第50話 樵 vs 剣士

ヨサクルがサバルに向かって斧を振るう。


その迫力には思わずサバルも思わずビビる。それはそうであろう、プロの樵が木を切り倒す勢いの斧を人に向かって振るっているのである。


だが、サバルが咄嗟にステップバックしたため、ヨサクルの斧は空を切ってしまった。


サバル「……ふ。やはり樵は樵だな? 動かない木を相手にするのは得意なんだろうが? 俺は動かねぇ立木じゃねぇっての!」


ヨサクルが斧で斬り掛かってはサバルが躱す。それが何度か繰り返された。最初は少し焦ったサバルであったが、だんだんと動作の大きい斧のスイングに慣れてきて余裕を取り戻してしまう。


サバル「なんだそれは? 扇いでいるのか?」


ヨサクル「この…逃げ回るでねぇ」


だが、剣の腕はそこそこ確かなサバルである。斧をやり過ごし、態勢が崩れたところに反撃するのは難しい事ではなかった。


再び、ヨサクルが削られ始める。


空振りしては傷ついていくヨサクル。


あえてトドメを刺さずに甚振り続けるサバル。


サバル「随分タフだな、それは認めよう。だが、そろそろ終わりにしよう」


サバルがいよいよトドメを刺すために本気の打ち込みをしようとした、その時―――


――その時をヨサクルは待っていたのだ。


サバルは気づいていなかった。最初は大振りであったヨサクルのスイングが、徐々に力を抜いてポーズだけの大振りになっていた事を。


サバルが防御に徹して逃げ回れば、ヨサクルがいくら攻撃しても全て往なされてしまう、それはヨサクルも分かっていたのだ。


だが、小手先の攻撃ではなく、サバルが本気で打ち込んできた時ならば、ヨサクルの攻撃も当たるはず。その瞬間ときをヨサクルはじっと待っていたのだ。


そしてその機会ときをヨサクルはついに捉えた。


渾身の一撃をサバルに打ち込むヨクサル。


ヨサクルの斧撃はサバルの胴に吸い込まれていった。樵の本気の斧撃の威力は、皮の防具ごしにサバルの肋骨をへし折った。


サバルは吹き飛ばされて転がり、動かなくなった。


だが、防御を考えない捨て身の攻撃であったヨサクルもまた、サバルの打ち込みを頭に受け、倒れてしまっていた。


ヨクサルはサバルの剣が当たるより先に自分の斧を当ててしまえばいいと考えていたが、そう甘くはなかった。サバルの本気の攻撃はヨクサルの予想より鋭かったのだ。


双方倒れて動かなくなってしまったので、審判役の冒険者が試合を止めた。


ノリグ「そこまで!」


『おいおい、勝負はどうなったんだ?』


ノリグ「これは……双方動けない、と言う事は、引き分け、かな?」


『まじかよ』

『賭けはどうなるんだよ?!』

『無効か?』

『新人とDランクなんだから、引き分けなら新人の勝ちでいいじゃねぇか』

『俺はサバルに賭けたんだ、そんなの認めねぇぞ』

『引き分けならさっさと返せ』


賭け金について揉めるギャラリーをよそに、ヨサクルに駆け寄るマル。サバルのところにも仲間のオーリとダワーが近づいて行き、つんつんしたあと、動かないのでしょうがないとばかりに回復薬ポーションを飲ませてやっていた。


オーリ「おいおい、なにやってんだよサバル? 手抜きすぎて足を掬われてりゃ世話ねぇぜ?」


サバル「…っ。うるせぇ……くそ」


ヨサクルの最後の一撃で砕かれた肋骨も、ポーションのお陰ですぐに治り、サバルは起き上がった。


ダワー「まぁ、あの新人の方を褒めてやるべきかな。サバルが手を抜いてたにしても、サバルの攻撃を凌いで耐えてたんだからな」


一方のヨサクルとマルは……


マル「ヨサクル! 大丈夫か? しっかりしろ!」


だが、ヨサクルは目を覚まさない。


サバルの最後の一撃はヨサクルの頭を捉えており、かなりのダメージを与えてしまっていたのだ。


だが、マルには治癒魔法も使えない。マルは金欠でポーションも持っていなかった。


マル「くそ、どうしたら…」



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