第4話 エリア最難関ダンジョンを生き延びろ1
「はぁ、はぁ、はぁ……! ログアウト! ログアウトさせて……っ!」
『ダンジョン内です。
「そ、そんなぁ……!」
私は物陰に隠れながら懇願していました。
ゲームから現実に戻ればいいのでは? と思いついて。
ですが、頭の中に響いたのは、望まない結果を知らせるアナウンス。
私は絶望に呑み込まれていました。
どうにかしてここから抜け出せないものかと考えながら、こっそりと顔だけを覗かせてみます。
視界の右端で何かが蠢いているのが見えました。
それは、鳥の頭をした蜘蛛のような身体と八本脚の、頭から鱗のついた触手を何本も生やしている、現実には存在し得ない一体の生き物で――。
「ひぃっ!?」
き、気持ち悪いです……!
あれを見たら、子どもは泣くんじゃないでしょうか!?
……このゲーム、レーティングがBでした。
それは、これが理由なのかもしれません……。
兎に角……っ。
あんなのと戦う気なんて起きません!
ここはゲームの世界なので、もしかしたら戦えるのかもしれませんが――
「そ、そうだっ! す、ステータスを見たい!」
私は思い出しました。
ゲームについてあまり詳しい方ではなかった私ですが、あゆみちゃんに耳にタコができるほどに聞かされていたので「ステータス」のことを覚えていました。
確かそれが、「ゲーム内での私の強さ」のはず……!
私が念じると、目の前にスマホの画面のようなものが突然現れました。
「ひゃわ――っ!?」
思わず、大きな声が出てしまいそうになるのを手で押さえて無理やりにでも止めます。
一度、蜘蛛のような奇怪な生物が私に気づいていないことを確認してから画面を見ました。
そこには、こう記してありました。
========
名前:セツ レベル:1
職業:薬師(生産系)
HP:11/11
MP:11/11
攻撃:10
防御:10
素早さ:11
器用さ:11
スキル:『薬による能力補正・回復上限撤廃』
『ポーション昇華』
『有効期限撤廃(自作ポーション限定)』
ジョブ専用スキル:『製薬』
========
……これは強いのでしょうか?
いいえ、そんなわけありません。
ゲームを始めたばかりなのですから。
それにあゆみちゃんも言っていましたし……。
――『ゴミ』――と。
……せめて一番簡単なダンジョンだったなら、「もしかしたら」があったかもしれませんが、ここはエリア最難関のダンジョン。
突破するのはほぼ不可能な状態でした。
私は大きな木に背を預けて、ずり落ちるように座り込みます。
膝を抱えました。
「……私が
私が着ているのは薬師の初期装備である白衣。
ヒーラーは神官服や袈裟などが初期装備だと、あゆみちゃんは言っていました。
だから私が「
本当に無能なのでしょうか……?
私はタップができそうなアンダーバーが引かれている薬師のジョブスキル『製薬』を指で押してみます。
すると、隠されていた詳細が展開されました。
========
ジョブ専用スキル:『製薬』
バフ・デバフ、バッドステータスを付与するアイテムや
回復アイテムを生成する能力。
生成可能なアイテム(現在)
→HP回復ポーション/猛毒薬/攻撃バフポーション/
攻撃デバフポーション
========
「こ、これ……!」
回復することが可能ならなんとか生き抜くことが可能なのでは!?
ちょっとだけ。
か細いですが、光の筋が見えて私はガッツポーズをしました。
その時、手が画面に触れてしまったようで、表示が変化します。
それを視界に収めてしまった私は慌てさせられました。
========
HP回復ポーション――素材が不足しています。
(必要素材:聖水、回復草、プディンの粘質水、魔石)
========
私はこんなこともわかっていなかったのです。
薬をつくるには「素材となるアイテムが必要である」ということも。
「そ、素材!? わ、私、持ってるかな!? っていうか、何も持ってないような……っ!」
あわあわと、自分の身体を確かめます。
私が身に着けていたのは白衣で、他はスキャンされた時の服装が反映されていました。
もこもこのパーカーにホットパンツ、ニーハイソックスという、いかにも白衣とは不釣り合いな装いです。
ちなみに始める際に、靴も必要だと「声さん」に言われていて、いつも履いている運動靴のデータを入れていたので、今はそれを履いている状態です。
白衣以外はほぼ普段の私でした。
ですが、腰の辺りに慣れないものをつけられていることを発見しました。
「……あっ!」
ポーチです。
武骨なデザインのウエストポーチでした。
それに触れて、ファスナーを開けてみると、ステータスとは別の画面が表示されます。
========
所持アイテム一覧
・フラスコ(空)
・フラスコ(空)
・フラスコ(空)
・フラスコ(空)
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
========
出てきたのは、私が今持っているアイテムの一覧のようでした。
一番上の「フラスコ(空)」をタップしてみると、目の前の空中に3Dプリンターでつくり出されているみたいにフラスコが出現します。
一秒ほどで完全に出現したフラスコは、突然無重力状態が解除されたように落下を始めました。
私は慌ててキャッチします。
「出てきた……。不思議。……だけど、
優れた技術に感動を覚えましたが、それは一瞬で引いてしまいました。
今はそんな場合ではないのです。
何も入っていないフラスコでは、それだけで何かができるとは思えません。
「……今は使えなさそう。戻しておこう。……どうやったら戻るの?」
私は四苦八苦しながら、フラスコをポーチの中に戻しました。
普通にポーチに入れようとしても入らなかったからです。
ただ、それほど悩む必要はなくて……。
ポーチを開けている状態で念じたら収納されました。
私、これだけに五分くらいかけちゃってました……っ。
3Dプリンターを逆再生するかのようにフラスコが所持アイテム一覧の中に収められていきます。
私はそれを眺めてしまっていました。
呑気に。
「カァーーーーッ」
「……え?」
近くで発せられたカラスのような鳴き声に、私の顔はその方に向けさせられます。
モンスターがいなかった左側に。
そこには、
「カァーーーーーーーーッ!」
「ひっ!?」
いつの間にか
右側にいたのが、回り込んできたのかと思っていましたが違いました。
右側にいたのは、まだそこにいて。
要するに、別固体。
この場所には二体のカラスグモさん(仮称)がいたのです。
「ひゃわああああっ!?」
ここにいては不味い! そう判断した私は咄嗟に走り出しました。
入り口からは離れていく方向に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます