第33話 Bランクの実力というのを見せてやろう
今日は休みだったのだが、ギルドのサブマスター、ストークに緊急で呼び出された。南の森でゴブリンが巣を作っている可能性があったので確認に行ってくれという。
機動力のある俺達にはギルドからよくこの種の指名依頼がある。
俺はフォギア。街ではちょっと名の知れた冒険者パーティのリーダーだ。
ただ、今回はいつもの依頼とは少し様子が違った。新人を二人連れて行けと言うのだ。それと、猫一匹。
と思ったら、どうやら猫のほうがメインらしい。巣の場所を知っているので、そこまで案内させるのだという。
……ゴブリンの巣が確認されているならさっさと殲滅に向かえばいいものを。さすがに猫の情報では不確定なので確認という事か…。
猫は新人冒険者の片割れの従魔だそうだ。そのため、主であるテイマーも一緒でないと、猫だけで案内させるわけにはいかないという。
だが……。
俺達の速度についてこれない新人など、間違いなく足手まといだ。
だいたい時刻はもう午後だ。これから行って帰ってくるのに、のんびり歩いていては間に合わない。日が暮れてしまえば街の門は閉じられて、翌朝まで開かないのだから。
ストークは特別に俺達が帰ってきたら通用門を開けてくれるよう頼んでくれると言っているが、暗くなれば危険が増すのだから、明るい内に帰ってきたほうがいいに決まってる。
断ろうとしたが、ストークに二人はそれなりに実力があるから大丈夫だと言われてしまった。ストークが新人に肩入れするのは珍しい。二人は訳ありという事か?
ストークに耳打ちされた。なんと、新人はダビル・ヴァイパーを倒したという。
こんな弱そうな二人が? いやいやいや、信じられない。
だが、ストークは冗談は言わない男だ。結局、ストークの命令を断る事もできず、二人を連れて行く事になってしまった…。
ストークは騙されてるんじゃないのか? とも思ったが、冒険者はハッタリでできる仕事じゃない。化けの皮ならいずれ剥がれるだろう。
俺達のパーティは【疾風】という。
メンバーは
俺、フォギア(男性、スカウト、Bランク)
ウール(女、ハーフエルフ、Bランク)
ナイレン(女、戦士、Bランク)
バーム(男、魔法使い Cランク)
の四人だ。
一人Cランクが居るが、パーティとしてはランクはBを認定されている。現在、この街にいる冒険者としては最上位ランクだ。
ダンジョンがあるこの街は、昔はAランクの冒険者がたくさん居た。だが、魔王が生まれたとかで、魔族と戦争が始まり、腕に自身がある奴、愛国心・義侠心のある上位ランカーはみんなそっちに行っちまった。
だが、全員行っちまうと街が手薄になるという事で、ギルマスに、俺達は残るよう言われた。
俺達はパーティ名の通り、足の速さ、機動力が武器だ。そのため、色々使い勝手が良いらしい。
俺は魔力を使って足を強化するのが子供の頃から得意で、走るのが速かった。しかもスカウト(斥候)という
スカウトとして冒険者を始めたが、冒険者のパーティ内でスカウトはそれほど評価が高くない。
雑に扱われるのが嫌で、俺はすぐにパーティを脱退した。ソロで活動するのはそれなりに大変だったが、足の速さを活かす事を心がけながら活動を続けた。
そのうち、同じ様に足が速い仲間が集まってきて、気がついたた今のパーティが出来上がっていた。全員、素早さが売りの連中だ。
速さは武器だ。単に逃げ足が速いだけじゃない。電光石火の活躍で俺達は順調にBランクまで昇級した。気がつけば街で最上位ランクの冒険者になっていた。(魔族との戦争が終わればAランクの冒険者達が戻ってくるだろうが、その頃までには俺達もAランクに昇格してやるつもりだ。)
* * * *
さて、仕方なく新人二人と猫一匹を連れて森へと来てみたが……猫を先頭に、その後をついていくという間抜けな構図だ。
猫はただの猫じゃない。ストームキャットという魔物だ。ストームキャットは風属性の魔法を操る強力な魔獣で、成獣になると、俺達でも追いつけないほどの速度で移動する。猫はまだ子供のようだが、走る速度には期待できるはずだ。
だが、おそらく主に合わせているのだろう、猫はのんびりゆっくり歩いているだけだった。二人の新人冒険者だって、ストークが実力を保証したのだ。俺達ほどじゃないにせよ、多少は期待していたのだが…。
俺達は、森を散策でもしているようにのんびり歩いている。
…こんなペースじゃ日が暮れちまう。
試しに猫を少し煽ってみたが、駄目そうなので放って置いて俺達だけで行くことにした。
元々案内など不要だったのだ。南の森は俺達も良く知ってる。大まかな場所だけ教えてくれれば俺達だけで十分な仕事だ。
ただ、ちょっと去り際に猫をもうひと煽りしてみたところ、猫がムキになって俺達を追ってきたのは意外だった。
さすがに子供とはいえストームキャット。あっという間に追いつかれ、追い越されてしまった。
新人二人を置いて行く事になるが、二人もストークが推薦する冒険者だ。ダビル・ヴァイパーを仕留めるほどの実力があるというのが本当なら、南の森程度でどうにかなる心配はないはずだ。
俺達も本気で猫を追う。徐々に距離が離されていくが、やがて猫が立ち止まった。どうやら目的の場所が近いらしい。
俺達も猫の隣に止まり、猫が手で差す方向を見てみると、たしかに、ゴブリンがたくさん居るのが見えた。
意外にも、残してきた新人二人もすぐに追いついてきた。なかなかやるじゃないか。ストークが実力があると言っていたのはどうやら本当かもしれないな。
俺はゴブリン達に気付かれないよう慎重に近づき観察してみたが、どうやらゴブリンの巣で間違いなさそうだ。木の枝を組み合わせ上に葉を乗せただけの簡素な屋根のようなものも見えている。広場中央には焚き火もある。ゴブリンやコボルト、オークなどの
本来なら、ここで引いてギルドに報告すれば仕事は終わりのはずだった。
だが、俺はここでちょっとだけ気まぐれを起こし、ゴブリンの集落を殲滅する事にした。
数は多いが、俺達のパーティならぎりぎりなんとかできる規模だ。
俺達のパーティは普段はあまり無理をしない方針なのだが…
新人が居る事で、つい、いい格好をしてみたくなってしまったのだ。ただの新人ではなく実力があるとストークに認められているというのも少し気に入らなかった。
Bランクの実力というのを見せてやろうじゃないか!
フォギア「お前達(ペキとマツとバリー)は隠れて見ていればいい。いくぞ、ウール、ナイレン、バーム!」
「「「おう」」」
俺は集落になだれ込む。ウールとナイレンも続く。三人とも魔力を使って身体強化して動きを高速化している。さらに後方に残ったバームが三人に高速化のバフを掛ける。
超高速で走り抜けながら、短剣でゴブリンを次々斬り伏せていく。ウールも短弓に次々矢を番え高速連射していく。まるでマシンガンである。ナイレンは片手剣の二刀流で、高速で回転しながら近づく敵を細切れにしてしまう、まるでミキサーである。
この調子なら、あっという間に集落の殲滅は終わる。そう思えたが……
その時、集落の奥から魔法が連射されてきて、俺は慌てて飛び退いた。
「しまった! 上位種がいやがったか!」
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