第45話 森の奥

マツ「そう言えばペキさん、今までとは違った空間魔法の使い方ができるようになったようですが、レベルが上がって使える魔法が増えた感じですか?」


ペキ「レベルは上がっていないでござる。それよりも知らなかった使い方を発見したという感じ…でござる」


マツ「なるほど…」


ペキ「バリー殿も新しい魔法の使い方をいくつか覚えたようでござるし。色々な依頼を受けた甲斐があったでござるな」


マル(くっそ~俺だって、今に見ていろよ~)


マツ「とりあえず、1つ目の課題はクリアということでよろしいですよね?」


ピーナ「はい! 短期間でこれだけこなすとは、さすがですね~」


マル「いいのかよ……?」


ピーナ「?」


マル「ほぼ全部、そこのペキと他の連中がやったことで、俺はほとんど何もしてねぇんだけど……」


ピーナ「今回は共同で依頼をこなす条件でしたので問題ないです~よかったですね~」


マル「よくねぇよ、くそっ…」


ピーナ「どうしても納得がいかない、自分の実力をちゃんと見せたいと言うなら~、マルさんだけ改めて三件受けますか? 一人だけで?」


マル「…え? それは…」


ピーナ「まぁその場合~、今は塩漬け依頼がもうありませんので、しばらく待ってもらう事になりますけど~」


マル「じ、じゃぁ、しょうがねぇじゃねぇか。今回は納得しといてやるよ」


マツ「まぁまたそのうち、マルさんの力が活かせる機会もそのうちありますよ」

マツ「次は、薬草採集でしたよね?」


ピーナ「はい~今度は街から出て森での作業になります~」

ピーナ「こちらに初心者向けの薬草採集のサンプルブックがありますので~それを見ながら薬草を見つけて来て下さい~」


渡されたのは手書きで葉の形と簡単な説明が書いてある冊子であった。


ピーナ「後で返却して下さいね~失くすと弁償してもらいますので~」


ペキ「……なんか、みんな同じに見えるでござるが……」

マツ「そうですねぇ、写真もないし、説明も少なくて、これでは分からないのでは……」


ピーナ「すみませ~ん、最初は絵の上手い方が詳細に描いて下さってたのですけど~。ある時、貸出中に失くされてしまいまして~。たまたま手書きで写したものが残っていたので、それをもとに、また何度も書き写されていって~。何世代も経つうちに~今みたいになってしまったんです~」


マル「だめじゃん!」


ピーナ「先輩の冒険者に教えてもらったほうが速いってみなさんおっしゃいます~」


マツ「それでは、誰か先輩について教えてもらう必要がありますね。どなたか紹介して頂けますか?」


ピーナ「それでは詳しい人を紹介―」


ペキ「いや、大丈夫でござるよきっと」


ピーナ「?」


ペキ「マル殿が居るでござる。マル殿はこの街の出身で、森の事も薬草の事も良く知っていると言っていたでござる…」


マル「え…?」


全員の視線を浴びてキョドるマル。


マル「ああ、まぁ、な」


ペキ「マル殿は街の依頼であまり活躍できなかった事を気にしていたでござるから、今度はマル殿に活躍してもらうでござるよ」

マツ「なるほど! 早速、力を発揮できる機会がやってきましたね!」


マル「ああ? ああ…ま、まぁ、任せておけよ……」


ピーナ「以前より魔物が活発化しているようですので~森はあまり深く入らないで下さいね~」


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――――――――


■森の中


マツ「なかなかみつからないですねぇ~」


マル「し、しょうがねぇだろ。今は時期があまり良くないんだよ」


ペキ「薬草採集にも、当然旬な時期があるのでござるね? それは異世界ファンタジーではあまり聞かない設定でござる」


マル「イセカイ? ファンた…?」


ペキ「なんでもないでござるよ、こっちの話でござる」


そこに、一人で先に行っていたヨサクルが手に草を持って戻ってきた。


ヨサクル「これは違うだべか?」


マル「ちげぇよ、それは薬草もどき。形は似てるがただの雑草だ」

マル「てかヨサクル! 一人で先に行くなよ、なるべく一緒に行動しろって言われてただろ」


ヨサクル「ああそんだな、すまね」


ペキ「ヨサクル殿は家業が樵であったから、森の中を歩き慣れているでござるな?」


ヨサクル「んだなす。一応斧も持ってきたでよ、なんなら二~三本、切り倒してみせよか?」


マル「いらねぇよ! 今必要なのは薬草で、木材じゃねぇっつーの」


ペキ「しかし、見つからないとなると、困るでござるな」


マル「…しょうがねぇ。秘密の場所を教えてやるよ」


マツ「薬草が生えている場所をしっているんですか?」


マル「ああ、そこなら多分、一年中薬草が生えてる。ホントは教えたくなかったんだけどな」

マル「ただ、問題がひとつある…」


ペキ「なんでござる?」


マル「その場所は、ここよりかなり森の奥になるんだよ」


マツ「ああ、あまり奥には行くなと言われていましたね」

マツ「でもまぁ大丈夫じゃないですか? ペキさんも居るし」


ペキ「バリー殿もいるでござる」


マル「その猫が居るからなんだってんだよ…」


ペキ「バリー殿は人間よりはるかに目も耳も鼻も良いでござる。魔物が居てもすぐ発見してくれるでござるよ」

バリー「にゃ!」


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マルの案内で、森の奥の沢にやってきたペキ達。


少し上流に遡ると小さな滝があり、その周辺に薬草がたくさん生えていた。


ペキ「ほぉ、全部薬草でござるか?」

マル「おおよ、すげぇだろ? いいか、他の連中には秘密だぞ! 喋んじゃねぇぞ?」

ペキ「分かったでござる」


マツ「なるほど…これが薬草ですか。近くで見ると葉の形が、先程のモドキとは微妙に違いますな」


マル「ああそんな採り方じゃだめだ、ちゃんと根本をもって、根も一緒に引き抜くんだよ。根のほうにも薬効成分があるんだ」


マル「ああ、全部とるんじゃねぇぞ? 薬草をみつけても、何本かは残しておくんだ。根こそぎ取ってしまうと次から採れなくなっちまうからな」


ペキ「薬草採集のお約束でござるな」


ペキ「おや、マル殿、足元の…蔦? が動いたような。うむ、蛇でござるな」


マル「ひぃぃぃ!」



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