第51話 俺はお前を尊敬しているんだ
マルは治癒魔法も使えないし、金欠でポーションも持っていなかった。
マル「くそ、短剣なんか買わずにポーションを買っておけば……そうか、今日獲ってきたチキンスネークを売ればいいんだ! ヨサクル待ってろ、すぐポーションを買ってきてやるからな! それまで死ぬなよ!!」
だが、慌てて走り出そうとしたマルの前に立ち塞がる者が居た。
マル「サバル…!」
マル「どけよ! お前の悪ふざけに付き合って暇はねぇんだよ!」
サバル「これを使え」
マル「これは…」
サバルの手にあったのはポーションであった。
サバル「早くしろ、手遅れになるぞ」
一瞬だけ逡巡したものの、ヨサクルの命には変えられないと、マルはサバルからひったくるようにポーションを取り、血が流れるヨサクルの頭に掛けた。すると、シューシューと煙が出てヨサクルの頭の傷が治っていく。
…だが、ヨサクルは目を覚まさない。
それを見たマルは意を決して、ポーションの残りを口に含み、ヨサクルの顔を掴むと口移しで飲ませた。
サバル「マル…!」
すると、ヨサクルが咳き込み始めた。
それはそうであろう、意識のない者の口に無理やり薬を流し込めば気管に入ってしまうに決まってる。
だが、ポーションであるのだから、肺であろうと体内に入れば問題ないのだ。
ヨサクル「ごほっ…げほ……う…こほ…ん…?」
マル「ヨサクル! 気がついたか?」
ヨサクル「マル…?」
心配そうに覗き込むマルの顔が見えた。そして、直後、マルの後ろに立つサバルとも目があう。
ヨサクル「そうか、オラ、負けちまっただか…」
サバル「……いや、俺の負けだ。お前はFランクの新人なんだ。Dランクの俺が相打ちじゃぁ、負けたのと同じだろ…」
少し離れた場所でその様子を見ていたオーリとダワーが顔を見合わせ肩を竦めていた。
オーリ(やれやれ…)
ダワー(やっと素直になったか)
そんなサバル達をよそに、ギャラリーの冒険者達が騒ぎ始める。サバルが負けを認めた発言をしてしまったからである。
それを聞いたヨサクルに賭けた者が、賭けは自分達の勝ちだから金を払えと言い出したのである。
だが、後からサバルが考えを変えようとも、勝負はもう既に決した事。結果は引き分けだったとサバルに賭けた者達は主張する。
その議論には決着がつかず。金が絡む事もあって騒ぎは激しさを増していったが、騒ぎに気づいたギルドマスターに怒鳴られてやっと収束したのであった。
(結局、賭けの勝敗はうやむやになり、ギルドマスターの提案で、賭けた全員でその金で飲んで終わったらしい。)
+ + + +
サバル「その……なんだ……」
マル「一体なんだよ?」
翌朝、冒険者ギルドでの事。
昇級試験の続きでギルドにやってきたマル達を、サバル達が待ち受けており、話があるとマルを酒場のテーブルに引っ張っていったのだ。
マツ「一体何事でしょう?」
ペキ「揉め事でござるか? 手を貸すでござるよ」
サバル「あ、いや、イジメとかそういうんじゃないから…」
マル「だからなんだよ…」
ヨサクル「…もすかして、昨日の約束の事だべか?」
サバル「……ああ、それだ」
ペキ「一体何の話でござる?」
ヨサクル「じづわ…かくがくすがづかってぇわけで…」
ペキ「なんと! そんな事があったでござるか! 帰らずにまっていれば良かったでござるな、マツ殿!」
マツ「意外と野次馬ですね、ペキさん」
バリー「にゃあ…」
ペキ「いや! 拙者はただ、手を貸せる事があればと思っているだけでござるよ~ほんとでござるよ~」
サバル「おほん! それでだ……俺は約束は守る」
マツ「約束とは?」
ヨサクル「オラが勝っだら、今までのイジメについてマルに謝り、今後はイジメないと約束すたんだ」
マツ「それは、大事な事でござるな」
サバル「…俺ももうDランクだ。先輩冒険者として見本とならなければいけない。いつまでもガキ大将のままでどうするんだって、ギルマスにもずっと言われていたんだが……」
サバル「……なんか、今更急に態度を変えるきっかけがなくてな」
サバル「その…今までマルを虐めていたってのも、違うんだ」
マル「…っ、何が違うってんだよ! 何も違わねぇだろうが!」
サバル「いや…俺はお前を尊敬しているんだよ、マル」
マル「へ? 尊敬? さっぱり分からねぇ」
サバル「お前はどんなに虐められても決して折れない。そして向上心を持って努力し続ける。その姿勢は凄いと思っているんだ」
サバル「それと、幼い頃のイジメも、悪気があったわけじゃなかったんだ。初めてあった時、年下のお前が可愛くて、つい……。ただ、クソガキだった俺は、可愛がるにしてもやり方が分からなくてな…思わず誂って、いたずらしてしまったんだ」
ダワー「あ、れ、だよ! 好きな子の前で素直になれず、イジメてしまうってやつ!」
オーリ「そうだよなー」
サバル「余計な事言うなよ!」
サバル「……まぁ、そうなんだけどな……」
マル「好きって……」
赤くなるマル。
サバル「ただ、あの時の時の事は……済まなかった。ずっと謝りたかったんだ」
サバル「軽いいたずらのつもりだったんだよ…」
マル「もしかして……蛇?」
サバル「そうだ……あんな大事になるなんて思わなくてな……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます