第53話 ナイレン「……」
ペキ「昇級試験の課題、最後はゴブリン討伐でござったな」
ピーナ「そうですねー。ヨサクルさんとマルさんはー、二人でゴブリン六匹の討伐証明(耳)を提出すればクリアでーす」
ペキ「ん? ヨサクル殿とマル殿だけでござるか?」
ピーナ「ペキさんとマツさんは、既に十分なゴブリン討伐の実績がありますので免除となりますのでー、ヨサクルさんとマルさんだけになりますー」
ペキ「では、拙者達も付き合うでござるよ。一緒に行くのは別に構わんのでござろう?」
ピーナ「そうですねー、討伐証明さえ提出されればクリアーなのでー、あまり大きな声では言えないですがー、お金持ちの方とか貴族の方とかはー、別の人が狩った証明部位を買ったりする人もあるんですけどー、それもおっけいとなってまーす」
マツ「…実力が伴っていなくても構わない? ああつまり、名誉ランクみたいなものですね?」
ピーナ「そうでーす。冒険者活動しないけれど、冒険者登録だけするという人も結構居るですー。そしてーFランクだと格好悪いのでEに上げておこー、という感じですねー」
マツ「なるほど…お金でランクを買う、という感じですね…」
ピーナ「まぁ、お金で買えるのはEランクまでですけどねー。Dからは、本当に実力がある人しか慣れませーん」
マツ「な、なるほど…」
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というわけで、再び森にやってきたペキ・マツ・ヨサクル、マルの四人。(+バリーさん)
しかし、肝心のゴブリンがなかなか見つからない。
マツ「もしかして、先日ゴブリンの集落を殲滅したばかりですから、(ゴブリンの)数が少なくなってしまっているのでは?」
ペキ「だとすると、見つけるのに苦労するかも知れませんな」
『いやぁ、大丈夫さ』
その時、森の中で声を掛けてきた冒険者達が居た。
ペキ「おや、フォギア殿」
フォギア「さっきゴブリンが居るのを見掛けたからな」
ウール「ほんと、あいつらの繁殖力は嫌になるわね」
バーム「一匹見つけたら三十匹は居ると思え、って言いますからね」
フォギア「お前達がランクアップ試験で森に入ってるって聞いてな、狩らずにおいた。案内してやるよ」
ペキ「それは助かるでござる」
その時、何故かナイレンが黙ってペキをじっと見ていた。
ペキ「……ナイレン殿? どうかしたでござるか?」
ナイレン「……」
だが結局、ナイレンは何も言わずに行ってしまった。
フォギア「こっちだ」
案内された先には十五匹ほどのゴブリンが居た。フォギア達【疾風】のメンバーが上手くゴブリンを誘導、分断してくれたので、1~2匹ずつを順番にヨサクルとマルが順番に相手をして、無事、討伐に成功。
残りは【疾風】のメンバーが素早く始末して終了となった。
ペキ「出番がなかったでござるな」
バリー「にゃぁ」
マツ「いいじゃないですか、その方が」
だが、また、ナイレンがペキをじっと見ていた。
フォギア「……どうした、ナイレン? もしかしてペキに惚れたか?」
ナイレン「……」
ウール「ついこの間までヨチヨチ歩きだったフォギアも、だんだんオヤジ臭い事言うようになったわよねぇ、早いもんだわ」
フォギア「う、うるせぇな、ついこの間って、20年以上前の話じゃねぇか」
(※ウールはハーフエルフなので寿命が長いのである。)
ナイレン「ペキ、ちょっと話がある」
ペキ「なんでござるか?」
ナイレン「……」
だが、ナイレンは答えず、黙って一人で行ってしまった。
仕方なくその後をペキが追う。
慌ててマツがペキを追う。
そしてマツの後をフォギア達が追う。
しばらく行ったところで、ナイレンが急に振り返り、ペキに尋ねた。
ナイレン「……ユクラを殺したの?」
ペキ「……え?」
ナイレン「ユクラとその仲間達、パーティ【毒蛇の牙】のメンバーが全員行方不明になってる」
ペキ「…そ、そのようでござるな…」
ナイレン「ペキがユクラ達を殺したって言ってた」
マツ「言ってた? 誰から聞いたのですか?」
少し遅れて来たマツが割り込んで答えた。
ナイレン「ナタリーが言ってた…」
ペキ「またあの受付嬢でござるか…」
マツ「元受付嬢ですね」
マツ「それで、ナイレンさんは、ユクラさんと、どういうご関係で?」
ナイレン「……ユクラは私の兄さん、私はユクラの妹……」
マツ「!」
ナイレン「……」
ペキ「ええっと、それは……」
ナイレン「殺したの?」
ペキ「……そうだと言ったらどうするでござる?」
マツ「もしかして、仇を討ちたい、とかですか?」
ナイレン「……」
ナイレン「ユクラは…兄は、ずっと真面目にやってた。そして、苦労して、長い時間掛かってやっとDランクになった」
ナイレン「私が子供の頃は、兄は、とても良い兄だった…」
フォギア「おいナイレン…?」
フォギア「まさか、仇討ちなんて馬鹿な事は考えるなよ?」
ナイレン「……」
ナイレン「でも、最近のユクラは、ロクでもない冒険者だった。そのうち誰かに殺されるだろうとは思ってた……」
ナイレン「兄は、苦労してDランクにまでなったけど、そこまでだった。
その後、私が冒険者になって……
兄のランクを超えてしまって……
それから、兄はおかしくなってしまった……」
ナイレン「私のせいだ……」
フォギア「それは違うぞ…」
ナイレン「とは思ってないけど…」
フォギア「なんだよ」
ナイレン「最近では、森で新人を殺して金品を奪うなんて事をしてるって噂まで流れてた…」
ペキ「……拙者達も、森でユクラ達に襲われたでござるよ。そして……」
ナイレン「……そして……?」
ペキ「…返り討ちにしたでござる…」
ナイレン「……そう……」
マツ「……あの? もしかして、やっぱり仇討ち、とか…?」
ペキ「拙者達にそれを確認した今、ナイレン殿はどうしたいでござるか?」
ナイレン「……分からない……」
ナイレン「でも、仇討ちは、考えてない……」
マツ(ほ)
ナイレン「今のところは…」
マツ(え?)
ナイレン「ただ、確認したかっただけ。生きてるのか死んでるのか分からなかったから…」
ペキ「……そうでござるか……」
一同「……」
マツ「え~、で、では、まぁ、そういう事で……」
マツ「そろそろ帰りましょうか?」
ナイレン「……ん……帰る……」
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