第54話 難癖つけてくる試験官…?

冒険者ギルドに戻ってきたペキ達。


(フォギア達は、どうやらペキ達を街まで送り届けるところまで付き合ってくれただけのようで、街には入らず、また別の方向へと向かっていった。)


冒険者ギルドを訪れたペキ達は、ゴブリンの討伐証明を提出し、ヨサクルとマルのノルマも完了。いよいよ最後の試験を残すのみとなった。


それは、教官との模擬戦である。


教官は、ナージャという女性のギルド職員であった。職員ではあるが、現役の冒険者でもあり、ランクはCだそうだ。


(実は最初、元Bランクのゾノマという職員が対応する予定であったのだが、ゾノマは忙しそうだからと、ナージャが代わりにやると名乗り出たのだ。)


訓練場に移動し、ナージャがペキ達に最終試験の説明をする。


ナージャ「緊張する事はないわ、そもそもEランクへの昇格試験はそれほど厳しいものではないのだから。ここまでの課題をキチンとクリアしてきていれば、資格としては十分。最後の模擬戦はあくまで、最低限の確認というところね」


ナージャ「昔は模擬戦じゃなく面接だったんだけどね。でも試験官はだいたい冒険者上がりの職員だから、喋るのは苦手って人が多くてね。実際、私も、言葉より模擬戦のほうが相手の事が良く分かると思うし」


ナージャ「もっと昔は、面接すらもなしだったんだけどね。でも、課題さえクリアすればよいと言う事で、中にはまったく実力がないのに金の力とか権力を使ってランクを上げる者が出てきてしまって、確認が必要という事になったの」


ナージャ「もちろん、金の力だろうが課題をクリアさえすれば、ランクアップは認められるんだけどね。ただ、その場合はギルドカードに裏書きが加えられる事になったのよ。まぁ、ギルド職員以外見えないようになってるんだけど」


ナージャ「まぁ分不相応な依頼を受けて命を落とさないための予防措置ってことで。ギルドも冒険者が死なないように注意を払ってるという事だから。仮に裏書きを着けられたとしても、ケアされてると思うくらいでいいわよ」


ナージャ「ただし……たまに、強力なコネとか権力とかを使って試験さえも受けずに昇格する奴がいるのよね…。そういう奴こそ要注意だと私は思ってる。きちんと実力を確認していないから、フォローしきれないからね」


ナージャはジロリとペキとマツを見た。


ナージャ「ペキとマツと言ったわね? 私はあなた達の昇格は認めてない。ギルマスにどんなコネがあるのか知らないけど、試験なしで昇格を要求するとか、ロクな奴じゃないでしょ」


ペキ「別に要求した覚えはないのでござるが…」

マツ「むしろ昇級する事を頼まれた感じでしたよね」


ナージャ「はぁ? あんた達みたいなのに昇級して下さいなんて頼むわけないでしょ? 嘘もほどほどにしなさいよ」


ペキ「べ、別に、嘘はついてないでござるが…」


スナフ「そいつらにコネなどないっての。実績を見ての判断だ。俺の判断が気に入らんのか?」


ナージャ「マスタースナフ……!」


ギルドマスターのスナフスキンが訓練場にやってきた。


ナージャ「……私は、ギルドマスターの判断だけで無試験で昇格させる制度に納得してないだけです。そんな事が常態化すれば、金をもらって実力もない者を冒険者にしてしまうギルドマスターが出ないとも限らない……」


スナフがジロリとナージャを睨む。


ナージャ「…っまぁ、マスタースナフは判断を誤らないかも知れませんが……」


スナフ「ギルドマスターは誰でもがなれるわけじゃない。知識と実力と人格と実績、全てが揃って初めて任命されるんだ。あまり舐めるなよ?」


スナフ「…と言いたいところだが、ま実際、クソみたいなギルマスも居るからな。最近はよく他の街のギルドマスターの不祥事の噂が流れてくるから、言われても仕方ないか…」


ナージャ「…っだいたい、こうしてギルマスがEランク程度の試験にわざわざ出てくると言う時点でおかしいじゃないですか? まるで圧力じゃないですか…」


スナフ「別に、俺だってたまには見学してもいいだろう? まぁ俺も、ペキ達の事をこの目で確認しておきたいと思ってな」


ナージャ「それって…、もしかしてマスタースナフは、自分で見た事もない者のランクアップを許可したんですか?!」


スナフ「サブマスターのストークが見ているし、Bランクのフォギア達からも報告を受けている。俺は彼らの報告を信用している。お前は彼らの報告を信用できないと言うわけか?」


ナージャ「え…いえ、そういうわけでは…、ないですが」


スナフ「それとも、何か見られると困る事でもあるのか?」


ナージャ「別にないです。が、正直、やりにくいのは確かですね」


スナフ「気にするな、いつも通りやれ」


ナージャ「……私は忖度はしないですよ?」


スナフ「もちろんだ。いつも通り・・・・・やれ」


ナージャ「……分かってますよ? ゾノマがチクったんでしょ? 大方、私が厳し過ぎて合格者が減ってるとか言われたのでは?」


スナフ「まぁ、そんなような報告は入ってる」


ナージャ「…でも、そんなの当然です。甘くしても本人達のためになりませんから。分不相応なランクを認定され、無理な依頼を受けたら、死ぬのは本人達なんですから」


ナージャ「冒険者になって一週間も経っていない新人がいきなり試験無しで昇格するとか、危うすぎますよ。マスタースナフが見込んだのだからそれなりに実力ちからはあるのかも知れませんが、経験値が足りないでしょう。そういう【才能ある未熟者】が、調子に乗って早死するんですよ」


スナフ「まぁまぁ。こいつらだって、(試験なしで)いいって俺が言ってるのに、自分から、ちゃんと試験を受けさせてくれと言い出したんだぞ? 十分慎重だと思うが」


ナージャ「…へえ? でも、それもコネ昇級を誤魔化すためのポーズ・・・かも知れない」


スナフ「コネなんかねぇっての、疑り深いな」


ナージャ「何にせよ、試験をしっかりとやって見極めれば良い事です。それは悪い事ではないでしょう?」


スナフ「あーあーわかった好きにしろ」


ナージャはニヤリと笑った。


ペキ「またなんだか妙な雰囲気になってるでござるな」

マツ「なんか、目をつけられてるみたいですね…」



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