第44話 空間魔法は街中で大活躍

冒険者ギルドが指定した塩漬け依頼はちょうどノルマと同数の十二件。つまり選り好みはできない。


子供でもできるような依頼は働く子供達のために残すため、塩漬け依頼は子供では受けられない内容のものとなる。それは、汚れ仕事というより、危険度の高い仕事や力仕事が多かった。


例えば、簡単に登れないような場所にある屋根や外壁の修理。子供でもできなくはないが、危険なのでできれば大人がやったほうがよいということであった。


これにはペキの短距離転移が役に立った。本来なら外部に大規模な足場を建てなければ登れないような場所でも、近くまで行けば瞬時に転移で登れてしまうからである。また、万が一落下してもすぐに転移で地上近くに移動すればダメージは少ない。(実際ペキは一度落ちたが、すぐに地上に転移して着地に成功していた。)


次は、廃屋の解体作業。周囲に何もなければ攻撃魔法でもぶつけて終了であるが、物件は密集した住宅街の間の建物で、慎重に破壊しないと隣接する家屋に被害が出てしまうという状況であった。


これはペキが家をまるごと収納してあっさり終了。


溜め池プールの構築。乾季に使う農業用水を溜めておきたいそうだ。これは地面をひたすら掘ればよいという力仕事であるが、緊急性が低いためなかなか引き受け手がいなかったそうだ。


これも、ペキが地面の土を指定した範囲で収納してしまう事で、瞬時に解決した。


道路整備。池を作る際に収納した土を凹んだ場所に出し、別途収納した大きな石をその上空に出して落としては再び収納する事を繰り返して圧を掛けた。


※岩を部分的に収納する事で底面が平らになるようにカットできることが分かった。その岩を最終的にはタイル状にカットして上に敷いて終了。


空き地を農地にするため耕す仕事。ペキは土を深さ50センチほど収納し、少し上に出して落として見たのだが、堅く固まってしまった土は割れはするものの、ペキがイメージしたようなフカフカの土には程遠い状態であった。


そこで、バリーさんの風魔法で撹拌してもらう事にした。ペキの空間魔法で見えない壁を作り出せる事が分かったので、その壁で畑の範囲をすっぽりと壁で塞ぎ、その内側にバリーさんの風魔法で渦巻状の突風を起こしてもらう。そこに収納した土を投入し、さらにウィンドカッターを何個か混ぜてもらう事で巨大ミキサーのように土を粉々することができた。


井戸掘り。途中まで井戸を掘ったが巨大な岩板に当たってしまって頓挫していた場所があった。岩の下には確かに水源がある、らしい。その岩を割ってほしいという、どこかで聞いたような話であった。高ランクの冒険者は今はいないので、塩漬けになっているらしい。


ペキはその岩の内部を筒状に収納して穴を開ける事で、その下にある水源に到達成功。


地下水道の魔物退治。開けてみれば、魔物ではなくワニのような爬虫類が住み着いてしまっていたのを駆除。(普通に全員で戦って駆除した。)


街の食堂の新メニュー考案。色々な食材に小麦粉をつけて油で揚げる料理を考案して完了。つまり天ぷらである。後のこの街の名物料理となる。


家の改築の依頼。壁の一部に穴を開け、隣の部屋と行き来できるようにしてほしい言う依頼である。街の大工を頼むと人手不足で半年待ちになるという事で、とりあえず壁を壊して穴を開けてくれればいいという事で、壊すのが得意そうな冒険者ギルドに依頼したらしい。


これはペキの収納魔法で壁を四角く切り取り、そこにヨサクルが出来合いの扉を取り付けて終了。(ヨサクルは実家の生業が樵だと言っていたが、木材を使った大工仕事など得意であった。)


トレント退治。街の中の植樹が一本、魔物化しつつあるそうで、その退治。それほど多くはないが、たまにある事らしい。はっきりとは分かっていないが、人の恨み憎しみや攻撃的な思いが出やすい(溜まりやすい)場所にある生物や植物が、その負のエネルギーを吸って魔物化するという説があるそうだ。


ここではヨサクルが斧を使ってあっさり討伐完了。もともと樵職のクラス職能を持っていたヨサクルは、斧を持つと木属性の魔物にプラス補正が働くのだ。


ねずみの除去。食料倉庫などにねずみがどうしても蔓延るそうで、定期的に駆除しているのだが、なかなか根絶はできないらしい。


全員で倉庫内を奔走し、できる限り駆除したが、ここではバリーさん大活躍であった。


地下墓地のアンデッド退治。全員で普通に戦って駆除したが、これはかなり苦戦した。光属性(聖属性)の魔法を使える者が居ればそれほど苦労しなかったのだが、今回のメンバーには居なかったからである。(そもそも優秀な聖属性魔法の使い手は教会にスカウトされ聖職者になる事が多いので、冒険者にはあまり居ないのであるが。)


とは言え、普通に攻撃して退治する事も可能なので、冒険者でも対応は可能なのであった。


結局、十二件という依頼は一週間という驚異的なスポピードで達成できた。


だが…


マル「俺…ほとんど役に立ってなかったな…」


ペキ「そんな事ないでござるよ? 拙者達はこの街の事をよく知らないでござるから。この街で生まれ育ったマル殿が居てくれてとても助かったでござる」


マル「つまり、道案内以外役に立ってねぇって事じゃねぇかよ。だいたいなんだ、お前の収納魔法は? ちょっとおかしいだろ。池を作りたいって言われたら地面に巨大な穴を一瞬で掘っちまうし」


マル「それに、収納魔法はまだ聞いた事あるけど、転移魔法ってなんだ? 空間魔法? 万能過ぎないか?」


ペキ「役に立つでござろう? 万能とまでは言えないでござるがな…」


ペキ「ヨサクル殿は大活躍でござったな。実家は樵だったそうでござるが、家具の修理や大工仕事まで得意とは、助かったでござる」


ヨサクル「いんやぁ、ペキどんの空間魔法? の活躍に比べだら全然……」


マル「あーあーどうせ俺は不器用です。大工仕事でも役立たずでしたよすみませんねぇ」


ペキ「役立たずどころか、何度か失敗してヨサクル殿の足をひっぱっていたでござるな」


マツ「いやマル殿は新メニュー考案の時は役立ってくれたじゃないですか……味見役で」


マル「そんなの役にたったって言えるかよっ!」


マツ「まぁまぁ、次の課題こそ、マルさんの出番ですよ」


そう、次は森での薬草採集である。子供の頃からこの街に住んでいたマルは森にも詳しいはず…なのだが……?



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