第47話 異国の刀
ギルドで薬草の納品を済ませ、その足でラダンの武器屋へと向かったペキ、マツ、ヨサクルとマルの四人(とバリーさん)。
ラダンの武器屋は冒険者ギルドの隣なので徒歩数歩で着くが、店に入るなり、いきなりラダンの声が掛かった。
ラダン「おう、ペキ! ちょうど良かった! お前に渡したいものがあったんだよ」
ペキ「?」
ラダン「実はな、お前に売った剣…そう、その剣だ。それの、説明書きらしいものが出てきたんだよ」
ペキ「ほう」
ラダン「ただな、異国の文字で書いてあって、俺には読めねぇんだよ」
ペキ「読めないのでは意味がないでござるな…」
ラダン「一部、翻訳しかけていた部分があってな。っても剣の銘、つまり名前だけだが…どうやらその剣の名前は【オニギリマル】というらしいぞ」
ラダン「オニってのは
ラダン「おそらく、
だが、説明書きを受け取ったペキは目を見開いた。
ペキ「…これは! マツ殿!」
マツ「どうしたんです? 何が書いてあったんですか?」
ペキ「まぁ見るでござる」
マツ「おおおお」
なんとその説明書きは日本語で書いてあったのだ。
ラダン「ん? もしかして読めるのか!?」
ペキ「拙者とマツ殿の故郷の言葉で書いてあるでござるよ」
ラダン「ほぉ! それで? 何が書いてあるんだ?」
ペキ「剣が打たれた経緯、由来のようなものが書いてあるでござる。拙者たちの故郷の食べ物でおにぎりというのがあるのでござるが、行き倒れかけていたドワーフをおにぎりを与えて助けたとあるでござる」
ペキ「そのドワーフはとても感激して、お礼にこの剣を打ってくれたと。それにちなんで銘を“おにぎり丸”としたようでござるな。【鬼切丸】と漢字でも書いてあるでござるが、当て字でござろう」
マツ「つまり、そのおにぎりをドワーフに与えたのが、我々と同郷人(つまり日本からの転生者)という事ですかね?」
ペキ「その可能性は高いでござるな」
ラダン「てぇことは、その剣の名前は食べ物の名前ってことか?」
ペキ「それから、これは試作品のようでござるな。完成品はおにぎりを提供した剣士の手に渡ったようでござる」
ペキ「何々……鞘にも細工があったような事は書いてあるでござるが、どうやらオリジナルの鞘は、売られる時には別のモノに変えられていたようでござるな」
ラダン「試作品? てことは何か欠陥でもあるのか?」
ペキ「さぁ? 完成品がどのようなモノであったかは書いてないので、分からんでござるが…」
ペキ「ただ、完成品がどのような剣であったか、推測はできるでござる。実はこの剣、魔力を込めると切れ味が良くなるのでござる」
ラダン「そんなギミックが…」
ペキ「ただし、際限なく魔力を吸ってしまうので、魔力量が少ない人間が使おうとすると、剣を一振りしようとするだけで、魔力切れを起こすのでござるよ。おそらく拙者以外に使えないでござるな」
ラダン「へぇ? ちょっと試してみていいか? 実は俺も魔力量にはちょっと自信があるんだ」
剣を受け取ったラダンは、裏庭に行って試し切り用の巻藁に向かう。
ペキ「魔力を込めながら斬るのでござる」
ラダン「へぇ、どれ…」
言われた通り魔力を込めながら振り下ろそうとしたラダンだったが、振り上げたところで一瞬気が遠くなり、振り上げた剣をそのままあらぬところに振り下ろして膝をついてしまった。
ラダン「ああ…なるほど、これは……あぶねぇな」
ラダン「てか、お前は使えるのかコレ?」
ペキ「拙者は魔力が人より多いようで、特に問題はないでござる」
ペキは剣を手にとると、無造作に巻藁を斬って見せた。ペキがこの剣を使えば岩をも簡単に両断できる切れ味となるのだから、巻藁ごときは何の抵抗もなく切れる。ペキはそのまま、まるで包丁でキャベツをみじん切りするように、巻藁を細かく切ってみせた。
ラダン「あ~分かったから。庭を汚すんじゃねぇよ…」
ペキ「推測でござるが、完成品は、魔力を吸われた使用者が倒れてしまうような事がないように、制限が掛けられているのでは?」
ペキ「この剣は試作品なので、その辺の配慮がない、アンバランスな実験的設計にしたのでござろう」
ペキ「逆に言えば、この剣は、魔力をどれだけでも吸ってしまえるので、魔力さえあれば切れないモノはないぶっ壊れ性能の剣になるでござる」
ラダン「そうかも知れんが……」
ラダン「こう見えて俺は、ドワーフの中でも魔力が多い方なんだよ。それでもフラッとしたくらいだ、おそらく、魔力が少ない人間では、扱える奴はそうは居ないだろうなぁ…? お前以外は、か。お前、さては人間じゃないな?」
ペキ「拙者は普通の人間でござるよ」
ラダン「ははっ冗談だよ。で、今日は何の用だ? 新しい武器が欲しいのか?」
ペキ「ああ、それなのでござるが……先日、ご子息にお返しした対蛇用の剣があったでござろう? あれを、こちらのマル殿に売ってもらえないかと」
ラダン「ん? お前、ワンさんとこのマルじゃねぇか」
マル「…ども…」
ペキ「ちょっと訳あって、マル殿は蛇が苦手らしいのでござる。そこで、対蛇に特効のある武器を持てば、少しは安心できるのではないかと思うのでござる」
ラダン「なるほど…。だがあれは
シダン「別にいいよ?」
ラダン「おう、戻ったか」
ペキ「売って下さるでござるか? 売るのがダメならしばらく貸し出しという形でも…」
シダン「いいよ、売ってやるよ」
ラダン「おまえ…いいのか?」
シダン「ああ、言ったろ? もう冒険者は辞めた。俺は本気で鍛冶師になるって決めたんだ。装備を手放すのはその決意の証だよ」
ラダン「そうか……そうか……」
息子が後を継いでくれると聞いて、感激しているラダンであった。
シダン「まぁ親父程度の腕はすぐに追い越してやんよ」
ラダン「…っ、ばっかやろう、百年早ぇわ!!」
マル「そっ、それで、いくらで売ってくれるんだ?」
ラダン「ああ、そうだな、買った時の値段が金貨150枚だったから、中古って事で金貨50枚……いや、特別サービスで30枚でいいぞ」
マル「たっか! 駆け出しの冒険者にそんなの買えるわけねぇだろ!」
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