第57話 第二ラウンド、行きますわよ

ナージャ「~っ痛ぅぅ~~~~」


剣先を地に着け、片手て頭を押さえて痛がるナージャ。


ナージャ「~っ、先刻さっきも一瞬で距離を詰められた時があったけど……あなた【縮地】スキルを持っているのね?」


ペキ「いや? …いやまぁ、似たようなモノを持っているでござるが…」

ペキ「というか、頑丈過ぎないでござるか? 頭蓋骨を割るつもりで殴ったのでござるが?」


ナージャ「酷いわね、頭割られたら死んじゃうじゃない」


ペキ「いや、すぐにポーションで治療すれば大丈夫かと…」


ナージャ「まぁ、あなたごときのへっぽこ打ち込みで私の頭は割れないけどね」


ペキ「なんという石頭…。この世界の人間はみんなそんなに頑丈なのでござるか?」


ナージャ「まるで別世界から来たみたいな言い方ね?」


ペキ「いや、その…」


スナフ「ナージャが頑丈なのは魔力による身体強化だ、ペキ」


ペキ「身体強化…? 支援魔法の一種でござるな?」


スナフ「いや……魔法として術式が成立していないから他人には掛けられないが、魔力を直接自分の身体に流して内側から強化する事が出来るんだよ。ナージャの得意技だ」


ペキ「なるほど…【身体強化】でござるか……」


スナフ「しかもナージャは打たれる瞬間、頭部に魔力を集中して防御していた」


ペキ「完全に死角からだったはずでござるが…」


スナフ「無意識に危険を察知しての反応だろう。現役Cランクならそれくらいはやるって事だ」


ペキ「…凄いものでござるな」


スナフ「というか、ナージャ。その手に持っているのはなんだ? ペキを殺す気だったのか?」


ナージャ「あら、いつのまに? 木剣と間違えたわ」


スナフ「惚けるな」


ナージャ「いいじゃない、切れてもポーションで治るんだから? というか、実際斬れなかったし…。色々と妙なスキル? を持っているようね」


ペキ「すべて空間魔法でござるよ」


ナージャ「空間魔法…荷物持ちだけの魔法じゃなかったのね…」


ペキ「なんで空間魔法がミソッカス扱いされているのか分からんでござる」


ナージャ「【収納】が使える者は冒険者になって戦闘したりはしないもんだったからねぇ」


スナフ「それだけじゃない。【収納魔法】が使える者はたまにいるが、大した容量を収納できるわけじゃないんだ。魔力量によって収納力が決まるからな。お前ほど魔力量を持ってる空間魔法使いは今までいなかったんだよ」


ペキ「ああ、空間魔法は魔力をバカ食いするでござるからな。魔力がないとそもそも使えないでござるか…」


ナージャ「それじゃぁ、第二ラウンド、行きますわよ。私も全力でやるわ」


ペキ「…望むところでござる」


ペキはチラリとマツとバリーさんを見ながら言った。


剣を向け合うナージャとペキ。


魔力を足腰に巡らせ強化したナージャが一気に距離を詰めて打ち込んでくる。同時に剣を振り上げていたペキが、瞬時に転移で横に移動し、ナージャの手に向かって木剣を振り下ろす。


マツに痛い思いをさせた件、ペキはまだ許したわけではないのだ。


だが、ペキの小手打ちは成功せず。ナージャの動きは速く、するりと躱されてしまった。


ペキ「まだ、まだ…」


激しく斬り結び始める二人。


マツ「ナージャさんの攻撃が速すぎて、ペキさんは転移を使う余裕がないのでしょうか…」


まともにナージャと打ち合っているペキは、転移を使わなくなってしまったのだ。


だが、最初は余裕だったナージャの顔色が青くなっていく。一撃、一撃、ペキの振る剣の威力が、速度が上がっていったためである。


そもそも、ナージャは真剣を持っているが、ペキは木剣のままである。にもかかわらず、ペキの木剣はナージャの真剣とぶつけ合っても負けていないのだ。


ペキは、先程聞いた【身体強化】を見様見真似で試してみたのだ。かなり精度の荒い、コントロールがまるでできていない無駄の多い身体強化であったが、ペキの圧倒的な魔力量を惜しげもなく注ぎ込んだ結果、とんでもない効果を発揮しているのである。


どんどん激しくなるペキの攻撃……


ナージャ「ちょ…まっ…まいっ…!」


降参を口にしようとしたナージャであったが、一瞬遅かった。深々とペキの突きがナージャの鳩尾に突き込まれ、最後まで言うことができなかった。


ここに来て、ペキは【転移】を発動し、瞬時に距離を詰め、突きを放ったのだ。


ナージャ「うっぐぅうう……」


スナフ「待て! それまでだ!」


だが、ペキは止まらない。振り上げた木剣がナージャの前腕に振り下ろされ、哀れナージャの腕はポッキリと折れてしまったのであった。


慌ててスナフが飛び込んできてペキの腕を掴んで、模擬戦は終了となった。







ナージャ「昇級試験で試験官の私がポーションのお世話になるなんて、さすが、マスタースナフの認める大型新人ね」


ペキ「すまんでござる……ちょっとやりすぎでござったか」


ナージャ「別に謝らなくていいわ。私も本気だった。正々堂々の勝負、文句はないわ。わざと挑発したのは私だしね」


マツ「わざとだったんですか?」


ナージャ「スナフの推薦する二人の実力を、味わってみたかったのよ。ごめんね、テヘペロ」


マツ「テヘペロって口で言う人初めて見ました」


ペキ「ナタリー殿の件は……」


ナージャ「あの娘はバカだから。(ギルドの職員は)務まらないんじゃないかって思ってたわ」

ナージャ「ま、あの娘には逆恨みするんじゃないってきっちり言っとくから。心配しないで」


スナフ「お前も大概バカだけどな」


ナージャ「否定はしないわ」


ナージャ「しかし、土壇場で【身体強化】まで使えるようになるとはね。まさか木剣にまで魔力を通して強化するとは思わなかったわ」


ペキ「見様見真似でやってみたでござる」


ナージャ「かなりコントロールが荒かったけど、精密に使えるようになれば、身体強化はかなり使える技術よ。精進しなさい」


ペキ「…良いことを教わったでござる。かたじけない」


ナージャ「全員合格よ!」


試験官のナージャに向かって頭を下げるペキ・マツ・マル・ヨサクルであった。



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