第55話 容赦ないナージャ

ナージャ「さぁ打ち込んできなさーい!」


言われたマルが木剣で思い切りナージャに打ち込んで行く。


だがそれをいとも簡単に木剣で受け止めるナージャ。


マル「!」


ナージャ「続けて!」


マルが打ち込み、ナージャが受ける。


さらにナージャは受け止めるだけでなく、払ったり往なしたりし始める。必死で打ち込むマルだったが、さすがCランク、その剣捌き足捌きにマルはまったくついていけない。


そして、空振りして態勢を大きく崩したマルに、ナージャが反撃を繰り出す。


マル「うう~」


マルは反応できず。額の上で寸止めされた木剣を見て唸る。


ナージャ「ふふ、次は私が攻撃するから受けてみなさい!」


ナージャの攻撃は鋭く、マルはかろうじて受け止めるのがやっとであった。


ナージャ「もちろん隙あらば反撃してかまわないわよ?」


だがナージャの連続攻撃に隙を見つける事などマルにできるわけもなく。防戦一方のマルは、ナージャの剣撃を木剣で受け止めるだけ精一杯である。


しかもナージャの打ち込みはかなり鋭く、受け止めているだけで手が痺れてしまう。やがてついに、マルは剣を叩き落とされてしまった。


そして喉元に突きつけられる木剣。


ナージャ「……よし。まぁいいでしょう、合格よ!」


マル「え…? 何もいいところなかったけど…」


ナージャ「いや、Eランクならそんなもんでしょう。かなり手加減していたとは言え、これだけ私の攻撃に持ちこたえたのだから、十分優秀よ。これからさらに努力しなさい。あなたはもっと強くなれるわ」


マル「…っ、ありがとうございましたっ」


思わず頭を下げたマルであった。


ナージャ「次、ヨサクル。来なさい!」


ナージャはヨサクルに向かって木剣を向けた。


ヨサクルは木製の模擬斧を持って構える。


ナージャ「あら、斧なのね?」


ヨサクル「オラ、もともと樵だでな」


ナージャ「なるほど、オーガに金棒、樵に斧。油断できないわね」


そう言いながらも不敵にクイクイと手招きするナージャに向かってヨサクルが思い切り斧を振っていく。が、もちろん当たらない。


ブンブンと斧を振り回すヨサクルだったが、すべての攻撃をナージャは華麗なステップで躱してしまう。(さすがに剣で斧の攻撃を受け止めようとはしないようだ。)


やがて、何度か空振りを繰り返したところで、体勢を大きく崩したヨサクルの隙をついてナージャが反撃に行く。


だが、体制を崩したように見えたのは、ヨサクルの誘いである。最初の一撃で全力のスイングを見せ警戒させておいて、次からは表情や体の体勢をそれっぽく見せているだけのポーズである。実際には力を込めておらず、相手が攻撃を仕掛けてきたところにカウンター攻撃を仕掛ける余力を残しているのだ。


だが…


ヨクサル「…あっ」


ナージャのカウンターもフェイントであった。


カウンターを取ろうと全力で切り替えしたヨクサルの斧は空を切り、今度は本当に体勢を崩してしまう。そしてヨクサルの首後部に木剣をあてがうナージャ。


ナージャ「狙いは悪くなかったけどねぇ」


サバルと相打ちに持ち込んだ作戦であったが、さすがCランク、読まれていたようだ。


ナージャ「あなたは良いスイングを持っているのだから、変に小賢しい策を弄するよりも、まずは一撃の速さ強さ鋭さを磨く方向で努力したほうがいいかもね。圧倒的な破壊力は、いずれ全ての技を凌駕する…かも知れない」


ヨクサル「そ、そうだすか…やってみるだよ」


ナージャ「もちろん試験は合格よ」


ペキ「最初は警戒したでござるが…意外と良い試験官でござったな」


ナージャ「さて、次は…」


マツ「では、私が」


ペキ「待つでござるよマツ殿、その木剣で戦えるでござるか?」


マツ「でも…」


ナージャ「どうかした?」


ペキ「マツ殿は、いつも使っている武器を使ってもいいでござるか? マツ殿の武器は少々特殊で、この訓練場にはマツ殿が使う武器に類似する模擬武器がないのでござるよ」


ナージャ「特殊? 普段どんな武器を使ってるの?」


マツ「武器、というか防具というか…」


マツは肩にぶら下げていた棘付き手持ち盾バックラーを両手に装備してみせた。


ナージャ「妙な防具を身につけていると思ったら、バックラーだったのね? しかも棘付き…確かに珍しいわね」


ペキ「防御と攻撃を兼ね備えているでござる。ゴブリン程度ならこれで殴り飛ばして倒すことができるでござるよ」


ナージャ「面白い、ちょっと対戦してみたいわ、掛かってきなさい」


ペキ「待つでござる、さぁ、バリー殿」


バリー「にゃ」


ナージャ「今度は何? って猫?」


ペキ「そもそもマツ殿はテイマーでござる。当然、戦闘はバリー殿とセットでするべきでござろう」


ナージャ「あら、そんなかわいい猫ちゃんが、戦えるの?」


スナフ「外見に騙されると痛い目を見るぞ? そいつはまだ子供のようだが、ストームキャットだからな」


ナージャ「! …それは……」


スナフ「ナージャはストームキャットを仕留めたことは……?」


ナージャ「あるわけないでしょ、Sランクの魔物よ! 一度だけ遭遇したことがあるけど、見つからないように隠れてやり過ごしたわよ」


ナージャ「ストームキャットはナシよナシ。本人だけにしてちょうだい」

ナージャ「テイマーだって、ある程度は本人が戦えないと拙いでしょ!」


マツ「それでは。バリーさん抜きでは私はそれほど強くはないので、お手柔らかにお願いしますね」


ナージャ「はっ!」

マツ「おっと! いきなりですか?!」


振り下ろされたナージャの木剣を飛び退いて躱すマツ。


マツ(自分で思ったより体が動きます。これは…若返ったからですかね…)


ペキ「マツ殿! 前に出るでござるよ、バックラーは下がると不利でござる」

マツ「そ、そうでした」


積極的に前に出て行くマツ。結果、振り下ろされる前のナージャの木剣を棘の間に捉える事に成功した。


そして反対側のバックラーで殴り掛かるが、ナージャにステップバックで逃げられてしまう。


ナージャ「なるほど、コツは分かった」


やはりナージャは強かった。距離を素早く詰めて攻撃、急速離脱して距離を取る。接近戦を挑みたいマツであったが、出入りの激しいナージャのフットワークについていけず。


バックラーで殴りに言って往なされた隙を突かれ、前腕にナージャのふるう木剣が直撃してしまう。


ただ、先程、マルとヨサクルに対しては当てるだけで打ち込まなかったナージャであったが、マツに対してはかなり本気の打ち込みである。


マツ「ひぐっ!」


木剣で前腕を打たれ、マツは前腕を骨折してしまった…。ありえない角度で前腕の途中から折れ曲がるマツの右腕。


だが、ナージャは攻撃を止めない。


ナージャ「まだよ! 片腕なくしたからって、魔物は待ってくれないわよ!」



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