第37話 ペキ、お前、さては……

戦い終わって。


ペキの戦いを呆然と見ていた【疾風】の四人が我にかえり、ペキに近づいてきて興奮気味に話しかけてきた。


ウール「助かったわ! ペキ君、凄いわね! あなたは火属性の魔法が使えるのね?」


ペキ「いや、拙者、魔法は空間属性しか使えないでござる」


ウール「だってさっき、ファイアーボールを放ってたじゃない? しかもすごい数! 一度にあんな数、並の魔法使いでは無理よ」


ペキ「あれは拙者の魔法ではござらんよ。ゴブリン達が打ってきた火球を【収納】しておいたものを出しただけでござる」


フォギア「収納魔法…だと? ふざけるなよ、収納魔法ってのは、せいぜい巾着の容量を少し拡張するくらいしかできないはずだろ! 魔法を収納なんて聞いたことないぞ?」


ペキ「そう言われても……拙者の収納魔法ではできてしまった・・・・・・・のだから仕方がないでござる」


ナイレン「……さっき、ゴブリンキングの棍棒を収納してた……」


ペキ「おやナイレン殿の声は初めて聞いたでござるな」


(※初対面の時に名乗っているので正確には二度目である。)


ペキ「確かに、棍棒も収納したでござる。ほれ」


再び棍棒を出して見せるペキ。


バーム「凄い…こんな大きなモノを収納できる【収納魔法】なんて聞いたことない…」


ペキ「普通はできないでござるか?」


フォギア「収納魔法を使える人間はたまに居るが、せいぜいバッグ3~4個分くらいというところだ」

フォギア「それでも十分便利だけどな」


ウール「中にはバッグ10個分くらい収納できる者も居るって。ただ、収納魔法が使える人間は、商業か運送業に行ってしまうので、冒険者にはあまり多くないのよね」

ウール「まさか、収納魔法を使って戦うとか、誰も考えなかったからね。…ってそう言えばさっき、ゴブリンキングに毒攻撃をしていたように見えたけど……あれも?」


ペキ「先日、ダビル・ヴァイパーと戦った際に毒を吐きかけられたので、それを収納しておいたものを出したのでござる」


ウール「ど…毒も収納できちゃうのね……どんだけ~~~」


フォギア「いや、収納魔法……ってのも凄い、というかまだ信じられんが、それよりも! ゴブリンキングを真っ二つに両断しちまっただろう? あんな事、よほどの剣の達人でなければできない事だぞ?! お前は剣士なのか?」


ペキ「道具が良かっただけでござるよ、剣はあまり使ったことないでござる。街でたまたま良い剣を手に入れたのでござる」


ペキは腰の刀を抜いてみせた。


フォギア「あまり見ない形の剣だな?」


ペキ「刀というでござる。しかも、ただの刀ではござらん、魔力を込めると切れ味が増すのでござる」


ウール「なるほど、それであの強靭なゴブリンキングの皮膚も切り裂くことができたのね」


フォギア「なぁ、それ、ちょっと使ってみてもいいか?」


ペキ「どうぞ?」

ペキ「魔力を込めながら斬るでござる」


刀を受け取ると、フォギアはゴブリンキングの死体に近づき、その太い足に向かって魔力を込めながら刀を振り下ろしてみた。


だが、刀はゴブリンの皮膚を斬り裂き足に数センチほど食い込んだものの、そこで止まってしまった。


そして立ちくらみのようにフラッと気が遠くなって膝をついてしまうフォギア。


フォギア「なんだこりゃ……魔力を殆ど持ってかれたぞ……並の魔力量じゃ使えねぇんじゃねぇかこれ……?」


ウール「どれどれ?! アタシにもやらせて!」


フォギアから刀を奪い、魔力を思い切り込めてゴブリンの足に斬りつけようとしたウールだったが、刀を振り上げたところでフッと白目を向いて後ろに倒れてしまった。


ウール「……あ~一瞬気が遠くなったわ……。これ、際限なく魔力を吸うわね。普通の人間じゃあ使えないと思う。あなた、どんだけ魔力量があるの?」


ペキ「ギルドで測った時、5000を越えていると言われたでござるが…」


ウール「……!」

フォギア「ご…せん……だと???」


ペキ「一般的な基準が分からないので、これが多いのかどうか分からんでござるが」


フォギア「ばっ…! 多いなんてもんじゃねぇだろ!」


ペキ「ちなみにフォギア殿達はどれくらいでござるか…?」


フォギア「……聞くな…」

ウール「フォギアは35だっけ? アタシは65くらいかな?」

フォギア「おま、言うなよ」


ウール「王宮の筆頭魔道士が、確か200超えてるって聞いたわよ?」


ペキ「200…でござるか。なるほど、5000はこの世界の基準では十分多いのでござるな?」


マツ「空間魔法を使うために多めにしてくれるとか、オサムサンが言ってませんでしたか?」


ペキ「多分そうでござる。オサムサンに感謝でござるな」


フォギア「オサムサン? って誰だ?」


ペキ「ああ、いや、こっちの事でござる」


フォギア「なんだか色々と秘密がありそうだな…」


フォギア「そう言えば、あのゴブリンキングを翻弄した高速移動…【縮地】っていうのか? あれは、その膨大な魔力を使って脚力を強化してるんだな?」


ペキ「縮地…がどんなものかいまいち原理が分からんでござるが、あれは【転移魔法】でござるよ。まだ短距離しかできないでござるが」


ウール「……」


ペキ「空間属性魔法と言えば1に収納、2に転移でござる」


フォギア「……」


ペキ「まぁ拙者は空間魔法意外の魔法は使えないのでござるが…」


ウール(ちょっと! どう思う?)

フォギア(どうって言われても…)

ウール(転移魔法なんて、お伽噺にしか出てこないような魔法よ? ちょっと信じられない)

フォギア(だが、実際にいまさっき、目の前で何度も見ただろう)

ウール(だいたい魔力量五千てなによ? まるで王宮で召喚した勇者……あ?!)

フォギア(…それだ! ギルマスが勇者と名乗る奴を連れてきてた…!)

ウール(でも勇者は既に王宮から迎えが来て、連れて行かれていたじゃない?)

フォギア(他にも居たんだよ!)


フォギア「…なぁ、ペキ! …くん…。お前、もしかして異世界から召喚された勇者なのか?」


ペキ「拙者は【勇者】ではないでござるよ。勇者はタイガ殿でござる」


フォギア「!」

ウール「やっぱり勇者なのね? 異世界から召喚された?」


ペキ「だから拙者達は勇者ではないでござる。拙者達は巻き込まれただけでござるよ」


マツ「あの~ペキさん、それは秘密にしようって言ってたじゃないですか」


ペキ「あ、しまったでござる…」


ウール「なんで秘密?」


ペキ「魔王との戦いに巻き込まれたくないでござる。それは【勇者】であるタイガ殿の仕事。拙者達はスローライフをしてればいいと言われたのでござる」


フォギア「それは…ストークは知っているのか?」


ペキ「ストーク殿とギルマスのスナフ殿には伝えたでござるが…、口止めはしてあるでござる」


フォギア「だが、さっきの戦いぶりを見れば……王は魔王との戦いに欲しがるだろうなぁ…」


ペキ「ごめんでござるよ。フォギア殿達も秘密にしておいて欲しいでござる」

ペキ「もし、秘密を守って貰えないなら…」


フォギア「…なら…?」


ペキ「……マツ殿、どうでござろう? ここで全員殺して拙者達だけ帰るというのは…? ゴブリン達に殺されたとギルドには報告すれば…」


フォギア「ちょ…!」



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