第60話 庭を掘ってみた

フォギア「アンデッドは本当にユクラだったのか…。なんとまぁ…」


ナイレン「兄が……」


ペキ「そんなわけでござるので、ナイレン殿の家を教えるでござる」


マツ「ナイレンさんの家の庭に金が埋まっているとしても、我々には関係ないので家まで行く必要はないのでは?」


ペキ「ダメでござる。ちゃんと見届けてユクラ殿に報告する必要があるでござるよ」


フォギア「ちゃんとやったって、嘘でも言えばユクラも安心するんじゃないか?」


ペキ「拙者、嘘は苦手でござる。それに、どこにあったとか、実際と齟齬があったらバレるでござる」


マツ「ペキさん意外と融通聞かないとこ、ありますよね」


ペキ「拙者、不器用でござる故…」


マツ「往年の名優っぽく渋く言っても、この世界では誰も下倉建なんて知らないのでは?」


ウール「それにしても、死にきれないほどの大金だったのかしら?」


ペキ「妹殿を思う親心いや兄心なのでござろう」


ウール「でも、あのユクラよ? 日頃の言動からすると、ちょっとギャップがあるんだけどね」


ナイレン「兄とはずっと仲が悪かった…。あの兄が私に金を残すとか、ちょっと信じられない」


ペキ「まぁ、人間みな、正直には生きていないでござる故。サバル殿だって、本当はマル殿が好きで意地悪していたようでござるし」


マル「あーそういう事はあるかも知れませんね。ユクラさんは死んでやっと素直になれたって感じですか?」


とりあえず、ナイレンの家に行ってみる事にした。両親を亡くした後、ユクラとナイレンの兄妹は二人でその家に住んでいたが、大人になり冒険者になってからユクラは家を空けることが多くなり、そのうちまったく戻ってこなくなったのだとか。


ナイレン「……あそこ」


それほど広い庭ではない。今は手入れもされず雑草が生えまくっているが、よく見ると、雑草の生え方が違う場所があった。おそらくユクラは、時々こっそり戻ってきて金を隠したのだろう。時々掘り返していたので、そこだけ雑草の生え方が少ないのだ。


怪しい場所を掘ってみると、ツボが埋まっており、蓋を開けてみると、数枚の金貨と手紙が入っていた。


ウール「思ったよりしょぼ!」

フォギア「大金が入ってても困るだろうが」

ウール「なんでよ?」


フォギア「その金をどこから手に入れたんだ? って話になるだろうが。もし罪を犯して手に入れた金だったら、取り返しに来る奴がいるかもしれない…」


フォギア「だが、これならおそらくアヤしい金ではないだろう。冒険者として稼いだ金をコツコツ溜めてたってところか」


壺の中の手紙はナイレン宛で、冒険者など辞めて、誰か良い男を見つけて嫁に行け、この金で嫁入り道具でも買え、と書いてあった。


ウール「へぇ…ちょっと印象と違うけど、妹思いのところもあったのね」


ナイレン「…嫁になんか行かない。余計なお世話」


ペキ「さて、これで約束は果たしたので、ユクラ殿に引導を渡しに行くでござる」


フォギア「インドー?」


ペキ「ああ、拙者達の故郷の言葉で……マツ殿、引導ってどんな意味でござったかな?」


マツ「語源までは私も知らないですよ…」


ペキ「ん~本当の意味は多分違うけど、(インドウとは)乗合馬車の切符のようなモノだと言えば、この世界の人にも分かりやすいでござろうか…?」


ウール「なるほど、死んで魂が別の世界に旅立つ事を、切符を渡して馬車に乗せる事に喩えているのね」


ペキ「そんな感じでござる」


ナイレン「……私も行く」


ペキ「腐った兄など見ないほうが良いのでは? …とスナフ殿も言っていたでござるよ?」


ナイレン「…兄だから。私がそのインドーを渡す…」


ウール「私達も行くわ。バームが火属性の魔法を使えるから」


バーム「(火属性は)あまり得意とは言えないのですが、ウールが手伝ってくれれば…」


ウール「私は風属性の魔法が得意だから、合わせれば結構強い炎を発生させられるのよ」


ペキ「…なぜ火属性でござるか?」


ウール「あら、火属性はアンデッドに有効なのよ? 聖属性ほどには効かないけど、アンデッド化しにくくなる効果があると言われてるわ」


マツ「ああ、だから、森に魔物(や人)の死体を放置する時は燃やすといいと言っていたのですね。できないときはしょうがないから埋めろと」


ウール「埋めると逆にアンデッド化する率が高くなるという説もあるのよね。地の魔力が穢れていると、それを吸って魔物化してしまうとかなんとか」


ペキ「では、埋めないほうが良いでござるか」


ウール「分からないわ。燃やすより埋めたほうがいいって主張する派閥もあるし。どっちが正解か、実験までして争ってる人達も居るとか…」


フォギア「既にアンデッド化してしまってるなら埋めても意味はないぞ。だが、燃やせば魂が天に帰る助けになる可能性はある」


ペキ「では、ユクラ殿には炎上してもらう方向で」

マツ「炎上って表現でいいんですか?」


――――――――

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――――――――


再び森にやってきたペキとマツ&バリー、そしてフォギア達【疾風】の四人。


ユクラは別れた場所とほど近いところで見つかった。


ナイレンの姿を見て、ヨロヨロと近づいてくるユクラのゾンビ。たが、ナイレンは剣を抜いて近づくなと威嚇した。仕方がない、腐敗はかなり進行しており、臭いがきつかったのだ。感動の兄妹の再会とはやはりならなず、ナイレンは顔を顰めていた。


それを見てユクラは少し悲しそうな顔をした……気もしたが、良くわからない。


ペキ「ユクラ殿、庭を掘ってナイレン殿に金の入っていた壺は渡したでござるよ」

マツ「手紙も入ってました」


ナイレンが懐から手紙を出して見せた。


それを見たユクラは感無量という感じの表情をした……気がしたが良くわからない。


ペキ「では、旅立つでござるよ。よろしいか?」


ナイレン「兄…。私は大丈夫。天に帰れ」


ユクラは黙ってじっとしている。了承と判断する。


ペキ「では、ウール殿、バーム殿、お願いするでござる」


フォギアが持ってきた油をユクラに掛け、バームが火を放った。そしてウールが風でさらに火を煽る。


不快な臭いと共にユクラは勢いよく燃え始めた。


マツ「熱くないんですかね?」


ペキ「大丈夫のようでござるな。手を振っているでござる」


ユクラはやがて燃え尽き、骨が残った。


ペキとマツは手を合わせ、ナイレン達は手を組んでユクラの冥福を祈った。


残った骨は壺に入れてナイレンが持ち帰った。街の地下墓地で預かってくれるのだそうだ。




  +  +  +  +




それから数日後……


地下墓地の中で、ユクラはスケルトンとして蘇ったのだが。人間の魂として転生する事には失敗したようだ。


ユクラ「カクカク(なんでや???)」


※実は、魔王の活動の影響で、闇の魔力が強くなっており、アンデッドも発生しやすくなっているのであった。



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