第41話 ランクアップ?

マル「うるせぇな! 一日でも早く登録したら先輩だろ?!」


酒場の冒険者「はいはい、マルちゃんは、先輩ぶりたい年頃なんだね~~」


マル「このっ! ブッコロス!」


酒場の冒険者「できるもんならやってみな~。チキンスネークにビビって逃げ出したような奴にできるならな!」


マル「おまっ、それ言うな! あれは初めてだったからちょっと驚いただけだっつーの! 今は負けねぇ」


酒場の冒険者「チキンスネークなんざ、意気込まんでも子供でも勝てる相手だつーの」


ペキ「チキンスネーク? 見たことないでござるな。どんな魔物でござる?」


マル「赤いトサカのついた蛇の魔物だ。すばしこくて獰猛なんだ」


酒場の冒険者「臆病なちっこい蛇だよ。魔物って言っていいのか疑問なくらい弱くて、街の子供ガキ共が小遣い稼ぎに捕まえたりしてる奴だぜ? こいつマルはガキの頃、捕まえようとして噛まれて以来、苦手になっちまったんだよなーーー?」

マル「あーあーあーうるせーうるせーーー黙ってろーよーーー!」


マル「おいお前!」


ペキ「拙者はペキでござる」

マツ「マツです。これはバリーさん」

バリー「にゃっ!」


マル「ペキとマツか。それとバリーさん? お前達、チキンスネークすら見たことないってことは、森に入ったことないのか? ど素人だな?」


ペキ「森に入ったのは昨日で三度目でござる」

マツ「いや、四度目じゃないですか?」

ペキ「一度目は登録前でござったから、冒険者になってからは三度でござるよ」

マツ「ああ、なるほど…」

ペキ「拙者達は登録して一週間経っていないので……まだまだ知らない事も多い新人でござる。マル殿は、二週間前登録なら、確かに先輩でござる。それに、子供の頃から森に入っていたようでござるし、色々教えてほしいでござる」


マル「お? おお…。おまえ、分かってんじゃねぇか!」


酒場の冒険者「教わるならもっとちゃんとした先輩に教わったほうがいいぞー」


マル「黙ってろっつってんだろ!」


ペキ「あの冒険者とは、随分仲が良いでござるね?」


マル「よくなんかねぇよ! アイツは子供の頃から悪ガキで、さんざん虐められたんだ。ったく、少し先に、少しデカく生まれたからってずっと馬鹿にしやがって…! 今に見てろ! アイツより上級の冒険者になって見返してやるんだ!」


ペキ「それは…頑張れ…でござる」


受付嬢ピーナ「あ、こんなところに居た~! 探しました~」


ペキ「ピーナ殿?」


ピーナ「ペキさん、マツさん、ギルドマスターがお呼びで~す」


ペキ「なんでござるか? 拙者達、これから出かけるでござるが」


ピーナ「ん~と、これは言っていいのかな~? なんか、昇級させてもらえるらしいですよ~、おめでとうございます」


マル「ちょ! なんで俺より後に冒険者になった奴が先に昇級するんだよ! おかしいじゃねぇか!!」


ピーナ「ええっと、詳しくは言えない事になっているので~。疑問はギルドマスターに直接訊いてみて下さい~」


マル「ギ、ギルマス? …あんなおっかなそうなオッサン、もとい偉い人、に俺なんかが、訊けるわけないだろ…」


ペキ「ギルマスは、ただのファンキーなハゲマッチョでござるよ?」


マル「ハゲマッチョってお前怖いもの知らずだな…」

マル「…ってもしかしてお前達、ギルマスと知り合いなのか? そうか、さては依怙贔屓だな? 知り合いだからって実力もないのに昇級させるとか、ギルマスも見損なったぜ」


ピーナ「口止めされているので詳しくは言えませんが~、依怙贔屓とかではありませんよ~。ペキさん達は実力を示して実績を積んだ結果です~」


ピーナ「マルさんも~早く実績を積んで~昇級を目指しましょ~ね~。あれから森には行ったんですか~?」


マル「…っ、何度も行ったよ! (入口だけだけど…)」


ピーナ「そうですか~良かったです~。頑張って下さいね~」


マル「…くそ…」




  * * * *




スナフ「というわけで、お前達を昇級させる事にした」


ペキ「いきなり“というわけで”と言われても、どういうわけか分からんでござるよ?」


スナフ「そこは、説明が終わったんだなと想像を働かせるんだよ」


ペキ「ちょと何言ってるのか分からんでござる」


ストーク「お前達の実力はよく分かった。実力がある奴らをFランクのままにしておくと、勘違いして絡む馬鹿な先輩共が多いんだよ。ユクラに絡まれたろ? …フォギア達も」


ペキ「フォギア殿に絡まれた覚えはないでござるが…」


ストーク「フォギアにはお前達の面倒を見ろって言ってあったのに、放置して行ったそうじゃないか?」


ペキ「それは…まぁ…。でもそれは、拙者達を信用してくれていたのでござろう?」


スナフ「まぁそれもあるんだろうがな。とにかく、昇格させる事に決まった。Cランク、と言いたいところだが、さすがに飛び級が過ぎると不自然で目立つからな。とりあえずは1ランクアップでEランクだ」

スナフ「その後、少し間を置いてから、また昇級させてやる」


ペキ「不自然? 登録してまだ五日目、森に三回行っただけの者を昇格させてしまうのも十分不自然ではござらんか?」


スナフ「お前が言ってたんじゃないか、目立って【勇者】に巻き込まれたくない、ってな。お前達の実力で、Fランクのままでいるほうが目立つと思うぞ?」


ペキ「ああなるほど、配慮してくれているのでござるな。了解したでござる」


スナフ「EランクやDランクくらいまでなら目立たんさ」


ペキ「ただ…」


スナフ「なんだ?」


ペキ「普通は、昇級には試験があるものではござらんか?」


ストーク「Eまでなら実績だけでギルマスが決定できるんだよ」


ペキ「実績も、拙者達にはないでござるが」


ストーク「ダビルヴァイパーにゴブリンキングの討伐。実績としては十分だろ」


スナフ「ただし、ダビルヴァイパーについてはもうどうしようもないが、ゴブリンキングについては、お前達ではなくフォギア達が討伐した事にする。もちろん、報酬は全てお前達のモノだし、ギルドの内部的にはちゃんと評価してやるから心配するな」


ペキ「なるほど、配慮、いたみいるでござる」


だが、話はそう簡単に行かなかった。


執務室で新しいギルドカードを受け取って出てきたところ、マルに絡まれたのである。


マル「おい! どうなった?! 昇級したのか?!」



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