログアウトはできません』


 ……どうもここも安全地帯ではないようです。


 安全地帯でない、ということは、またあのようなモンスターに襲われるかもしれないということ?

 そのことに思い至った私は、そそくさと移動を開始しました。

 できるだけ周囲を警戒して、できるだけ見つからないように。



 身を屈めて、草木の陰を這うようにして進んでいた時でした。


――びちゃっ


「――っ!?」


 私の目の前に何かが飛んできたのです。

 それは地面に当たると飛び散って、私の顔に跳ねました。

 いきなりのことに声すらも出ないほどに驚いていると、少し遠くの方から声が聞こえてきました。


「お前、乱暴すぎ。モンスタープディン、どっかに行っちまったじゃねぇか」

「わりぃ、わりぃ! けど、ドロップあんまうまくねぇからいいじゃん! フラスコ持ってなきゃ取れないのに、全然高く売れねぇんだからさ!」

「魔石は?」

「それは……てへっ」

「筋骨隆々のおとこがやる仕草じゃねぇんだよ、それ。イラっと来たわ。ちょっとこっち来い。爆裂魔法でその頭ぶち抜いてやる」

「待って! それデスるんですが!? ここまで育てたの、パーになるんですが!?」


 男性二人組のようでした。

 私の顔にその一部がへばりついた「プディン」というのを飛ばしたのは彼らのようです。

 足音が遠退いていったため、彼らは「これ」から得られるものを回収することを諦めたのかもしれません。



――敵を倒せばドロップアイテムが出る――



 これもあゆみちゃんが言っていました。

 しかも、私、今ちょうどいいことを聞いちゃってました!

 この「プディン」というモンスターが落とすアイテムはフラスコで回収することができる、と!


 私は早速試してみることにしました。

 フラスコを取り出して、アイテムをその中に入れるようにイメージします。

 すると、フラスコの中に何かが収まりました。


========


フラスコ(黄プディンの粘質水)


========


「……やった! 初のアイテムゲット!」


 漁夫の利ですが、私は初めてのアイテムを入手することに成功しました!

 ……いらないって言っていたので、いいですよね? もらっちゃっても。


「それにしても……。このプディンっていう名前、どこかで見たような……――あっ!」


 アイテムを手に入れられたことでほくほく顔になっていた私ですが、引っ掛かりを覚えました。

 「プディン」というのを、初めて知った気がしなかったのです。

 考えたら、すぐに思い出しました。


 私はステータスを開いて、薬師のジョブスキルでつくれるものを確認します。


========


HP回復ポーション作成:必要素材

・聖水・回復草・プディンの粘質水・魔石(緑or赤or青or黄)


========


「あ、あった! ……でも、あれ? 黄色……?」


 その名前はHP回復ポーションをつくれないかと調べていた時に見ていたのです。

 ですが、必要素材には「プディン」とだけ記されているのに、私が入手したものには「黄プディン」と表記されていました。

 まさか、別物なんでしょうか……?


 詳しく見ていくうちに、どうも別物である可能性が浮上してきました。

 だって、つくるのにそれを必要としている薬があったのですから。

 必要素材は聖水、猛毒草、黄プディンの粘質水、黄色い魔石。



――猛毒薬のレシピ――です。



「つ、つくりたいのはこれじゃないんだけど……」


 HPを回復しながら、あゆみちゃんが諦めて帰るのを待つ算段だったのに……。

 これでは計画を遂行できません。


 項垂れると、私の目に光る宝石のようなものが入ってきました。

 黄色くてトパーズのようにきれいな石です。

 拾い上げてポーチの中に収納して名前を確認してみると、黄色い魔石と記されていました。


 ……このダンジョンは私に毒薬をつくらせようとでもしているんでしょうか?

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