第29話 ファンタジーとは?

マツ「しかし、ファンタジーの世界という話でしたが、思いのほか、ハードですね…」

マツ「まさか人を殴り殺す経験をするとは思いませんでしたよ…」


ペキ「ファンタジーというのは実はリアルにすると残酷なものでござるよ」

ペキ「特に日本は平和でござったので、ギャップが大きいでござるが…」


ペキ「…それにしてもマツ殿、少しおかしいと思わんでござるか?」


マツ「…? 何がですか?」


ペキ「この世界に来て、いきなり魔物を殺したでござる。今も人を殺したでござるが、それにしては、精神的な動揺ショックがそれほど大きくない思うでござる。マツ殿もそれほど気にしているようには見えないでござるし」


マツ「言われてみれば……今までの私なら、人を殺したなんて、もっと狼狽えて震え上がっていたような気がします」


ペキ「思うに、この世界に送られた時……例えば身体が若返っていたでござる。それだけでなく、精神的な耐性も付与・強化されているのではないかと思うでござる…」


マツ「なるほど、身体だけじゃなく心も少し強くしてくれたという事ですかね」


ペキ「拙者、肉は好きでござるが…」


マツ「?」


ペキ「日本で動物を捌いて肉に加工するところを見学する事があって。その日は食欲がなくなってしまったでござるよ。でも、この世界では、魔物を解体しても食欲がなくなったりはせんでござる」


マツ「ああ、なるほど。私もそうかも?」


ペキ「まぁ、ありがたいことでござるが。オサムサンに感謝して、この世界で頑張って生きるでござる」


ペキ「ところで、マツ殿もバックラー以外にも武器を持つべきでござるかな、やっぱり…」


マツ「武器、剣とか?」


ペキ「とりあえず、コレを持っておくでござる」


ペキはバブスの持っていた剣を渡す。それを構え、振ってみるマツ。


ペキ「そう言えば…」


ペキは先程バブスに投げつけられたナニか? を収納から出して確認してみたのだ。


ペキ「先程投げつけられたのは、ナイフでござったか。手裏剣かと思ったら違ったでござる」


ペキは試しに木に向かって投げてみたが、横向きに当たって刺さらずに地面に落ちてしまった。


ペキ「はやり、練習が必要でござるな」


確か、投げナイフは刃の部分を持って、ちょうど目標に当たる時に刃が目標に向くように投げるはず。だが知識で知っていても簡単にできる事ではなかった。


ペキ「時間があったらまた練習してみるでござるね…」


とりあえず、ナイフは収納しておくことにした。他にも、ユクラ達の持っていた武器を収納しておく。剣三本と杖が一本。(一本はマツに渡した。)


ユクラ達は武器と小銭以外は他に何も持っていなかった。


ペキ「金に困っていたから強盗みたいな真似をしたでござるかね」


マツ「なるほど…」


ペキ「だからといって許される事ではないでござるが」


マツ「それにしてもペキさ、、自業自得とは言え、躊躇なく腕を斬り飛ばしてましたね? やはり精神的な耐性ができていたからですか」


ペキ「それもあるでござるが、地球と違ってこの世界には治癒魔法や魔法の治療薬があるから、あまり気にする必要はないかと思っているでござる。手足が切れても死ななければ簡単にくっつけることができる。まぁ上級ポーションが必要なようでござるが」

ペキ「なんなら、切れた手足がなくても、また生えてくる魔法や薬があるのは異世界あるあるでござるよ」


マツ「ほぉ、それは凄いですね!」


ペキ「知らんけど」


マツ「え?」


ペキ「……多分? あるんじゃないかと思うでござる」

ペキ「まぁ、そのような治療を受けるには、それなりに治療費が掛かるかも知れんでござるが、それは自業自得でござろう」


ペキ「…おや、また来たようでござる」


そこに、騒ぎを聞きつけてか、ゴブリンが六匹現れた。


ペキ「今度はマツ殿も一緒に殺るでござるよ」


マツ「は、はい…!」


ペキ「剣を使ってみるでござるか?」


マツは剣を抜いて構えてみたが…、再び鞘に戻した。


マツ「はい…いや、慣れない武器を使っても上手く扱えないと思うので、バックラーコレでやってみます」


ペキ「では。バリー殿も頼むでござる」

バリー「にゃ!」


ゴブリンが近づいてきた。


バリーの攻撃。


ゴブリン三体が倒された。


ペキの攻撃。刀を一閃すると、ゴブリンは豆腐のように切り分けられてしまう。


残るは二体。


ゴブリンの攻撃。棍棒をマツに向かって振り下ろしてくる。


ペキ「マツ殿! 前に出て受けるでござるよ!」


マツ「…はっ!」


慌てて一歩踏み出し、マツはゴブリンが振り下ろそうとしていた棍棒を止めた。


ペキ「そこで右フック!」


マツ「はいー!」


マツの攻撃。


マツのバックラーの棘がゴブリンの顔に突き刺ささり、ゴブリンは倒された。


もう一匹はペキに向かって棍棒を振り下ろしてきたので、それを収納して、マツのほうに蹴り飛ばす。


ペキ「もういっちょう! でござる」


マツ「はいー!」


マツの攻撃。


ゴブリンは倒された。


ペキ「なかなか良かったでござるよ」


マツ「おお、レベルアップしました」

バリー「にゃ!(自分もにゃ!)」


マツ「ステータス! レベルが5になりました!」


ペキ「パンチ力も上がったように見えるでござるね」


マツ「そうですね、力が強くなった気がします」


ペキ「しかし、おかしいでござるね…」


マツ「何がですか?」


ペキ「ゴブリンに遭遇する数が若干多い気がするでござる」


マツ「そうなんですか? 普通がどれくらいか私には分からないですが」


ペキ「まぁ拙者もこの森に詳しいわけではないゆえ分からんのではござるが」


ペキ「でも、もし通常よりゴブリンが多いとするなら、近くにゴブリンの巣ができていたりする可能性も、あるあるでござる」


マツ「なるほど…」


バリー「にゃ! にゃにゃぁおぅ」


ペキ「バリー殿? どうしたでござるか?」


マツ「バリーさんは、自分が周囲を見回ってくると言ってます。バリーさんもレベルアップしたようで、さらに高速な移動ができるようになったとかで、試してみたいとか」


ペキ「おお、バリー殿はストームキャット、風を操る魔獣でござったな。しかし、バリー殿が居ないとマツ殿の戦力が低下するでござるが」


するとバリーさんがペキに近づき、ポンと足に触った。


バリー「にゃ」


ペキ「にゃにゃ」


ペキ「拙者にマツ殿を守れと? なるほど了解したでござる」

ペキ「では、マツ殿は拙者がしっかり守るゆえ、偵察、頼むでござるよ」


バリー「にゃ!」


突風とともにバリーさんは猛スピードで駆け出して行った。


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