第61話 バレた

冒険者ギルドの外から、物陰に隠れながらペキ達の様子を伺っている者がいた。


ナタリーである。


ペキ達と入れ替わりにナージャが出てきたのを見たナタリーは、ナージャを呼び止めた。


ナタリー「ちょっとナージャ! どうなっているのよ?!」


ナージャ「あらナタリー? どうって?」


ナタリー「ペキ達、普通に冒険者続けてるけど? 足腰立たないようにして冒険者辞めさせてくれるんじゃなかったの?」


ナージャ「仕方ないじゃない、連中、意外とやるわよ。それに最近ギルマスのチェックが良く入るんでさ、あまり露骨な事できなかったのよ」


ナタリー「新人潰しのナージャが、しっかりしてよ」


ナージャ「何その二つ名?」


ナタリー「将来有望な新人何人か潰しちゃったから、噂になってるんでしょ」


ナタリー「って裏で私がペラペラ喋っちゃってるからなんだけどね~」


ナージャ「おまえのせいかーい!」


ナタリー「ごめーん。まぁとにかく、あのペキとかいう生意気なガキ、どっかで殺しといてよね。あんたには重大な貸し・・があるんだからね、分かってるわよね?」


ナージャ「分かってるわよ。まぁそのうち、隙を見て、ね……」




  +  +  +  +




ユクラの件を報告してから数日後の事であった。


ギルドマスターがペキ達を呼んだ。


スマフ「すまん…」


執務室に入ると、ペキとマツに向かってギルドマスターのスナフが頭を下げた。スナフのツルツルの頭頂部がペキ達に見えている。


ペキ「眩しいでござる」


マツ「ちょ、ペキさん!」


スナフ「お前なぁ……俺にそんな事を言うのはお前くらいだぞ…」


ペキ「冗談でござる。それで、何を謝っているのでござるか?」


スナフ「実はな、お前達の事が王宮にバレてしまったらしい。解体部門の職員の中に回し者が居て、そこから報告が上がったようだ」


解体主任「漏らした職員には罰を与えたから、それで許してくれないか?」


ペキ「罰とは?」


スナフ「雑用係に降格だ。せっかく解体を憶えたが、当分はトイレ掃除だな」


ペキ「随分と甘いでござるな」


スナフ「奴は病気の家族を支えていてな。治療費を稼ぐ必要があるので無職にさせるのも酷でな。王宮のスパイも金で引き受けたらしい」


解体主任「まぁスパイなんて大げさなもんじゃないようだ。街での出来事を定期的に提出するだけらしい。内容を見てみたら、ただの日記だったよ」


ペキ「別に良いでござるよ。いずれバレるとは思っていたでござる」

ペキ「まぁバレてもすぐにどうこうという事もござらんでござろう」


スナフ「それが…、すでに王からの命令書が届いている」


マツ「王様から?」


スナフ「ああ、王命だから、よほどの事がない限り、断れんぞ…」


ペキ「国を出る覚悟があれば拒否も可能でござろう?」


スナフ「…やっぱりそうなるか」


ペキ「その王からの命令の内容次第でござるが」


スナフ「内容は、


『世界から召喚された“荷物持ち”を勇者の魔王退治の旅に荷物持ちとして同行させよ』


とさ」


ペキ「はて、勝手に読んだのでござるか? 拙者宛の命令書では?」


スナフ「ああちょっと違うぞ。これは俺宛の命令書だ。お前たちの名前も書いていないところを見ると、王もそこまで情報を把握しきれていないという事だな。だが、冒険者である事は分かっているので、ギルマスである俺から命令して従わせよ、という事のようだ」


ペキ「なら、そんな奴は居ないとすっとぼけられるでござるかな? 巫山戯るなと言われてもペナルティはスナフ殿に来るので、その間に拙者達は夜逃げして…」


スナフ「まぁ、そうなるよなぁ、やっぱり……」


ペキ「おや、引き止めないでござるか? 王命に逆らったらまずいのでは?」


スナフ「ふん、舐めるなよ? 冒険者を守るのがギルドの仕事だからな。そもそも冒険者ギルドは国からは独立した組織だ。命令に服従する義務はない」


マツ「これは、人の上に立つ者の鑑ですね、立派です」


スナフ「国としても冒険者ギルドと正面きって敵対する事はできんはずだ。だがまぁ、同時に俺達は王国民でもあるので、多少の不利益・嫌がらせはあるかもしれんがな。そうなったら俺も別の国にでも逃げ出すかな」


ペキ「命令の詳細は? 内容はそれだけでござるか?」


スナフ「ああ、これだけだ」


スナフがペキに巻物を渡す。中には先程スナフが言った内容しか書かれていない。


スナフ「ただ、別口で入ってきた情報によると、荷物持ちの同行を希望したのは勇者様と聖女様本人らしいぞ? そう言えば、知り合いなんだったな」


ペキ「知り合いという訳ではござらん。この世界に呼ばれる時に、一瞬会っただけでござる」


スナフ「あ~お前達、のんびりしている場合じゃないぞ。逃げ出すなら、速いほうがいい。実はな…」


その時、部屋の外が騒がしくなった。


『ちょっと! 困ります!!』


『まぁまぁ堅いこと言うなって、せっかく俺様がわざわざ来てやったんだぞ? それにここのギルマスとは顔見知りだしな』


スナフ「ああ、すまん。間に合わなかったようだ。実は、勇者達がお前に会いにこちらにむかっているという情報があってな。数日は掛かると思っていたんだが…」


そして、ノックもなくいきなり扉が開いた。


『よぉ、久しぶり!』


スナフ「…タイガ」


タイガ「おお、やっぱり居た! サラリーマンと運転手のオッサン二人組。話を聞いた時、お前達二人だと思ったんだよ! …ええっと名前聞いたっけ?」


ペキ「…ここではペキと名乗っているでござるよ」

マツ「マツと名乗っています」





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