第34話 でかいでござるなぁ
集落の奥から
見ればウールもうまく躱したようだ。
ナイレンも高速回転斬りで火球を薙ぎ払う事に成功していた。ただ、火球は着弾した瞬間、爆ぜるように広がるので、その炎の余波を受けて軽症だが火傷を負ってしまっているようだ。回転する勢いである程度炎の勢いを弾いてはいるものの、完全に無傷とはいかないようだ。あまり大量に浴び続けるとまずそうである。
……くそ! 俺としたことが…!
冷静に考えれば、ゴブリンが焚き火をしていた時点で、火属性の魔法を使うゴブリンメイジが居る事に気づくべきであった。
さらに、集落の奥に、上位種が住むブロックがある事にも、もう少しよく観察していれば気づけたはずである。
さらに悪い事に、飛んできたファイアーボールは複数であった。つまり、ゴブリンメイジは一匹だけではないという事である。
ただ、さすがに魔法を連射はできないようで、すぐに次の火球が飛んで来る事はなかった。
魔法を使う相手と戦うには、魔法を打たれる前に接近して倒してしまう事である。
俺達の速度ならそれができる。
即座に火球が発射された場所に向かって走り出そうとした俺達だったが、その瞬間、無数の矢が飛んできて前進を阻まれた。
ゴブリンアーチャーも居るのか!
飛んでくる矢を剣で打ち払う。距離があり矢の速度もそれほど速くはないので十分回避・撃ち落としが可能である。
見ればウールも弓を振って矢を撃ち落としている。ただそうするために、矢を射る手は止まってしまっているが。
ナイレンはやはり高速回転斬りで矢を問題なく撃ち落としているようだ。
だが、そうしているうちに次の火球が飛んでくる。爆発する火球の被害を避けるため、さらに大きく逃げ回らざるを得なくなる。
くそ、思ったよりメイジとアーチャーの数が多い。
断続的に交互に飛んでくる矢と火球。
攻撃の切れ目に接近するも次の攻撃で後退を繰り返す事になってしまった。
「くそ! 一旦引いて態勢を立て直すぞ!」
だがその時、足に痛みが走った。
見れば、太腿に矢が刺さっていた……
「ちっ!」
機動力が武器の俺が足を止められるのは致命的だ。
すぐに治療しないと!
『ごぎゃ!ごぎゃあ!』
だがその時、集落の奥で何か雄叫びが聞こえた気がした。
その直後、俺に向かって火球と矢が殺到する。
ゴブリンの中に指揮官が居て、動きが止まった俺に的を絞って攻撃するよう指示したようだ。
咄嗟に俺は魔力を使って
ウールとナイレンは的を絞らせないよう走り回っていたので、俺とはかなり離れた場所に居る。
「早く行け!」
「でも…!」
「俺もすぐ行く! 新人も連れていけよ!」
俺は慌てて懐からポーションの小瓶を取り出した。
急がなければ…。
俺の
だが、もう少し持ちこたえられると思った俺の
その衝撃で、持っていたポーションがどこかに行ってしまった。
予備のポーションを取り出そうと懐に手を入れたが、それもどこかに行ってしまっていた。
……最悪だ。
くそう、高速移動による回避ばかりでなく、もう少し
降ってくる攻撃を転げまわるように躱しながら、俺は死を意識した。
「フォギア~!!」
ウールが悲痛な叫びをあげていた。
こうなったら俺が囮になって仲間と新人を逃してやる…。それくらいの責任は果たしてみせる…!
……みせれたらいいなぁ……
足を引き摺りながら転げ回って攻撃を避けるのも限界がある。
なけなしの魔力を使ってもう一度
殺到する火球と矢に万事休す、そう思った時…
…俺の前に立ち塞がる人物が居た。
「助太刀するでござるよ」
新人の片割れであった。確か名をペキと言ったか。
「バカ! 逃げろ!」
だが遅かった。殺到してきた火球がペキに当たる……。
だが、続けて起こるはずの爆発は起こらず。なぜか火球がすべて消えてしまう。
火球だけではない。飛んできた矢も全て、ペキに当たると吸い込まれるように消えてしまう。
何だ?! 何が起きている???
「さっさと治療するでござるよ」
ペキが後ろ手に
俺はそれを受け取ると、足に刺さった矢を抜きそこに半分掛け、残りを飲み干した。
あっという間に怪我が治る。これは…上級ポーションか!
ふと見ると、ゴブリン達の攻撃が弱まっていた。
見れば、ストームキャットが高速で敵陣の中を駆け回り撹乱している。
少し遅れてそこに殴り込む竜巻。ナイレンである。ウールも敵陣になだれ込み矢の高速連射でゴブリンを減らしていく。
あいつら、逃げろと言ったのに……
よし! 怪我も治ったし、俺も負けてられない!
俺は一気に集落の奥に走り込み、ゴブリンメイジとゴブリンアーチャーを切り刻んでやった。
「どうだ!!」
メイジは魔法使い、アーチャーは弓使いである。接近戦にはそれほど強くはない。混戦になれば、もはや力を発揮できないのであった。
『ごぎゃおぉぉ!』
だが、そこに地鳴りのような雄叫びが聞こえた。
そう言えば先程も遠隔攻撃を指揮している声が聞こえていた。
短期間にこれだけの規模の集落を形成するというからには、当然指揮官タイプの上位種が居るのも当然である。ゴブリンリーダーくらいは居るだろうとは俺も予想していた。
だが、それくらいならば俺達だけで十分対処できると思っていた。
だが、集落の最奥の岩棚に座っていたソレが立ち上がった時、俺は絶句した。
座っていたので分からなかったが、それは通常のゴブリンの数倍はあろうかという巨体であったのだ。
「ちっ……リーダーでもジェネラルでもなく、いきなりキングとはな…」
しかも、後方からウールの悲鳴が聞こえてきた。
振り返ると、更に二体、巨大なゴブリンが居た。ゴブリンキングは一体だけではなかったのだ。
「ほお、でかいでござるなぁ…」
その時、いつの間にか俺の横に来ていたペキの緊張感のない言葉が聞こえてきた。
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